ジュエル・キス

椎奈風音

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ジュエル・キス

第三話

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「……君さ、名前なんて言うの?」
「え?慎吾しんご……」
「へぇ、慎吾ね。じゃあシンだね。僕はスイ。よろしくね」
「……はぁ?」
 何故、兄貴のセフレによろしくされるのかわからないが、もう会うこともないだろう相手に問いただすのも面倒だ。
 このままスルーしようと思っていた俺は、男がにやりと笑ったことに気付かなかった。

「ねぇ、シン。……油断してると、食べちゃうよ?」
「は!?」

 グイッと引き寄せられて、唇が重なる。
「……っ!?」
 まさかこんなことをされると思ってなかった俺は、抵抗するのも忘れて、男にされるがままになっていた。
(なんで、俺キスされてるわけ?)
 この人、兄貴のセフレだよな?
 本当に誰でもいいわけ?

 俺が抵抗しないことをいいことに、唇から相手の舌が入ってきて、思う存分貪られる。
 濡れた音が聞こえ、どれだけ濃厚に絡み合っているのかわかる。
(……この人、めちゃめちゃ上手い……っ)
 俺だってそれなりに経験を積んでいる筈だが、この人には敵わない。
 なんだか頭の芯が、ぼんやりしてくる。

 ……このままじゃ、立ってられない……。

「!?」
 グイッと首根っこを掴まれて、男から無理矢理引き剥がされる。
「お前は何やってんだ?」
 地を這うような声が聞こえて、俺はその場で固まった。
 後ろを振り向くのが怖い。

 ……兄貴がめちゃめちゃ怒ってる。

 そりゃそうだよな。
 いくら相手がセフレだといっても、自分より劣る弟を誘う姿を見ればいい気はしないだろう。
 だけど、今回は完全に不可抗力なんだけど、そんな言い訳聞いてもらえるわけないよな……。

「残念。丁度いい所だったのに」
 ペロリと唇を舐める男は妙に色っぽいが、俺としては背後の兄貴が怖すぎてそれどころじゃない。
「お前、それは俺に対する挑戦か?」
 いやいや。
 兄貴に喧嘩を売る勇気があれば、もっと人生楽に生きてますから!!
 言い訳をしたいが、後ろから羽交い絞めにされている今の状況じゃどうしようもない。

「さぁ?どうとでも。でも僕、シンのこと気に入っちゃった。……だから、覚悟してね」
 妖艶に笑う男は美しいが、これ以上兄貴を煽らないで欲しい。

 それに覚悟ってなんだ?
 ……兄貴に半殺しにされる覚悟をしろと?
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