邪神に仕える大司教、善行を繰り返す

逸れの二時

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降りかかる火の粉

告白

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 言いたいことは言ったし許してあげてもいいが、謝るのにその態度は何とかした方がいいな。まず睨むのはやめなさい。

「許してやるから、睨むのはやめてセレーヌを呼んできてくれ。大事な用事なんだ」

「……わかった」

 ブランドは言いたいことがありそうながらもグッと堪えて部屋を出て行った。謝罪にはあんまりな態度ではあったが、突っ張るのも色々大変だろうし、今は許してやろう。そのまま待つこと一時間くらい、セレーヌが慌てた様子で部屋にやってきた。

 待っている間はノエラと話をしていたので、そんなに長く感じなかった。話題はブランドのことだったり、セレーヌのことだったりだから退屈しなかったし。

「お待たせして申し訳ありません。先約に思ったよりも時間をとられてしまいまして」

「いや、アポなしで会ってくれるだけでありがたいよ」

「セ、セレーヌさん、実は私のことでお話が……」

 ノエラは自分のことだからか俺よりも先に用件を切り出そうとした。彼女の口から言うには辛いだろうに健気な子だ。セレーヌはその雰囲気を感じ取ってか、優しく微笑み、わかりましたと穏やかに告げた。さらに俺たちが椅子に座ってから話し始めるまで待っていてくれる。

「この話は内密にしてもらいたいんだ。よほどのことがない限り他言無用ということで頼む」

「わかりました。そういったお話を聞くのも神官の務めです。必ず約束はお守りします」

 セレーヌのしっかりとした口調にほだされてか、ノエラは自然に、かつゆっくりと身の上を話し始めた。

「私は……ウナンベサスの村の名家、クラーセン家の……次女なんです。ですが――」

 その後はずっと辛い話が続く。家事や雑用をすべてやらされ、汚い子供だと罵られて、住まわせてやってるだけありがたいと思えと感謝を強要される。義理の母親にはさらに酷い扱いを受け、魔術の訓練台にされたこともあったそうだ。

 長男と長女には目の仇にされ、変なものが見える狂った女だと言われ続けたらしい。話だけでも胸が苦しくなるのに、実際に自分がこんな扱いを受けたらどんな思いになるか。きっと地獄に違いない。しかもそんな扱いをしていたのが他でもない家族だ。虫唾が走る。

「そうだったのですね……。想像を絶するほどお辛かったことでしょう。ノエラさん、話してくださってありがとうございます。わたくしには完全にあなたの苦しみを理解することは残念ながら叶わないかもしれませんが……それでも、わたくしもカウォンガワ様もあなたのことを力の許す限りお守りしましょう」

「マサマンディオスも俺も守るからな。それにノエラは守られるだけじゃない強い女性だ。魔物にだって一人で立ち向かったんだからな。だからもし戦うなら俺たちも一緒だぞ!」

“ふむ。我も本当に必要とあらば手を貸そう。現世に及ぼせる力は強くはないが、魔術を扱うとはいえ人間如きならたやすいであろう”

「ええ。この不肖アンヘルめもお助け致します」

「……っ。みなさん……ありがとう、ございます……!」

 みなさん? とセレーヌは首を傾げた。カウォンガワもいるとはいえ、この部屋には俺とセレーヌしかいないことになっている。セレーヌにしてみれば不自然なのだろう。しかも俺には精霊が見えていないから、ノエラにはもっと助けてくれる存在がいるだろうな。

「実はノエラにもマサマンディオスとその天使が見えてるんだ。俺の奇跡の効果なんだがな」

「まあ。直接神の寵愛を受けられるならば、わたくしなんかよりもずっと心強いですわね」

 セレーヌはふふっとささやかに笑った。何だかんだ神の声が直接聞こえたり、天使が視えたりすることは自然に受け入れられていた。
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