戦場の天使がこんなおっさんなわけない

MONGOL

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1 おっさん戦場へ行く

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 あ、これ異世界転生ってやつだ。と気付いたのは、5歳の誕生日に前世の記憶を思い出した時だった。
 前世でラノベを読みかじっていた俺は、ここで勘違いをしてしまった。

 この知識をフル活用してこっちの世界でのし上ってやると。実現不可能な野望なんて持つもんじゃない。
 それでも小さい頃はまだ順調だったんだ。

 前世分の知識というアドバンテージがあったから、稀代の天才だと当時はおおいに持て囃された。
 こうして俺は周囲の賞賛や期待に応えるため、さらに頑張り立派な長い長い、それはながーい鼻を持った天狗になった。

 伸びきった天狗の鼻をバキッとへし折られたのは飛び級で入った王室魔導研究所に入ってすぐのことだった。
 俺の短い栄光の時代はあっけなく幕を閉じた。

 そこでは俺ごときではとうてい足元にも及ばないほどの天才、奇才がわんさか溢れかえっていた。
 俺の躍進はここで終了だと思わせてくれた同僚の一人、フランジュールことフランは、同い年でありながら俺よりもなんと五年も早く飛び級してきた本物の天才だった。

 いったい何日このラボにいるのか分からないが、だいたいいつも薄汚れた格好で今も机に齧り付いてなにかの研究にのめり込んでいる真っ最中らしい。
 そんなことはなにもフランに限ったことじゃない。俺だってここ最近忙し過ぎて、三日に一度宿舎に風呂と着替えを取りに帰れればいい方で詰めっぱなしだ。

 研究者が大半をしめるラボだが、彼らは日夜研究だけを行っているわけではない。
 彼らの自由意思に任せておくと誰も研究以外を行わない為、厳正なるローテーションで研究その他の雑事を行う組に分かれて業務を回している。
 回って来る雑事の一部には魔道具の整備修復が含まれており、一般的な魔道具とは扱いの異なる主に軍事的な利用を目的とされる特殊な魔道具を持ち込まれる。
 それらの一般的な魔道具との違いは多岐にわたるが、このラボの研究者たちが開発したものであり国が秘匿している技術のため、修理などの雑事であってもまわされてくるのである。

「すみませーん。修理依頼の追加分を持ってきました。じゃ、ここに置いときますね」

 ここまで荷物を運んできた兵士がそそくさと立ち去っていく。
 雑然としたフロアの片隅に積み上げられた魔道具の山を見て、自然にため息が出た。

「だぁーーークッソ!!!ただでさえ忙しいこの時期に作業を増やしやがって、脳筋どもはなに考えてんだ!」
「しょーがないよ。なーんにも考えてないんでしょ」

 ボサボサの頭を振り乱し突然奇声を上げる俺に、周囲はとくに反応を示さない。そもそもここの住民の大半は他人に興味がない人種しかいなかった。

「この魔導具一つの修理にどれだけ時間かかってると思ってるんだ!!直した側から速攻でぶっ壊して返してくんじゃねえっつーの!このままじゃいずれ死人が出るぞ!?」

 言ってる側からバターンと派手な音を立てて誰かが倒れ「誰かコイツを魔導安眠寝袋あれン中に突っ込んでやれ」と言うのんびりとした声が聞こえてきた。

魔導安眠寝袋ねむリン』と言うのは、俺がここに入ってから考案した魔導具で、回復促進機能付きの上に、寝ている間に全身マッサージまでしてくれる優れモノの寝袋で、仕事に追われめったにベッドで寝られない俺たちの救世主とも言える発明品となった。
 その上さらに我がラボの天才たちが本気を出して改良した結果、瀕死の重症者でさえ治せる医療用魔導具と化し、今では軍でも採用されているほどである。
 天才パネぇ。

