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シャフツショウドク?
しおりを挟む朝食後、グレン達が討伐に行く前に俺は声をかけた。
「グレン。少し良いか?」
「うん? どうしたんだい?」
昨夜から気になって仕方ないことを確認しあうつもりで話始めた。するとグレンも同じ考えだったことを告げられた。なんでも朝、起きたときにルカに時計の見方がわからないと言われたらしい。この時計は珍しいどころか、この国だけではなく世界中で普及しているものだ。
ルカには記憶がない。
うん、確かに記憶がないのかもしれない。辻褄はあう。でも今朝の様子を見ると食品などの知識などは自分達よりも上なのかもしれない。一部分だけ記憶が消えることはあるのだろうか……。現在普通に生活するのに必要なものは記憶からごっそりと抜けていて偏りが生じている様なのだ。先程の一人用の風呂だってそうだ。貴族でも珍しいソレをコイツは何処で使用したんだ。胡椒だって庶民には手が届かない代物だろ……。
「えっと、つまりなんだ? ルカは他国で貴族だったかもしれない?」
「わた──俺はそう思っている。俺達と何ら変わらない丁寧な言葉遣いは教育をされたからだろう。ただ腹の探りあいみたいな会話を一切しないところを見ると社交もしない地方の男爵家なのかもしれないとは思うが──」
昨夜、パタリと倒れてその場で眠ったルカは土の上ではなく隣にいたグレンの膝の上に倒れた。ソレはもうスヤスヤと安心したような顔でまるで妖精か天使のようだった──。確かにこの面子のなかでグレンが一番強い。見た目や話し方で王子のようだと称されるが団長ポジションは伊達ではない。この実力主義の第四騎士団の団長なのだ。
弱いわけがない!
そして外は可哀想だから私も休ませてもらうよ。おやすみ──と言うなり、グレンは寝ているルカを抱っこしてテントに連れ帰ったのだが──。確かに貴族なら理解出来る部分はある。贅沢をしていたかは不明だが、食べ方は綺麗。しかも肌も髪も平民のそれとは違う。綺麗なのだ。下手したら高位の貴族よりも──。
ルカは少し表情が少な目だがきっとここに来るまでに色々あったのだろう。でも本来は素直な性格らしく実はかなり顔に出ている。ミルクを飲んだときにホワッとした笑み。頭を撫でられたとき驚くものの嬉しそうにしている。その顔が見たくて俺もグレンもアンドレアだって撫でまくっているのだ。ただ、今ここに一人でいると言うことは誰かがルカの幸せを奪ったと言うことに他ならない。
「あー、ゼノ? その殺気はしまいな? みんな怖がってるし、ルカもなにか感じ取ったのか遠くで辺りをキョロキョロ見回してるよ? 本当に貴族の子息かと思うくらい周りの空気を的確に捉えて、敏感に反応する子だね」
「悪い。なんか、押さえきれなかったわ……。ルカの幸せを奪ったやつマジ殺すか……」
「だから、しまえっ! 気持ちとしては俺も同じだけどな……。とりあえず、ルカは誰がなんと言おうと俺の権限で王都に連れていく。そして慣れるまでは俺の傍においておく。──例え生活に慣れたとて私はルカを手放す気はないですけどね」
そう言ってグレンはまた優しい王子に擬態してルカに近づいた。なにか話をするとそのまま抱っこして落ち着かせてから頭を優しく撫でている。人嫌いの癖に珍しくスキンシップが多いと思ったらルカを狙ってたのか、アイツ……。
──まじか。
それはそうと、もし数人の侍従しかいないこの野営地で盗賊や山賊。別の売人が襲って来たら──。そう思うと仕事に手がつかない。この程度の仕事なら俺がいなくても誰だって出来るだろう。俺は側近を呼んでこの場に残ることを伝えると彼は一瞬だけルカを見てから頷いた。
「わかりました。ルカは可愛いですからね。他の売人に目をつけられて手薄の時に大勢の輩に襲われたら侍従だけではもしかしたら対処出来ないかもしれませんものね」
う、うん……。そうなんだけどさ? なにその生暖かい目……。そんなことを思いつつ、団長(グレン)や側近達が去ると野営地はとても静かだった。肝心のルカは朝、グレンに教えてもらった時計を見て指折りしている。昼までの時間を確認しているのだろうか。侍従達も片付けをしながら微笑ましくルカを見守っていた。
やべぇ、可愛い。
そして時間の確認が終わったのか、今度は近くの雑草をツンツンしたり、ブチッと千切ってはクンクンと香りをかぎ、そこら辺の木をポンポン叩いたり、虫を枝でツンツンしている。
うっ……。小さい子の確認作業みたいでマジ可愛い!
次に興味を引いたのか何故か一心不乱にオレンジの実を集めている。しかもいっぱい取っているせいで持ちきれずにシャツの裾を持ってカゴ代わりにしていて、その姿は女の子がスカートに花や木の実を貯めている姿みたいで実に可愛い。シャツには既にたくさんの実があるくせにまだまだ欲しいのか背伸びをして片手を思いきり伸ばしているが届かないらしく、手伝ってやろうと背伸びしてフラフラしているルカの体を支えるために引き寄せてから取れない位置にある実を取ってやった。
「ゼノさん、ありがとう。いっぱい取れました!」
「いや、これくらいならいくらでも手伝ってやるよ。んで、ソレはどうするつもりだ?」
質問をすると楽しそうな顔で煮沸消毒をしてからカラッカラに乾かすんですよ~! と当然と言わんばかりに答えられた。
シャフツショウドクってなに。
ルカは侍従の一人に魔法で水をもらうと、火にかけて沸かしていた。グツグツと沸くと同時にそこに先程の実をドサッと躊躇もなにもなく入れて茹で始めた。
あぁ、シャフツって沸いた湯で煮ることか……。じゃあ、ショウドクってなんだ?
そんなことを思いながら見守るとザルを借りて離れたところで湯を捨てている。そして戻ってくるなりザルを地にはつけないように台の上において日光に当てていた。何をしているのかを聞いたら天日干しと答えられた。太陽の力で乾燥させるのだと……。なので魔法で乾燥させたら良いと言ったとき、いつになく目が輝いて俺に飛び付いてきた。簡単に説明をしてやるとさらに目を輝かせていたので見本とばかりに乾燥をしてやった。それも本人が希望する水分が全くないカッサカサに……。緑の目をキラキラと凄く輝かせて乾燥したものを見ているのだが──。
お前、さっきからちょっと所ではなく可愛すぎないかっ!?
てか、ルカ。お前、そろそろ気がつけ? 俺の両足を跨ぐようにして対面で座ってるのに……。会話もなにも聞こえない場所にいる奴等からしたら誘ってるように見えなくもない体勢なんだからな? コレ……。
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