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大都市を目指して
街の門前
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この木の魔物を倒したことで空いた通路を進んでいると、空が急に暗くなり始める。あっ、嫌な予感。俺がそう思った直後に頬に冷たい雨粒が伝った。
ここにきて雨かよ。なんで明日とかじゃないんだよ。全くもって運がないんだよなあ。俺はちょっと焦りつつ雨宿りができそうな場所を探していると、ノエラが精霊に何か話しかけているのが目に入る。
「私たちを濡れないように守って。お願い」
するとシトシトと降ってきた雨が俺たちに当たる前にすべて弾かれていく。まるで見えない障壁に守られているかのような不思議な感覚だ。すごいな、精霊の力を借りればこんなこともできるのか。
「なあなあ、ノエラ。それって全部シビルに教えてもらったのか? 本当になんでもできるよな?」
「シビルさんだけではなくて、精霊たちが私に教えてくれるんです。言葉ではないんですが……その、感覚のようなもので」
「精霊使いにしかわからない何かがあるんだな。ちょっと羨ましいよ」
「私もサムさんの奇跡が羨ましいです。魔物と互角以上に戦って、気配の感知もできて、物を空間に仕舞っておけますし」
「お互いを羨ましがってるのか。じゃあ、おあいこだな!」
俺たちはその後もお互い協力しながら、水郷の中を進んでいった。雨が降ってきてから大体一時間くらい。綺麗な水郷も終わりに近づき、右斜めに見えていた山が真右になった。
そしてそのまま進んでいけば、パッと木々の茂る森を抜けて、小高い丘に出る。どうやらこれで水郷は終わり。ここから先は街への道のりだ。あまり時間もないだろうから、急がないと暗くなっちゃうな。
「もうひと踏ん張りだな。ノエラ、頑張れるか?」
「はい。街までもう少しですから」
ノエラの良い返事が聞けたところで、俺たちは丘を下りて草原に出る。街道は一応整備されているので、そこに沿って大都市に向かう。ただ、森と大都市ダロイ間の道はあまり人通りがないのか、雑草が街道まではみ出してきている。
これが水没すると歩きにくいなと思っていたのだが、思ったより雨はすぐに止み、快晴とはいかないまでもそれなりに良い天気だ。このあたりは割と温暖な地域みたいだが、曇ってくると涼しい感じだ。草原にも魔物がいることはいるが、どれもパルーサの剣撃だけで簡単に片が付く。
神力の力が宿っているパルーサならそれで倒せば魔物が復活することはないが、道端に魔物の死骸を放置していくのは気が引けたので一匹一匹律義に消滅させていった。
唯一ヒヤっとしたのが狼らしき生物の群れで、数が多いとノエラを守り切れるか心配だったが、ノエラ自身の風の攻撃が炸裂して難を逃れた。確かに彼女が自衛を全くできなかったら困った事態になっていたかもしれない。
攻撃魔法もきちんと教えたシビルと、それを使いこなしているノエラには感謝だな。そんなこんなでペースよく歩いているとようやく大都市ダロイに着いた。道中何度か魔物に襲われたが怪我がなくてよかった。
治せるとはいえ、俺の回復系の奇跡は体に悪そうだからな……。
やってきた大都市ダロイはきちんと石材の防壁の張られた立派な街で、山から流れている川を引いているようだ。どんな街並みか気になって早速中に入ってみたかったのだが、硬い扉の前にいた門番にあっさり止められてしまった。
「通行証をお見せください」
「初めてこの街に来たもんで通行証をもっていないんだけど、もしかして入れなかったりするか?」
「旅のお方ということでしょうか。手続きをすれば入ることは出来ますが、税金がかかります。お一人様パタス金貨一枚です」
門番がパタス金貨一枚と言った途端に、後ろのノエラが息を呑むのが聞こえた。パタス金貨一枚は大体十万円くらい。確かにかなりの高額だ。街に入るだけなのにそんなにするんかよ。いけずだな。
「半年間の税金を含めた金額となっております。分割して払っていただくこともできますが、税金の滞納がパタス金貨三枚分になりますと鉱山で働いていただくことになりますのでお気をつけください」
「わかったよ。一括で二人分、パタス金貨二枚な」
俺が躊躇いなく腰巾着から金貨を出そうとするとノエラに素早く止められる。何? 目が必死なんだけど。
「サムさん、私のことは気にしないでいいですから……」
「なんで。ここまで来たのに入らないつもりなの? お金のことは大丈夫だから」
「あ……でも」
「何も心配いらないから、お兄さんに任せておけって」
俺は再度パタス金貨二枚をサッと門番に差し出した。彼は慣れた手つきでそれを受け取り、俺たちを門の横に設置された物見櫓の方に案内した。ここで周囲の警戒兼、事務的な処理をしているようだ。
櫓のなかには沢山の兵士らしき人たちが詰めており、ものすごい緊張するんだが、何か悪さをしたわけでもないので堂々としていることにする。
さっきの門番に連れられてやってきたのは櫓一階の奥の部屋で、執務台の椅子に座っている女の人の前だ。門番は彼女に俺たちが旅人で、俺から税金の支払いを受けたことを話して持ち場に戻っていった。