 そんな便利なもんが出来たおかげで、なおさらここの連中の引きこもり率は爆上がりした。
 そんでもって、過労で倒れた奴は誰かしら近くで発見した奴が魔導安眠寝袋に突っ込んでやるというのが新たなルールとなったというわけだ。

「このままじゃダメだ!まずは兵士の意識改革が必要だ!」

 鼻息荒く立ち上がった俺に注目が集まる。

「また変なこと言い出しはじめたな」
「今度はなにするつもりだ?」

 珍しくこちらに興味を示す周りの面々を見渡し、滔々と改善点を語りまくった。自分の考えを語るときに思わず早口になるのは昔からの癖だ。「ほうほう」「一理あるな」「再考に値する」などといちいち同意してくれる同僚たちにのせられて思うさま語り尽くした。



 その結果───



「てことで、言い出しっぺのお前が行け」
「死ぬんじゃねーぞ」
「生きて帰って来いよ」
「餞別にこれを持っていけ」

 あれよあれよという間に戦場に赴くことが決定した。よりにもよって最前線にである。
 気付いた時にはすでに滞りなく全ての手筈が整っていた。
 俺は同僚と上司に上手いこと嵌められたのだ。

 俺の語った具体的な改善案とは、使っているところをじかに見ること。
 そして、そこから導き出されたことを重点的にこれから改善していくというものと、誤った使用方法を指摘し指導するというものだった。
 どちらも戦場で行わなければならないことではないはずなのだが、実地で行うことに意味があると熱心に推したのはあろうことか自分だった。
 自分で自分の首を絞めるとはこのことか。

「私が貴方を守る盾となりましょう」

 胸に手を当て厳かに宣う騎士は、これから戦場に赴く俺の護衛をかって出てくれた若者だ。
 日に透けて輝くブルーアイズ。白に近い白銀の髪は光を反射して目に眩しい。鋭く鋭利な眼差しは柔和に細められており、普段であれば近付き難い雰囲気を薄めている。
 髪の色と揃いのプレートメイルは彼の存在感を存分に引き立て、見る者に感嘆のため息を誘う。

 そのお奇麗な顔に戦場の血なまぐささは似合わないなと、俺は場違いなことを考えていた。



ーーーーーーーーー



「大げさだよ。俺はそこまで大したことはしてないよ」

 青年から移動の馬車の中で滔々と語られた俺の偉業は他人事のようで気恥ずかしく、自分はそんな大層な者じゃないと頑なに否定した。
 実際に俺の考案した初期の魔導安眠寝袋はただの安眠装置であり、それにアレもコレもと後から便利な機能を付け足していったのは、優秀な同僚たちの力がなくしては成りえなかったからだ。
 なにがそんなに彼の琴線に触れたのか分からないが、常に恭しく扱われているのだ。正直疲れる。

 これまで生活のすべてを他人任せにし、思うさまぐうたらな生活しかしてこなかった俺には馬車での移動すらきつかった。
 それにより過保護な青年の世話がさらに加速して、宿では毎日寝る前にマッサージをされるようになった。
 うつ伏せになった俺の背後で言葉少なに揉み解していく青年のテクに蕩けた。
 すっかり彼に懐柔された俺は、自分から尻と腰が痛いと申告して重点的に揉み解してもらっている。
 あまりの気持ちよさに毎回そのまま寝落ちしてしまう。

「もう寝てしまわれましたか?」

 手を止めて静かに問う彼にいつも答えることが出来ずにそのまま意識を手放す。
 そのすぐ後に頬に軽く押しあてられたものが何かなど、思考する余力は俺にはなかった。

 ラボにいる時よりもある意味では快適な旅だったが、そんなのんびりとした旅路も戦場に入るとあっさり終わりを告げた。



ーーーーーーーーー



 目に映る光景に絶句している俺に淡々と戦況を語る騎士の顔はどこか堅く青白い。
 まさに地獄――。
 野戦病棟で呆然と立ち尽くす自分だけが場違いな異物だった。

 この絶望的状況を見て、俺は偉そうになにを指導すると――?
 ラボで散々グチっていた武器の故障も、目の前の惨状を実際に見た後では認識が一変した。
 武器の故障がそのまま彼らの命に直結している。そんな簡単なことにも気付けていなかった。

