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妾じゃなくても……再び?

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 今現在、エメラール領の領都の道と言う道を真夜中にも関わらず攻撃し、プレスする時の振動が建物に及ばないように結界で囲っての作業を繰り返している。

 コレに至る経緯は簡単に言えばアラン様にお願いされたのと、お礼の品に心惹かれたからに過ぎない。コレばかりは私欲である。じゃって、魅力的だったんじゃもん……。無期限の好きなときにダンジョンで討伐して良い権利。アラン様は妾が転移できるのを知っているから討伐だけなら入領手続きしないでも良いと約束して、しかも権利書と言うお手紙も書いてくれると約束してくれたのだ。
 そう、つまりは牛のステーキと同等の魔物肉を増やせるのである。

 ぐふふ、アメジール領の魔物肉ジビエ専門店にステーキ登場も近い。アンジェリア様、美味しく調理してください! ーーなのじゃ。

 まぁ、そんな感じで欲に負けたから今の現状なのだが、側にはちゃんとアラン様がいる。妾は真夜中なので大丈夫だとは思うが見られないようにフードつきのローブを羽織り、怪しい子供の姿の魔導士風。因みにコレは父上の希望。「リアちゃんは世界一可愛いのに有望だから悪い人に目をつけられたら大変!」と半ば脅しのようだった。アラン様も何故か同意とばかりに頷き、2対1。そして箝口令を敷いた状態でデモンストレーションのように見せた最初のプレス加工を見た人たちも仲間となり、大多数対1で妾は渋々怪しい人みたいな格好をしていた。

 なんかもう……。よくわからない可愛いと言う戯れ言? 誤魔化し? ーーに慣れてきたと言うか……。まぁ、良いや。

 それにしても魔法は大声で言う人が多いが、妾は無詠唱。バレるのは嫌だから小声で魔法を唱える。声の大きさ=魔法の強さでは決してないと思うが、魔法を唱える人は何故か大声なのは何故だろう? 俺、魔法使えるんだぜ? 的な自慢なのか? 愚弟よ……。妾、初級魔法でドヤったお主の顔と言うよりも行動は忘れないからな? 安心したまえよ……。

「『岩の雨ロックプリュイ』『大気圧アトモスフェール』」

 先程からコレの繰り返しである。さすがに飽きてきた。そしていまだ湖に行けてないし、畑の改善もしていない。やるべき事が多すぎる気がする。

 …………あれ? 妾、なんかやる気に満ちてたけど他領なのに何でじゃろ?

 いや、本気まじで急に我に返った。そしてこれまた何でじゃろ? アールが非常に恋しくなってきた……。この作業はアールと一緒にしていたからだろうか……。お父さんその2に会いたいのじゃ……。

「リアちゃん。メインの通りが綺麗になったから今日はもうお休みしようか……ってなんで泣いてるの……。どうしたの? なにかあったの? パパのとこに行こうか……。帰ろうね」

 アラン様は慌てた様子でハンカチで拭ってくれたのだが何故か急にホームシックになった妾の涙は止まらず……。帰るにも歩みが遅く、魔法を多用していた妾のために抱っこしてくれた。屋敷につくまで背中を撫でたりポンポンしてくれたが眠くなるだけでホームシックはなおらない様子だった。

「お帰りなさいま…………」
「うん、ただいま。フローライト様、居るかな」
「先程目が覚められまして今はサロンにおられます」

 抱っこしたままサロンへ進むとフローライトは何かの書類を見ながら紅茶を飲んでいた。

「おや? 随分と帰りが早かったね……ってなんで抱っこしてるの?」
「いや、なんか急に泣き出してね……。早めに切り上げたんだ」

 床に下ろされると一目散にクリスタリアはフローライトに走って抱きついた。

「リアちゃん。どうしたの?」

 抱き上げられてなだめられるとまた瞳に涙が溜まり始めた。

「……あ、なるほど。あの作業はルノーとしてたから恋しくなっちゃったのか……。うんうん、それはそうだよね……。よし、リアちゃん。ルノーを呼んじゃいなさい。名前呼べばきっと来るから……」
「ふえ……。あーりゅぅ……。ひっく、ひっく……。アールぅ~……」

