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前編
しおりを挟む父親が単身赴任で他県へ出発する日の朝――目覚めたら異世界に来てしまっていた。
「え……、どこここ……」
私は見知らぬ場所で横たわっていた。
まるで草原みたいな。
到底都会とは思えないような場所。
地面には無造作に草が生えていて、風が頬を撫で髪を揺らし、爽やかな自然の匂いがする。
「いらっしゃいましたか!」
「え……」
戸惑っていたら、知らない高齢男性から急に声をかけられて。
「ルシフィラ様! こんなところにおられたとは!」
しかも、知らない名前で呼ばれた。
高齢男性はきっちりタキシードを着こなしている。
やはり私、生まれ育った世界とは異なる世界に来てしまったのかもしれない。
「え、あの……これは一体……」
「まさか記憶喪失ですか!? ルシフィラお嬢様は、昨日身勝手な男に婚約を破棄され、行方不明となられたのですよ!!」
「えええー……」
「とにかく、ご無事で良かった。取り敢えず家へ帰りましょう! 旦那様奥様も心配しておられます」
「そ、そうですか……」
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