 俺のことをどう説明しているのか、どこに赴いても歓迎された。
 それから俺がやったことは出来る限り一人一人に詳しく聞き取り調査を行い使う側の意見をもとに改善点をあげていく。
 すぐに修理できそうな物は簡単なレクチャーを交えながら修理した。
 その度に相手にいたく感謝されてしまうので長居せずすぐに立ち去ることにしている。
 罪悪感に苛まれて沈む俺に騎士はさらに過保護になったような気がする。


 俺のメンタルをゴリゴリと削りながらもここまでは順調に進んでいたのだが、重症患者を収容している魔導安眠寝袋設置部屋を覗いた際に思わぬ事件に遭遇してしまった。

 設置部屋に着いたとき、ちょうど患者の一人が魔導安眠寝袋から出てきたところだったらしく、目を血走らせた兵士が視察のため近付いた俺の方へ飛びかかってきた。
 四捨五入したら四十路のおっさんの反射神経などクソほども役に立たず、俺には啞然とする暇さえもなかった。
 棒立ちしていた俺を突き飛ばし、間に割り込んだ騎士は鮮やかな手捌きで襲いかかってきた兵士を拘束した。
 獣のように唸り声を上げ暴れる兵士に駆け寄ってきた衛生兵が、こちらも慣れた手つきで、下半身を晒したままの兵士のナニを鷲掴み巧みな手腕で追い詰める。わずかな時間でたっした兵士は落ち着きを取り戻し脱力して拘束は解かれた。
 その間俺ができたことと言えば、顎が外れるくらいあんぐり開けて呆けていただけだった。

 目の前で起こったことになかなか頭がついていけなかったが、つい出来心で追加してしまった機能が利用者達を悩ませていた原因だったようだ。
 ちょっとだけエロい気分になって寝ながら性処理とジゴの後片付けまで全自動で出来たらいいなという怠惰な理由でつけられた機能である。
 そんな機能が付いているとは知らず、生死を彷徨い生還した兵士が野獣のごとき性欲を爆発させる事件が起こっていた。巻き込まれた者にはなんとお詫びしていいものやら。
 過去に魔導安眠寝袋を利用したことがあると言っていた騎士も同じようなことを体験したのだろうか。
もしそうだとしたら、恐ろしくて聞くことはできないが悪いことをしてしまった。

 主に魔導安眠寝袋の被害にあっているのは衛生兵で、彼らに聞き取り調査をしてみると、出るわ出るわ。
 今まで俺たちが知らなかっただけで、兵士の間ではどうやら有名な話だったようだ。

 一体誰だこの装置を設計した奴。……すまん、俺だったわ。








―――――――――――



主人公:四捨五入したら四十代のくたびれたおっさん。
容姿:肩につくぐらいの不揃いな黒髪ぼさぼさヘアー、半分も開いていない眠そうな目も黒、薄っすらと生えた無精ひげ(体毛は薄くあまり生えていない)、中肉中背、オタク特有の早口で研究者仲間とはよくしゃべるが、人見知りなので外部の者とは喋るのが苦手(無口キャラだと思われている)。

研究命の研究者で、たまに画期的な発明をするが、同僚たちの悪ふざけのせいでとんでもないものと化してしまうことが多々起こる。
基本ぐうたらなたち。
快適さを求め日夜研究しているうちに魔導安眠寝袋<ねむリン>なる魔道具を作った。
魔導安眠寝袋の基本性能は、アロマセラピー、マッサージ、疲労回復、睡眠促進、あとちょっとエロい気分にさせてくれるなどの微々たる性能だったが、同僚らの魔改造によって瀕死の重傷者でも突っ込んどけば自動回復してくれるとんでもない性能の魔道具となってしまった。
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