 名前を呼ぶと更に恋しくなって涙を溢しまくっていると部屋に慌てた様子の人がやって来た。上着はちゃんとボタンを留めていなく、でもだらしなくはない。長い髪は一纏めにした状態だった。

「ちょっ! 何? 何なの? こんな泣き声で呼ばれたこと無いんだけどっ! ああっ! やっぱり泣いてる! クリス、どうしたの?」
「あ、やっぱり来たか……。地獄耳め……。ルノー、リアちゃんがホームシックになっちゃったみたい。でも、理由の半分はお前のせいだから責任もって一緒に作業して?」

 フローライトはニッコリと笑みを見せるが恐怖すら感じる圧を放出させていた。意味がわからないルノアールはとりあえずクリスタリアを受け取って宥めていると経緯を説明してもらった。

「んーと? つまりはクリスと一緒にアメジールの開拓みたいに道を綺麗にすれば良いの?」
「その他にも湖の掃除と畑の改善。水路作成とか色々かな」
「本当にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。お……」
「あ、止めて? 俺、ただの学校経営者でクリスの教育係なだけだし」

 いつのまにか眠ってしまったクリスタリアの背中を優しくポンポンしているとフローライトは側に置いてあったマントを掛けてやった。

「お礼は無期限のダンジョン探索なんかで本当に宜しいのでしょうか……。作業の内容とお礼の差がありすぎて……」
「ん? そんなに気にするならリアちゃんに大量の粘土質の土をプレゼントしてあげれば喜ぶよ?」
「あぁ、確かに……。最近手持ちが少なくなって欲しがってたもんね……。何を作る予定なんだろ……」
「確か、屋根を作るのじゃ~っ! って言ってたよ? ルノー、何の屋根だと思う? 俺は嫌な予感しかしない。領民の暮らしが便利になればなるほどあの領の異常さが際立つんだけど……」

 フローライトの言葉にルノアールは思い当たることがあったのか合わせていた視線をはずした。そして説明をするとフローライトは頭を抱え、アランも無言のまま驚きを隠せずにいた。

 ルノアールが言うには実はクリスタリアは極度の面倒くさがりで、尚且つ領民が喜ぶならすぐにでも取り入れようとしてしまう世間知らず。いや、世間を知っているわりには一般的な常識が時おり抜け落ちているため、やらかしてしまう。
その言葉にフローライトも思い当たることがあったのか以前父の日のプレゼントでくれた指輪を見つめていた。

 そして今回の『屋根』は傘のようにひどい雨の時に出せる街を覆う屋根ではないかと推測した。フラワーフェスティバルの時は魔法で作り出していたが出した本人が眠ってしまうと消えてしまうため、時おり激しい嵐が猛威を振るうアメジールの街はその爪痕の修繕が大変なのだ。何せ人は寝る生き物だ。徹夜は出来るがそれが数日となると無理がある。フェスティバルの時は治りかけていたときだったから起きていてもよかった。では、高熱が酷いときに屋根が必要となった場合、どのくらいの時間を維持できるのか……。

「俺達は、領民もだけどリアちゃんを心配するけど、リアちゃんは領主として領民の生活を守ろうとする……って事だね? そして下手に人がたくさん亡くなると領民の感情がリアちゃんに向いたりもするだろうね……。うん、屋根欲しいって言うよね~……」
「クリスは自分で作ってきたって思いが強いからね……。ほら、海に行ってさ? 砂浜で城を作る遊びあるでしょ? 大きな波にさらわれて崩れたら悔しくない? 似たような感覚なんだと思う」








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