女の人は軽く笑顔を作って俺たちにようこそと声をかけてから、何やら書き物をして書類を渡してくれた。それは通行許可の申請書で、そこのテーブルで必要事項を記入して持ってきてほしいと言われた。
ここにきて雨かよ。なんで明日とかじゃないんだよ。全くもって運がないんだよなあ。俺はちょっと焦りつつ雨宿りができそうな場所を探していると、ノエラが精霊に何か話しかけているのが目に入る。
「私たちを濡れないように守って。お願い」
するとシトシトと降ってきた雨が俺たちに当たる前にすべて弾かれていく。まるで見えない障壁に守られているかのような不思議な感覚だ。すごいな、精霊の力を借りればこんなこともできるのか。
「なあなあ、ノエラ。それって全部シビルに教えてもらったのか? 本当になんでもできるよな?」
「シビルさんだけではなくて、精霊たちが私に教えてくれるんです。言葉ではないんですが……その、感覚のようなもので」
「精霊使いにしかわからない何かがあるんだな。ちょっと羨ましいよ」
「私もサムさんの奇跡が羨ましいです。魔物と互角以上に戦って、気配の感知もできて、物を空間に仕舞っておけますし」
「お互いを羨ましがってるのか。じゃあ、おあいこだな!」
俺たちはその後もお互い協力しながら、水郷の中を進んでいった。雨が降ってきてから大体一時間くらい。綺麗な水郷も終わりに近づき、右斜めに見えていた山が真右になった。
そしてそのまま進んでいけば、パッと木々の茂る森を抜けて、小高い丘に出る。どうやらこれで水郷は終わり。ここから先は街への道のりだ。あまり時間もないだろうから、急がないと暗くなっちゃうな。
「もうひと踏ん張りだな。ノエラ、頑張れるか?」
「はい。街までもう少しですから」
ノエラの良い返事が聞けたところで、俺たちは丘を下りて草原に出る。街道は一応整備されているので、そこに沿って大都市に向かう。ただ、森と大都市ダロイ間の道はあまり人通りがないのか、雑草が街道まではみ出してきている。
これが水没すると歩きにくいなと思っていたのだが、思ったより雨はすぐに止み、快晴とはいかないまでもそれなりに良い天気だ。このあたりは割と温暖な地域みたいだが、曇ってくると涼しい感じだ。草原にも魔物がいることはいるが、どれもパルーサの剣撃だけで簡単に片が付く。
神力の力が宿っているパルーサならそれで倒せば魔物が復活することはないが、道端に魔物の死骸を放置していくのは気が引けたので一匹一匹律義に消滅させていった。
唯一ヒヤっとしたのが狼らしき生物の群れで、数が多いとノエラを守り切れるか心配だったが、ノエラ自身の風の攻撃が炸裂して難を逃れた。確かに彼女が自衛を全くできなかったら困った事態になっていたかもしれない。
攻撃魔法もきちんと教えたシビルと、それを使いこなしているノエラには感謝だな。そんなこんなでペースよく歩いているとようやく大都市ダロイに着いた。道中何度か魔物に襲われたが怪我がなくてよかった。
治せるとはいえ、俺の回復系の奇跡は体に悪そうだからな……。
やってきた大都市ダロイはきちんと石材の防壁の張られた立派な街で、山から流れている川を引いているようだ。どんな街並みか気になって早速中に入ってみたかったのだが、硬い扉の前にいた門番にあっさり止められてしまった。
「通行証をお見せください」
「初めてこの街に来たもんで通行証をもっていないんだけど、もしかして入れなかったりするか?」
「旅のお方ということでしょうか。手続きをすれば入ることは出来ますが、税金がかかります。お一人様パタス金貨一枚です」
門番がパタス金貨一枚と言った途端に、後ろのノエラが息を呑むのが聞こえた。パタス金貨一枚は大体十万円くらい。確かにかなりの高額だ。街に入るだけなのにそんなにするんかよ。いけずだな。
「半年間の税金を含めた金額となっております。分割して払っていただくこともできますが、税金の滞納がパタス金貨三枚分になりますと鉱山で働いていただくことになりますのでお気をつけください」
「わかったよ。一括で二人分、パタス金貨二枚な」
俺が躊躇いなく腰巾着から金貨を出そうとするとノエラに素早く止められる。何? 目が必死なんだけど。
「サムさん、私のことは気にしないでいいですから……」
「なんで。ここまで来たのに入らないつもりなの? お金のことは大丈夫だから」
「あ……でも」
「何も心配いらないから、お兄さんに任せておけって」
俺は再度パタス金貨二枚をサッと門番に差し出した。彼は慣れた手つきでそれを受け取り、俺たちを門の横に設置された物見櫓の方に案内した。ここで周囲の警戒兼、事務的な処理をしているようだ。
櫓のなかには沢山の兵士らしき人たちが詰めており、ものすごい緊張するんだが、何か悪さをしたわけでもないので堂々としていることにする。
さっきの門番に連れられてやってきたのは櫓一階の奥の部屋で、執務台の椅子に座っている女の人の前だ。門番は彼女に俺たちが旅人で、俺から税金の支払いを受けたことを話して持ち場に戻っていった。
女の人は軽く笑顔を作って俺たちにようこそと声をかけてから、何やら書き物をして書類を渡してくれた。それは通行許可の申請書で、そこのテーブルで必要事項を記入して持ってきてほしいと言われた。
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