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3rd

Scared

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見えていたのは、黒い霧、それだけだった。
そして剣が触れ、裂いたのも霧だった。

だけど感触があった。光が黒い霧に触れた時、確かに霧ではないものを斬ったのがわかった。

-ガアアアアアアア

声と共に霧が形を成し、そしてまた消えていく。
俺が霧を、フォグ状態の魔物を斬ったのだ。倒せた!

動揺したのか、他のまだフォグ状態であった魔物が姿を現す。
今はもう何も怖くない。
フォグだろうがなんだろうが、全部俺がこのけ「っしゃあああああああああっ!!!!」

「え」

風の音だったのか、人の声だったのかもわからないほどの音と突風に思わず足を止める。
一瞬の突風が去ったと思えば、もう目の前の魔物はすべて倒されていた。

「っしゃああああっ。見えたらこっちのもんや!さっきの仕返ししてやったでぇ!」

風の走った先、案の定槍をブンブン回しながら叫ぶセトの姿。

「おい、風、おろせ」
見上げればすぐそばの建物の上にはノアの姿があった。どうやらあそこから二人で俺の様子を見ていたらしい。「ああ待って待って」

ブワンと音がなるとまたセトが目の前から消え、また次の瞬間にはノアと共に俺の前にいる。
「よくやった。上出来だ」
ノアがさらりと言う。
「あ、ああ」
俺が倒したの今の一体だけだけどな…。
「これで任務果たせたあ。あーちゃんありがとう」
セトがにっこり笑って両手で握手してブンブン振る。
「あ、ああ…」
なんか、すごいやる気出たところだったのに、やる気の使いどころなくなっちゃったっつーか…。



「ああ勇者様、やっぱりあなたは素敵な勇者様だわ」

シナのいる施設に魔物討伐が完了したことを告げると、シェリーナが飛びついてきた。

「みんなは?」ノアが聞く。
「無事。なんとか、ね」
シナが苦笑いしている。
「無事で当たり前でしょう。小娘なんかより私の方がよっぽど役立つわ。ねぇ勇者様」
「え?あ、ああ…」
そうでもないなんて言ったら殺されそうで怖い。
「…街の人たちも海に落ちそうで危なかったんだよね」
「なんか言ったかしら?」「あ、いえいえ。何も」
シェリーナ怖えええ。まぁ一応仲間とはいえ、シェリーナだってセイレーンっていう魔物だしな…。
「ああ素敵な勇者様に歌を」「ああっそれはいいそれはいい。大丈夫大丈夫」

「ああよかった」セトが背伸びをする。「これもみんなのおかげやなぁ。ありがとう」
「待て。お前にはもう少し付き合ってもらう」
「え。…えええ!?俺の任務終わったよ?」
「アヴェリアに魔物がなぜ多いのか、何か掴んでいるだろう?
私たちより先にこの街について探索していたと思うんだが」

「ああ、ほんなら北のほうに洞窟?の入口みたいなのが」「案内しろ」

「いやでも俺もう帰らへんとねーちゃんにも怒ら」「案内しろ」

「ほら、俺の任務はここの魔物の一掃であってその後の調査はノ」「案内しろ」

「でも行けばすぐわかるし…」「案内しろ」

「…でもノアちゃ」「案内しろ」

「……」「案内しろ」



「……ハイ」





---

「ノアちゃん、いいの?セトさん連れてきちゃって」
「ここは強力な魔物も現れると聞いている。せっかく戦力になるやつがいるのにあっさり帰してはもったいないだろう?それに
そもそもフォグ状態の魔物に手こずって時間をかけ過ぎて、勇者様の手を借りることになっているんだ。私たちの手伝いをするのは当たり前だろう」


「…ノアちゃん、怖いよな」
「うん」
「シナちゃん以外、めっちゃ怖いよな」
「うん…」
「俺の任務、終わってんねんで?俺の仕事、門番なんやで?なんでこうなるん…。あーちゃんどうにかしてよ」
「無理」
「…だよな」

怖いのはシェリーナだけじゃなかったと二人で噛みしめる。

それから。

怯えながらセトと共に、怪しい洞窟の入口があるという街の北へ向かうことになった。

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