裏側・クソゲーの異世界で俺、どうしたらいいんですか?

けいき

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秘密の特訓

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 ゼノの家にしばらく滞在することになった初日。

「ねぇ、兄さん。まだ起きてる?」
「ヤト? まだ起きてますが、ヤトも寝ないとダメですよ?」

 ヤト。彼の本当の名前はナイトリンガーという16歳の第四王子殿下だった俺の弟になる予定の人。幼い頃にパーティで出会ったときのまま、やる気はなさそうなのに目は相変わらず曇らずキラキラしている。俺からしてみれば彼もまた可愛い弟なのだ。血は繋がらないが最愛の弟であるルカからしてみたら彼は他の誰よりも頼れる兄。それが最初、受け入れたくない事実だったのは否定しない。まぁ、今はこんなにも仲良しで、ライバルというよりも共有者といったところなのだろうか……。俺は自分とヤトの間でスヤスヤと寝ているルカの頭をそっと撫でた。

「ちょっとルカを抜きにして二人で話したいことがあるんだよね」

 とは言え、ベッドの周りはヤトが落ち着かないからと周囲を魔法の壁で覆っている空間なのでフットベンチに俺とヤトは座った。

「ちょっと試作品なんだけどさ……」

 そう言って手渡されたのは旅の時にヤトが目覚ましに使っていた厚めのプレート。色味が若干青くなったソレをそっと手渡された。

「俺さ? すごく嫌な予感がするんだよね」
「ヤト? 申し訳ないがそのヤトの言う嫌な予感と、このプレートを渡されることに理由と言うか何も結び付かないんだが……」
「俺ね? ルーに関してのみ勘が当たるんだよね……。でも、一番大事なときに俺は間に合わなかった。俺の目の前で、俺の腕のなかで、守りたかったルカは死んだ。俺はルーを守れなかった。もうそんな思いは嫌だ。あんな生きながら死んでるみたいなそんな日々は嫌だ。だから、兄さんがいれば俺が一人増えるようなものだから今度こそルーを……。ルカを守る」

 決定事項のような言葉に一瞬息を飲んだ。殿下は、いやヤトは本気なんだと──。

「だからもしものためにコレ渡す。そう言うわけで使い方を兄さんはちゃんと覚えて……。ルーが寝たら毎日教えるから……。コレ、たぶん誰にも見せない方が良いヤツね? パパさんにもママさんにも誰にも……。俺と兄さんの秘密──ね」

 ソレからというもの短文を送る練習をしている訳だが、コレは本当に便利だと思う。例えば敵地に攻め入る時に部隊を別けるときの連携するときに便利だろうし、後方部隊への指示も自らできる。あぁ、でも騎士団は脱退したから意味ないか……。
 ヤトがいうには短文を送る機能はメールというらしいのだが、画面の表記はチャットなのだと言う。えーっと、どっちなの? 聞きたいけど聞いてもわからなそうなのでここは敢えて「そうなんですね」と言ったが聞いた方が良かっただろうか……。たぶん、これはヤトやルカのいた文明のものなのだろう。これがこの世にあったら仕事も随分と楽なはずなのだ。
 ブーンブーン……と小さな音を立ててプレートが震える。えっと、画面と言うのだろうか。そこにはヤトからの短文が書かれていた。

「はっ!?」

 思わずヤトを見つめてしまった。しかしヤトに冷静な、そして小さな声で練習も兼ねてるから返事は打ち返す……と言われた。………………あー、そうだった。すぐ側でルカが寝ていたんだった。しかし画面に目を向ければそこに書かれた文字に目を疑ってしまうのは仕方ない。

【ねぇ、アンドレアさんってさ? ゼノさんの事、好きなの?】
【アンドレアにそう言ったことを相談されたことも、他の人からの噂話も聞いたことありませんが? なぜそう思ったんです?】

 せっせとまだ慣れない文字の入力をして返事をするとすぐに返事が戻ってきた。いやね、その。何なのだろうか……。ヤトのその速い返事は……。そして返ってきた文章を確認するとそこには【えー? でも馬車の中でゼノさんを熱っぽく見つめてたし、隣にずっと座ってたし? しかも一緒のベッドに寝てなかったっけ?】と……。うん、確か俺とヤト、ルカが一緒に寝てるのに俺らが伸び伸び寝るのは申し訳ないとか言って一緒に寝てたような……。えっ、えっ!? まさかの口実だったの? ゼノと寝るための口実だったの!? え、あのアンドレアが?

 あのアンディがっ!?


   ◆


 そんな懐かしい事を思い出しつつ、静かな家、部屋で俺は一人で居る。

「グレン様」
「食事は全てこの部屋へ。ソレが無理ならば食事は不要です」

 困った顔をした侍従を「出ていけ」と無言で廊下へポイッと追い出すと部屋には自分一人きり。もう自分でやることに慣れてしまったお茶を淹れ、ソファーにドカリと座る。
 一緒に旅をして来た家族達は全て祖父母付きにされ、祖父母に付いていた者は父上、母上、俺の監視も含めて交換となった。乳母のローラ達侍女は祖母付きになったがそつなくこなし、言われたことしかしない木偶と影で言われていたか……。まぁ、母上の髪は旅の間で自分で出来るようになったから、髪は艶々のままなのは良かったのかもしれない。王都に居た者全てが少なからず……。いや、かなりルカの恩恵を受けている。体を綺麗にするだけだったクリーンの改善や、個々の能力に応じた魔法の改善。特に生活面だ。
 しかし祖父達はそんなルカを追い出したから全員が結託してなにもしないことを選ばせた。つまりはある種のボイコットである。おお元締めはきっと俺。なんと言うべきなのか、父上や母上はわからないが皆がボイコットしたのだから俺も似たようなことをしておくべきだと判断し、この部屋に父上と母上。ローラ達以外を立ち入らせるのを拒んだ。率先して美味しくもない食事をとらないことを心配した父上が、夜だけこの部屋にきて一緒に食事を取るのを祖父からもぎ取ってきたと笑っていたのが最近のニュースだろうか。もぎ取るって勝手に来れば良くないか? と思わないでもない。でもこんな生活を我慢できているのはルカに付いていったヤトからの定期連絡があるからだ……。
 しかし、住む場所を見つけた報告から数ヵ月。ここ最近の連絡事項は何だか楽しそうだ。植えた野菜の種から芽が出たよ~とか、ボートで釣りしたよ~とか……。2人の現状は殺したいくらいに充実した生活だと言うことだろうか──。

「はぁ……。ルカとデート出来ませんでしたねぇ……。父上も、俺も……」

 自嘲気味に呟くとボーッと天井を見つめた。


 ルカ、今すぐ君に会いたい……。

 ルカをギュッと抱き締めたい。

 あの可愛い笑顔が見たい。


 何よりもルカを愛したい──。





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