4 / 5
4
しおりを挟む
「あちゃー、こんなことってあるのかー。そうかー。あるかー」
双眼鏡で向かいのビルの窓から見えるターゲットを観察していた。
ビルが立ち並んでいるここは、直射日光が入ることはなく、幸いにもカーテンやブラインドはついていなかった。
街の喧噪とは別に、予期せぬ騒音が穏やかな精神状態を邪魔してきた。
「お宅誰からの依頼?もしかして同じ人じゃないよね?ちょっと待ってもしかしてのもしかして?
だったら俺仕事しなくても…いやいやしねぇと俺の報酬が」
「静かにできないのか」
「なんだ、いくら騒いだってあそこにゃ届かないぞ」
「俺が困るんだ」
「あー、仕事中だもんな。でもそれ、双眼鏡で銃じゃないよね?狙撃しようとしてないよね?狙撃ならまだしもさ。双眼鏡だったら別に」
ため息をつき、双眼鏡から男に視線を移す。
出で立ちは黒ずくめで俺と同じだ。そして片手にはライフルを持っている。同業者だ。
「少しは隠れたらどうだ」
屋上で人目に触れづらいとはいえ、隣にはターゲットがいるビルが建ち、びっしりと窓が並んでいる。誰かがもしかしたら屋上にたたずむその姿に気づくかもしれない。
「ああ、それはそうだな。で?誰?誰狙い?」
男が屈みながら、横に来る。
「邪魔だ」
「邪魔って言われてもさあ。俺も仕事だし。ライフル片手にプライベートでこんなとこ来ると思う!?どんな趣味だっつーの」
よく喋る男だ。
「で、誰?どこの窓?俺はさ、えーっとね、一番左端の窓から横に7つ目、そっからひーふーみー……1、2、3…8個目の窓だな。あ、ちょーど誰かいるじゃーん」
そういうとうつ伏せになり、俺と並んでライフルから窓を覗く。
「8つ目か。そうか」
それにしてもいろいろとこの男は邪魔だ。隣にかなり接近してきているし、なにより先ほどからうるさい。
「え、ちょっとまって、やだ。なにその言い草。うそでしょ。もしかして?やっぱりもしかして?誰から?ってか誰狙い?言っちゃいなよ。誰狙いか言っちゃいなって」
完全にふざけているとしか思えない。同業者だが、同業者とは思いたくない。こういうやつがなぜこの仕事をしているのかわからない。新人ではなさそうだが、これで仕事ができているというのか。
「同じ窓を狙っているんなら聞く必要ないだろ」
「同じ窓なの!?やっぱりそうなの!?ちょっとー、依頼人ちょっとー。えー、終わりやしたーっつって帰ろうかな。やってくれるんでしょ。誰だか存じないけども。ななしさんが。じゃあ俺いらないよねえ。ななしさんやってくれるんだしさあ。まさかターゲット被るとか」
本当によく喋る男だ。
「ちょっと一発ターゲットの眼鏡でも、ついでに割っといてくれれば。ねえ」
「眼鏡?」
「下の方だけに縁があるやつ。グレーのスーツきてピッシー七三分けのさ、なんだあのザ、インテリは!?ってならなかった?」
「ターゲットの名前は聞いているのか」
「名前は確か、な、な、中宮だ」
「そうか」
「えっなに!?その反応なに?」
「お前はお前の仕事をしたほうがいい」
「あれ?ターゲット違うの!?同じじゃないのかよ。じゃあダメだ。絶対まだ撃つなよ。一発で二人仕留めてくれない限りはだめだ。一発放ったら俺のターゲットが警戒して逃げちゃうよ」
「別のとこでまた狙えばいいだろ」
「一番ローリスクな場所がここだったんだよ。おたくもそう思ったからここにいるんでしょうが」
「俺は俺の仕事をする。お前は好きにやればいい」
「俺が俺のターゲット先に撃ったら、おたくの狙ってる人に逃げられちゃうよ。ってかさ、ちなみに誰?俺は秘書だよ。社長秘書。女じゃなくて男だ。中宮っていう秘書」
「…秘書か」
「俺が俺の仕事やっても影響ないの?俺仕事早いよ?やっちゃうからね。ほーらちょうどいい位置に」
男が撃つ準備を始める。
「俺はやるっていったらやっちゃうんだからね。おたく優雅に双眼鏡で眺めてるみたいだけど、俺はもうやっちゃうよ?いいの?いいの」
よく喋る男が仕事を先に終えて帰ってくれれば、俺の精神状態も含めてとても助かる。だが仕事としてとなると状況は異なる。
「ちょっと待て」
「ほらあ、やっぱりまずいんでしょ」撃つのをやめる。
「おたくが先に仕事をすると俺が困る。俺が先に仕事をするとおたくが困る。っていうことはよ。これはさ、まあまだ出会ったばっかりだけどさ、この状況からしてさ」
「わかった、組もう」
こいつの喋りを止めるには俺が先に結論を言わなきゃいけないと、この短期間で学んだ。
双眼鏡で向かいのビルの窓から見えるターゲットを観察していた。
ビルが立ち並んでいるここは、直射日光が入ることはなく、幸いにもカーテンやブラインドはついていなかった。
街の喧噪とは別に、予期せぬ騒音が穏やかな精神状態を邪魔してきた。
「お宅誰からの依頼?もしかして同じ人じゃないよね?ちょっと待ってもしかしてのもしかして?
