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13.丁寧に教わる!
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芽生えの季節でもある春を越え、徐々に日差しは強まり、やがて夏が来る。
学院の敷地内にある植物たちも生き生きとし始めた。
特に際立って色鮮やかになってきたのは、花壇。花組の教室から徒歩一分もかからない場所にある花壇には、春先から様々な花が咲いていたが、夏が来ると一段と華やかになった。
それはまるで、はっきりとした色みの絵の具を使って描いた絵のようだ。
ここのところ、休み時間や授業外の時間には、花壇に植わっている色とりどりの花を眺めながら友人と会話している生徒が目立つようになっている。
美しい花が惹きつけるのは、決して蝶だけではない。
人もまた、美しいものを一目見ようと集まってくるのである。
だが、生徒たちは一日中花を見つめているわけにはいかない。なぜなら、今月の後半には試験があるからだ。
今回の試験は卒業試験ではないが、習熟度を確認されるという意味ではそれに近い要素を持つ。今回の試験の結果だけで卒業が決まるわけではないが、卒業にまったくもって無関係でもないということだ。
それゆえ、学生たちは懸命に勉強に取り組まなくてはならない。
遊んでいては卒業は厳しくなってしまう。
剣術の授業の担当が、花組担任のカッタルに変わった。
彼は多くを語らないタイプ。しかしながら、剣術の指導においては熱心さを欠いておらず。ぺらぺらと喋ることはしないが、剣の扱いが苦手な者に対してもきっちりと向き合っていた。
「握り方は、こうだ」
「こう?」
「そう。そして、そのまま肘を曲げ過ぎずにゆっくりと——」
フレアもまた、カッタルに丁寧な指導を受けている一人である。
彼女は王女。剣を扱った経験などない。そもそも、ここへ来るまでは剣を手に持ったことすらなかったのだ。そのため、基本のきの字すら分かっていない。それを察したカッタルは、フレアに持ち方から指導する。
「どっちの手に力を入れたら良いですか?」
「そっちだ」
「右?」
「ああ、そうだ。右でしっかりと握り、左は添えるように持って」
「はい!」
カッタルが熱心に指導してくれることを、フレアは喜んでいた。
ただし、喜んでいる点は、王女だからと他学生とは違う扱いをせず接してくれる点だ。
フレアは正直剣術にはそこまで興味がない。彼女の中の剣術は、嫌いではないが好きでもない、という程度の存在だ。なので、彼女はこれまで、剣術にはそこまで集中して取り組んでこなかった。取り敢えず授業を受けてさえいれば何とかなるだろう、と考えていた。
「真っ直ぐに上げ——瞬間的に下ろす! そう、そんな感じだ」
カッタルの真剣な指導を受けていたら、フレアは急激に汗をかいてしまう。何となく参加していた時より運動量が増加したようだ。
「聞いて! リカルド、ちゃんと振れるようになったわ!」
「……似合わねぇ」
「んもー! 何それ。感じ悪っ!」
喜びに満ちた心で話を振ったにもかかわらずあっさりと返されてしまったフレアは、口を尖らせ、頬を風船のように膨らました。リカルドの冷ための反応が気に食わなかったようだ。
「そんな膨れるなって」
「えー? 私が悪いの? リカルドがそんな言い方するからでしょ!」
「やれやれ……話にならん……」
「むうぅ……!」
刹那、フレアは手に持っていた剣をリカルドに向けて振り下ろした。
リカルドは作り物の刃部分を片手で握って止める。
前触れもなく斬りかかったにもかかわらずあっさり止められたフレアは「さすがにやるわね!」と笑う。それに対しリカルドは、眉間にしわを寄せながら「危ないだろ」と注意。今度はフレアも怒らない。フレアはそのまま剣を引く。
「習ったの! どう?」
