邪神に仕える大司教、善行を繰り返す

逸れの二時

文字の大きさ
40 / 117
神への誠意

慈愛の神官たち

しおりを挟む
 人様が必死に隠していること、というかまだ大っぴらにしてほしくないことをそれなりの大音量で口走った男。誰ですかあなたは。そしてなんてことしてくれるんだ! 

 俺は徐々に俺と神の名を広めたかったのであって、いきなり邪神なんて言ったら刺激が強すぎるでしょうが! 

 ノエラも俺の腕に掴まって怖がっているし、いきなり何なんだこの男は!? 頭の中で軽くパニックになりながら、俺は何とか神官の男に返事をする。

「ここで話すのは気が引けるんだけど……別場所にしないか?」

「なぜだ? 人様に顔向けできないようなことをしてるからか?」

「はあ? なんのことを言ってるかわからないけど、そんなことはしてないぞ」

「ふん。邪神の神官のくせによく言うな」

 俺たちが口論まがいなことをしていると、新たに一人の女性神官が後に続いてやって来る。腰まである長い銀色の髪に、それをまとめる銀のサークレット。そして高等な緑の司祭服を纏った凛々しい感じのお姉さんは、俺たちの口論の場に辿り着くと真っ先に男の神官を窘める。

「平民街の一角にも拘らず一体何事ですか。よほどの事情があるのでしょうね?」

「この男は邪神の神官です。詳しいお話は昨夜したでしょう? あの親子の話に出ていた張本人ですよ」

「なるほど、この方が。ですがいきなりその態度は失礼でしょう。恥を知りなさい」

「……すみません」

 口では謝ってはいるものの、男には反省の色が全然見えない。口元が曲がっているのが良い証拠だ。

 それよりもコイツ、あの親子と言ったか。もしかして宿屋で治療した親子のことかな。……ああ、だから邪神の神官だってバレてるのか。

「旅の神官様、この者が大変失礼致しました。しかしながら、こちらとしましても邪神の神官と名乗る方を放っておくわけには参りません。どうかお話を聞かせてはいただけないでしょうか?」

「ああ、はい。話ならいくらでもするけど、あなたたちは誰?」

「そうでしたわ! 申し遅れました、わたくし慈愛の神カウォンガワ様に仕えております司教のセレーヌ・ミアネステと申します。そしてこちらが神官のブランドです」

 ブランドは軽く胸に手を当てて礼をするが、顔が俺を睨んだままだ。全く、いきなり絡んできた上にその態度かよ。神官のくせにこの不届き者がっ!

「俺は今は邪神になってるマサマンディオスに仕える神官のサム。こっちは精霊使いのノエラな」

「よろしくお願いします」

「サムさんにノエラさんですね。まずはわたくしたちの神殿にご案内しますのでこちらへどうぞ」

 俺たちは銀の髪のお姉さん、もといセレーヌに連れられて、平民街から上の方にある神殿街に向かった。

 邪神と言う単語を何度か聞かれたせいか、平民たちの目線は尊敬が混じったものからチクチク痛いヤツになっており、これではさながら犯罪者たちを連行する綺麗な司教様って感じの絵面になっている。辛い。

 そうして苦痛の街歩きを披露すること数十分、神殿と名の付く大きな白い建物に到着した。神殿街には三つほど神殿があったが、中でもその存在が大きそうなのは目の前にあるこの神殿だ。

 純白の立派な柱に支えられた大きな建物は、緑色の線で彫られたレリーフで細かく装飾されている。さらに中央の屋根の上には大きな紋章が描かれていて、それも緑の衣服を纏った神秘的な女性が描かれていた。

 俺は荘厳な景色に目を奪われていたが、セレーヌとブランドに押し込まれるような形で神殿の中に案内される。中も神秘的で蝋燭の明るい炎が白い壁を照らしているが、それを眺めている暇もなく奥の部屋に通された。

 ちなみに悪魔姿のアンヘルは、神聖な場所の神殿に入っても途中で弾かれたり、翼が焼かれたりすることはなかった。元天使はセーフらしいな。

 少々お待ちくださいとセレーヌはブランドを置いて、俺たちをテーブルと椅子だけがある部屋に取り残し出て行く。何だか尋問室みたいで居心地が……。

 さっきまで口げんかまがいなことをしていた男と同じ部屋になっているし、相当気まずい空気の中、俺は何だか面倒になってくつろぐことにした。そこにあった椅子に座ってテーブルに腕を乗っけて組む。
 
 ノエラにも心配しないでと声をかけてから同じように椅子に座らせて、どんな調理器具が必要か話を振った。その俺たちの会話を聞きながらも、ブランドは一応空気を読んで黙っている。

 そうして少し待っていると、セレーヌが戻ってきた。司教と言っていたから割と立場が上の人なんだろうし、大司教や他の神官に事情を話していたのだろう。彼女はふうっと自分を落ち着かせるように息を吐いてから俺に話を聞いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...