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 その場で動ける者に残った魔力で回復をさせ、一層の警備を緊急配備解除までお願いした。
 なお怪我した者達は治療に専念と指示をだして重症の者から応急処置として上級の回復魔法をかけると憶良達三人は魔力枯渇をしつつ渋い顔で行政府へ移動した。

 三人と元隊長らは最前線で戦っていたのだ。
 中軽傷含む怪我をたくさんしていた為にその場で元幹部らで治療をしてくれていたのだが、彼らの顔が晴れることはなくそのまま緊急会議になったのだった。

 軍人もとい戦闘要員を含め国民を助けるつもりならあそこまで壊滅状態になる前に手段はあったのではないか。
 なぜあのタイミングでの発動だったのか。

 発動するまでにはあまりにも犠牲が大きすぎた。



 ――死亡者・十四名、重軽傷者・五十七名――



 憶良は会議の後、自分の気持ちを抑えきれずにガンッと思い切り壁を殴った。
 それは一発ではなく、何発も……。
 最終的には皮が破れて血が出るほどに――。
 
 壁には憶良の血が付き、痛みを感じていないのか何度も何度も叩くその姿を最後に会議室から出た海行と月宮が目にし、慌てて憶良を抑え込むという事件が発生した。

「オーちゃん、何してんの! あぁ、こんなにして……」

 壁を攻撃しながら自分を責めていた憶良も徐々に落ち着きを取り戻し、月宮は血で真っ赤なその拳をあえて魔法ではなく消毒液という原始的な治療をしながら注意という小言を何度も浴びせた。
 そして海行は憶良を抱きしめてポンポンと背中を優しく撫でてあげていた。

「人がたくさん亡くなったのを間近で見たんだものね……。良いんだよ、泣いて……。死に慣れるより全然いい。抱えきれない思いは泣いて出した方がきっと楽になれるはずだよ。今は亡くなった皆を弔おう? ……ね?」

 優しく、優しく、諭すように言われ、月宮も何も言わずに頭をそっと撫でていた。



 あぁ、そうか……。俺は泣きたかったんだ――。
 魔力が多いといっても助けられなかった。守れなかった。
 悔しさと、後悔と、懺悔……。

 ごめんなさい、守れなくて……。ごめんなさい、助けられなくて……。
 どうか、どうか、彼らが進む先に光の加護があります様にーー。



 静かに流れ出た涙はそっと海行のシャツに滲みこんでいった。

 亡くなった者には哀悼の意を、そして今日みたいな出来事はもう起きないように心の中で平和を願った――。





 だがソレは天に届くことはなく、毎日ではないものの国に大きさや強さ関係なくモンスターの襲撃はやってきた――。

「もぉ、我慢できない!」

 モンスターを倒した後の毎日のような緊急会議。憶良はそういって席を立った。さすがに何度も襲来するモンスターに行政の責任問題となりつつあり、軍所属の者達の士気すら低下をしている。

「……それで、どうするつもりなの?」

 冷静に月宮が声をかけるとその方向へ顔を向けた。

「現宰相、副宰相、近衛隊長、魔導隊長、そして前宰相と前両隊長で女王に会いに行きましょう。残りの方々はまた大型モンスターが来ないか警戒をお願いします」

 そうして憶良達は女王の部屋まで足を運ぶも蛻の殻で、彼女はどこにいるのだろうかと城(行政府深層部)を探し回り、最終的にこの国の心臓部と言われる場所が残るのみとなっていた。
 皆と手分けをして部屋を汲まなく探していたので、全員がその場に集まるのはほぼ同時。

 ドアを開けようと手をかけると中から何か声が聞こえてきたので、全員様子を見ることにしたのだった。

「――――――ッ!」
「――――……」

 各々がドア、壁越しに聞き耳を立ててもその会話をすべて聞き取る事は出来ず、再度ドアを開けようと手を伸ばすと同時に中から大きな物音が聞こえた。

「……オーちゃん、なんか俺……。嫌な予感がする……」

 海行の言葉通り、皆の顔も不安そうにしている。
 理由を挙げるのならば、部屋の中から聞こえた物音の後、会話も全て途絶えていたからだった。

 憶良は一度全員を見まわしてから静かに頷いてからドアを開けた。





 広いその部屋は中央に大きな球体がプカプカと漂うように浮かんでおり、その下に大規模な機械が置いてある。
 それは国の周囲を覆う壁の発生装置で、初代宰相と女王の作ったものだとされているのだが、その装置の少し手前に女性が二人いた。

 しかしそれを見た憶良達は唖然としてしまった。

 親子ほどに離れているだろう二人は少女が床に背をつけ、その体を跨るように乗っている女性が少女の首を絞めているのだ。
 助けるために誰よりも早く行動した憶良は瞬間移動すると二人を引きはがした。

「捕らえろっ!」

 少し遅れて到着した月宮達が暴れる女性を捕らえるのを確認すると、そのまま憶良は横になったままの少女を抱きかかえた。









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