フレアは受けた指導の成果をリカルドに披露したかっただけのようだ。
「並だな」
「何それ!」
予想以下の反応に憤慨するフレア。
しかし、リカルドの発言はまだ完全には終わっていなかった。続きがあったのだ。
「まぁ、王女にしちゃやる方だろ」
それを耳にした瞬間、フレアの顔が明るいものへと急激に変貌する。
「やったー! 褒められたっ」
フレアは満面の笑みで言い、その場でくるくると回転。
その動作は軽やか。まとっている可憐な雰囲気は、まるでダンサーだ。
そんな呑気なフレアを、リカルドは呆れたような顔で見ている。しかし、その表情に硬さはない。どこか温かみのある表情だ。可愛がっている妹を見るような表情、というのが近いだろうか。呆れつつも、見守りたいと思っているような、そんな顔つきである。
授業終了後、教室にて。
フレアはミルフィとカステラと三人で試験勉強を行う。
リカルドも同席しているが、彼は、試験勉強に参加しているわけではない。万が一何かあった時にフレアを護れるように、彼女の近くにいるだけだ。
「魔術基礎のことなんだけど……」
「はい! それならそれならカステラにお任せをーっ!」
フレアは、魔術基礎の内容について、カステラに尋ねたいことがあった。
頼りにされたカステラは嬉しそう。
ちなみに、ミルフィはというと、食堂で買ったアイスバーを舐めている。彼女の本当の目的は、勉強することではなかったのだ。そう、彼女はただ、フレアとカステラを眺めていたかっただけなのである。
「このページのここなんだけど……」
「はいっ! ここですね!?」
「えぇ。この仕組みの変化が掴めなくて」
「えーとですね! ここはこれがこうなって……」
魔術関連にだけは詳しいカステラは、疑問点を順に解決していく。廊下を走れば転び、剣を握れば間違った相手に攻撃してしまう、そんなおっちょこちょいな彼女だが、得意なことには恐ろしいほどの力を発する。今の指導もそれだ。
「そっか! 分かったわ! こっちがこうなると、ここがこう変わるのね」
「その通りですー!」
「そして、ここがこうなると、これがこうなって右に動くのね」
「そうですー!」
カステラに色々な面から説明してもらい、フレアは徐々に理解できるようになってきた。疑問点が次から次へと解決して、内容が確実に頭に入っていく。
「ふふふ。フレアちゃん、やる気ねぇ」
「え? 何を言っているの? ミルフィ」
「何だかやる気満々じゃない? って言いたかったのよ」
「普通じゃないの?」
「ふふ、可愛い。フレアちゃんったら、さすがね! 普通の学生はそんな真面目かつ優秀じゃないのよー」
学院の敷地内にある植物たちも生き生きとし始めた。
特に際立って色鮮やかになってきたのは、花壇。花組の教室から徒歩一分もかからない場所にある花壇には、春先から様々な花が咲いていたが、夏が来ると一段と華やかになった。
それはまるで、はっきりとした色みの絵の具を使って描いた絵のようだ。
ここのところ、休み時間や授業外の時間には、花壇に植わっている色とりどりの花を眺めながら友人と会話している生徒が目立つようになっている。
美しい花が惹きつけるのは、決して蝶だけではない。
人もまた、美しいものを一目見ようと集まってくるのである。
だが、生徒たちは一日中花を見つめているわけにはいかない。なぜなら、今月の後半には試験があるからだ。
今回の試験は卒業試験ではないが、習熟度を確認されるという意味ではそれに近い要素を持つ。今回の試験の結果だけで卒業が決まるわけではないが、卒業にまったくもって無関係でもないということだ。
それゆえ、学生たちは懸命に勉強に取り組まなくてはならない。
遊んでいては卒業は厳しくなってしまう。
剣術の授業の担当が、花組担任のカッタルに変わった。
彼は多くを語らないタイプ。しかしながら、剣術の指導においては熱心さを欠いておらず。ぺらぺらと喋ることはしないが、剣の扱いが苦手な者に対してもきっちりと向き合っていた。