だったら俺仕事しなくても…いやいやしねぇと俺の報酬が」
「静かにできないのか」
「なんだ、いくら騒いだってあそこにゃ届かないぞ」
「俺が困るんだ」
「あー、仕事中だもんな。でもそれ、双眼鏡で銃じゃないよね?狙撃しようとしてないよね?狙撃ならまだしもさ。双眼鏡だったら別に」
ため息をつき、双眼鏡から男に視線を移す。
出で立ちは黒ずくめで俺と同じだ。そして片手にはライフルを持っている。同業者だ。
「少しは隠れたらどうだ」
屋上で人目に触れづらいとはいえ、隣にはターゲットがいるビルが建ち、びっしりと窓が並んでいる。誰かがもしかしたら屋上にたたずむその姿に気づくかもしれない。
「ああ、それはそうだな。で?誰?誰狙い?」
男が屈みながら、横に来る。
「邪魔だ」
「邪魔って言われてもさあ。俺も仕事だし。ライフル片手にプライベートでこんなとこ来ると思う!?どんな趣味だっつーの」
よく喋る男だ。
「で、誰?どこの窓?俺はさ、えーっとね、一番左端の窓から横に7つ目、そっからひーふーみー……1、2、3…8個目の窓だな。あ、ちょーど誰かいるじゃーん」
そういうとうつ伏せになり、俺と並んでライフルから窓を覗く。
「8つ目か。そうか」
それにしてもいろいろとこの男は邪魔だ。隣にかなり接近してきているし、なにより先ほどからうるさい。
「え、ちょっとまって、やだ。なにその言い草。うそでしょ。もしかして?やっぱりもしかして?誰から?ってか誰狙い?言っちゃいなよ。誰狙いか言っちゃいなって」
完全にふざけているとしか思えない。同業者だが、同業者とは思いたくない。こういうやつがなぜこの仕事をしているのかわからない。新人ではなさそうだが、これで仕事ができているというのか。
「同じ窓を狙っているんなら聞く必要ないだろ」
「同じ窓なの!?やっぱりそうなの!?ちょっとー、依頼人ちょっとー。えー、終わりやしたーっつって帰ろうかな。やってくれるんでしょ。誰だか存じないけども。ななしさんが。じゃあ俺いらないよねえ。ななしさんやってくれるんだしさあ。まさかターゲット被るとか」
本当によく喋る男だ。
「ちょっと一発ターゲットの眼鏡でも、ついでに割っといてくれれば。ねえ」
「眼鏡?」
「下の方だけに縁があるやつ。グレーのスーツきてピッシー七三分けのさ、なんだあのザ、インテリは!?ってならなかった?」
「ターゲットの名前は聞いているのか」
「名前は確か、な、な、中宮だ」
「そうか」
「えっなに!?その反応なに?」
「お前はお前の仕事をしたほうがいい」
「あれ?ターゲット違うの!?同じじゃないのかよ。じゃあダメだ。絶対まだ撃つなよ。一発で二人仕留めてくれない限りはだめだ。一発放ったら俺のターゲットが警戒して逃げちゃうよ」
「別のとこでまた狙えばいいだろ」
「一番ローリスクな場所がここだったんだよ。おたくもそう思ったからここにいるんでしょうが」
「俺は俺の仕事をする。お前は好きにやればいい」
「俺が俺のターゲット先に撃ったら、おたくの狙ってる人に逃げられちゃうよ。ってかさ、ちなみに誰?俺は秘書だよ。社長秘書。女じゃなくて男だ。中宮っていう秘書」
「…秘書か」
「俺が俺の仕事やっても影響ないの?俺仕事早いよ?やっちゃうからね。ほーらちょうどいい位置に」
男が撃つ準備を始める。
「俺はやるっていったらやっちゃうんだからね。おたく優雅に双眼鏡で眺めてるみたいだけど、俺はもうやっちゃうよ?いいの?いいの」
よく喋る男が仕事を先に終えて帰ってくれれば、俺の精神状態も含めてとても助かる。だが仕事としてとなると状況は異なる。
「ちょっと待て」
「ほらあ、やっぱりまずいんでしょ」撃つのをやめる。
「おたくが先に仕事をすると俺が困る。俺が先に仕事をするとおたくが困る。っていうことはよ。これはさ、まあまだ出会ったばっかりだけどさ、この状況からしてさ」
「わかった、組もう」
こいつの喋りを止めるには俺が先に結論を言わなきゃいけないと、この短期間で学んだ。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる