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前編
しおりを挟む「パンケーキ作ったよ!」
「ええっ」
私は今、幸せのただなかにいる。
「君が好きなシロップかけてるから」
「あああれね! 好きなの! 甘くて、でもくどくなくて、とっても美味しいのよ」
優しい夫ルーレスとの日常には幸福という光が溢れている。
「前も言ってた。だからこれを選んだんだ」
それに、ルーレスは思いやりに満ちた人。
いつも私が喜ぶようなことを速やかにしてくれるし、時にはこうやってサプライズみたいなこともしてくれる。
そんなところも好きだ。
「覚えてくれていたのね! 嬉しい!」
「そりゃあ覚えてるよ、妻の好きなものくらい」
「記憶力が素晴らしいわ」
「え、ちょっと思ってたのと違う褒められ方」
「駄目かしら?」
「ううん、いいんだ。駄目とかじゃない。否定する気は一切ないよ」
「良かったぁ。変なこと言ってしまったかと思ったぁ」
かつて私は絶望の海に沈みかけていた。黒い水面でただ何ということのない平凡な波に揺られて、それこそもうじきこの世から去ってしまいそうな虚無の中にあった。
その原因は、婚約者に他の女ができたこと。
それによって私は邪魔者となってしまい、最終的には婚約破棄という形で切り捨てられたのだ。
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