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1話

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 愛する婚約者と初めての年越し。
 楽しみにしていた。
 それこそもうずっと、その時が来るのを心待ちにしていたのだ。

 だって、年越しというのは特別ではないか。

 一年の中でも特別な瞬間といえる年越し。それを、その時を、最愛の人と一緒に迎えられるなら。きっとそれはどんな喜びより大きな喜びとなるだろう。そう考えていた。

 だが。

「こんな年末に悪いけどさ」
「え?」
「婚約……破棄するわ」

 一年最後の日、婚約者レべオスからそんなことを言われてしまった。

 彼の口から出た言葉を耳にした瞬間、視界が真っ暗になった。それこそ死を急に迎えたかのようなそんな感じで。目も耳も機能していない、そんな状態を連想させるような状態に一瞬にしてなってしまった。あるいは、急に背後から強く殴られたかのようでもあった。

「何? 落ち込んだふり? そういうのいいから」

 そうじゃない! そうじゃないんだ、身体が動かない。そして! 何よりも脳がまったくもって機能しなくなってしまった! 雷に打たれたかのように、この身のすべてが停止してしまっている。今生き残っているのは最低限の身体の機能だけ。

「とにかく、年越しは愛する人と過ごすから。もう出ていってくれ」

 何も言えぬまま、私は実家へ帰ることとなった。
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