邪神に仕える大司教、善行を繰り返す

逸れの二時

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門出の予兆

未来への標

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 それから数日間、俺はひたすら魔物を狩り続け、ノエラはシビルから精霊魔法を習う日々が続いた。おかげで俺の【闇の領域ブラックホール】内にはかなりの魔物の素材と肉が集まったし、ノエラは急成長を遂げて基本的な精霊魔法の扱いを習得したようだった。

 毎日ノエラが作った食事を食べるのが楽しみになっていたし、魔物を狩っているだけとはいえ、こんな日々が続くのも悪くはなかった。

 だがシビルとの当初の約束は、ノエラが精霊魔法をあらかた習得するまでの間ここに住まわせてもらうというもの。ノエラが自力で成長できるようになった今、そろそろ森を出なくてはいけない日が近づいてきた。

 ここまで楽しい日々が続いていたが、それももうすぐ終わりだ。しかし終わりは始まり。別れもあれば出会いもある。変化を受け入れれば良いことも巡ってくるだろう。

 俺はそれを胸に、昼過ぎからシビルとノエラを交えて話し合いを始めた。

「ノエラの精霊魔法の修練も区切りがついたみたいだし、そろそろ森を出ないとな」

「そう……ですよね」

「寂しく思ってくれるのはありがたいことじゃし、ワシもノエラがいなくなるのは孫を失うようで寂しい。じゃが可愛い子には旅をさせよ。ここでワシの相手をしていてはノエラは本当の意味で自由にはなれんじゃろう」

「そうだな。俺も目的があるんだ。この森での生活も楽しかったけど、潮時だな」

「お前の目的は――いや、それは聞かないでおこう。どうせ碌なことではあるまい」

「おい」

「ともかく、この森を北に進めばデリサイ水郷を抜けて大都市ダロイに着くじゃろう。しばらく進んだら見えるニェベ山を右手にして進めば迷わず行けるはずじゃ」

「ノエラのいた村から離れるためにもそっちに行った方がいいな。ありがとうシビル」

「なに、礼には及ばん。ノエラのためじゃ」

「シビルさん。本当に良くしていただいてありがとうございました……!」

「ワシもお前さんがいてくれて助かったことばかりじゃったぞ。何よりここ最近の生き甲斐になっておった。ワシの年になると何事も張合いがなくなってくる。若い精霊使いの指導はボケ防止にも最適じゃったわ」

「それじゃあ今日は一泊させてもらって明日には発つか。ノエラ、大都市ダロイまでちゃんと送り届けるからな!」

「はい。よろしくお願いします」

「お前も今日はもう明日に備えて休んでおれ」

「あ、魔物狩ってこなくていいの?」

「お前が数を減らしてくれたおかげで大分楽そうじゃからな。しばらくはこの子だけで大丈夫じゃろう」

 シビルの肩にいる不気味な小動物が鼻先をヒクヒクさせている。小動物のくせに魔物を精霊魔法で屠ったのを見た時は驚いたな。三股の尻尾のリスみたいな見た目して実は超強いんだよな。

「それじゃあお言葉に甘えるか。最後になりそうな森の中を満喫させてもらうよ」

 そういうことで話し合いを終えて、俺は森に散歩に出た。ノエラも誘ったのだが、彼女は精霊魔法をもう少し教わりたいらしい。仕方ないな。

 その代わりといってはなんだが、アンヘルが一緒に付いてくる。俺は元天使と共に穏やかな森の中をゆったり歩きながら、美しい景色を惜しんだ。もちろん【闇の加護ダークブレッシング】は行使済みだ。

「はあ。この緑の景色ともお別れか」

「もっとここに居たかったのですか?」

「どうだろう。いたかった気もするし、そうでない気もする。何だかんだで居心地良かったんだけど、いろんな世界を見てみたい気持ちもあるんだ」

「そうですか。世界を見回るついでに信仰を広めていっていただけると嬉しいですね」

「そうだったな。マサマンディオスのために名前を広めないといけなかったな」

“よもや忘れておったのではあるまいな?”

「いや。忘れてたわけじゃない。最初こそ戸惑ったけど、こうして力を与えてもらって転移後は何だかんだ助けてもらってるから、きちんと約束は果たすつもりだよ。でもしつこい勧誘とかそういうのはやりたくないんだよ。相手の考えを縛ることはしたくないんだ」

“そうであったか。我も無理やり信者を増やすのは本意ではない故、それで構わぬ。だが我が汝に力を与えたというのは語弊があるな”

「え? この神力ってマサマンディオスが与えてくれたんじゃないの? 与えすぎて驚いてただけかと思ってた」

「そうではない。我は汝に知識と信仰の標を与えたのみ」

「えっと……どういうこと?」

「要はマサマンディオス様はその力の一端を扱えるよう許可されただけであって、その神力自体はサム様自身のものなのです」

「あーそうなの」

「元々この世界に存在していたわけはないのに、それほどまでの神力をお持ちであることの理由は私たちにもわかっていないのです」

「神様にもわからないこととなると完全に原因不明なんだな。……別にいっか。都合がいいし」

「そ、そうですか」

 わからないものは考えても無駄だ。特に神様が分からないって言ってるんだから俺にわかるわけがないもんな。

「あ、マサマンディオス。話ついでに聞いてもいいか?」

“何だ?”

「あの月のことだよ。原因を断たないと魔物が強力になったままだよな。どうすれば解決できるんだ?」

“今までの目的通り、我の名を“善い”意味で知る者を増やせばよい”

「それがどう解決につながるの?」

“我の名が知られれば、我の力も増大する。その力で月の力を弱めるのだ”

「今のままではできないのか」

「地獄と天界は離れすぎているのです。離れた場所から干渉するにはもっとお力が必要。しかしサム様の行いで名が広く知られれば、それもいつか叶うでしょう」

「俺頼りになるってことか。他の神官とか、四力を持っている人はどうにかできないの?」

「月の光は闇の力でないと抑えることはできないでしょう」

「なるほど。他の邪神に仕える神官には期待できそうにないし、俺がなんとかしないといけないのね」

「はい。サム様だけに頼るのも心苦しいですが、どうかお願い致します」

「事情はわかったし、俺ももうこの世界の住人だからできることはもちろんやるよ。でも今後どうするかは追って考えていいかな。今日はこの森との別れを惜しみたいからさ」

「ええ。そうしてください。私も森の美しさを目に焼き付けておきましょう」
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