「握り方は、こうだ」
「こう?」
「そう。そして、そのまま肘を曲げ過ぎずにゆっくりと——」
フレアもまた、カッタルに丁寧な指導を受けている一人である。
彼女は王女。剣を扱った経験などない。そもそも、ここへ来るまでは剣を手に持ったことすらなかったのだ。そのため、基本のきの字すら分かっていない。それを察したカッタルは、フレアに持ち方から指導する。
「どっちの手に力を入れたら良いですか?」
「そっちだ」
「右?」
「ああ、そうだ。右でしっかりと握り、左は添えるように持って」
「はい!」
カッタルが熱心に指導してくれることを、フレアは喜んでいた。
ただし、喜んでいる点は、王女だからと他学生とは違う扱いをせず接してくれる点だ。
フレアは正直剣術にはそこまで興味がない。彼女の中の剣術は、嫌いではないが好きでもない、という程度の存在だ。なので、彼女はこれまで、剣術にはそこまで集中して取り組んでこなかった。取り敢えず授業を受けてさえいれば何とかなるだろう、と考えていた。
「真っ直ぐに上げ——瞬間的に下ろす! そう、そんな感じだ」
カッタルの真剣な指導を受けていたら、フレアは急激に汗をかいてしまう。何となく参加していた時より運動量が増加したようだ。
「聞いて! リカルド、ちゃんと振れるようになったわ!」
「……似合わねぇ」
「んもー! 何それ。感じ悪っ!」
喜びに満ちた心で話を振ったにもかかわらずあっさりと返されてしまったフレアは、口を尖らせ、頬を風船のように膨らました。リカルドの冷ための反応が気に食わなかったようだ。
「そんな膨れるなって」
「えー? 私が悪いの? リカルドがそんな言い方するからでしょ!」
「やれやれ……話にならん……」
「むうぅ……!」
刹那、フレアは手に持っていた剣をリカルドに向けて振り下ろした。
リカルドは作り物の刃部分を片手で握って止める。
前触れもなく斬りかかったにもかかわらずあっさり止められたフレアは「さすがにやるわね!」と笑う。それに対しリカルドは、眉間にしわを寄せながら「危ないだろ」と注意。今度はフレアも怒らない。フレアはそのまま剣を引く。
「習ったの! どう?」
フレアは受けた指導の成果をリカルドに披露したかっただけのようだ。
「並だな」
「何それ!」
予想以下の反応に憤慨するフレア。
しかし、リカルドの発言はまだ完全には終わっていなかった。続きがあったのだ。
「まぁ、王女にしちゃやる方だろ」
それを耳にした瞬間、フレアの顔が明るいものへと急激に変貌する。
「やったー! 褒められたっ」
フレアは満面の笑みで言い、その場でくるくると回転。
その動作は軽やか。まとっている可憐な雰囲気は、まるでダンサーだ。
そんな呑気なフレアを、リカルドは呆れたような顔で見ている。しかし、その表情に硬さはない。どこか温かみのある表情だ。可愛がっている妹を見るような表情、というのが近いだろうか。呆れつつも、見守りたいと思っているような、そんな顔つきである。
授業終了後、教室にて。
フレアはミルフィとカステラと三人で試験勉強を行う。
リカルドも同席しているが、彼は、試験勉強に参加しているわけではない。万が一何かあった時にフレアを護れるように、彼女の近くにいるだけだ。
「魔術基礎のことなんだけど……」
「はい! それならそれならカステラにお任せをーっ!」
フレアは、魔術基礎の内容について、カステラに尋ねたいことがあった。
頼りにされたカステラは嬉しそう。
ちなみに、ミルフィはというと、食堂で買ったアイスバーを舐めている。彼女の本当の目的は、勉強することではなかったのだ。そう、彼女はただ、フレアとカステラを眺めていたかっただけなのである。
「このページのここなんだけど……」
「はいっ! ここですね!?」
「えぇ。この仕組みの変化が掴めなくて」
「えーとですね! ここはこれがこうなって……」
魔術関連にだけは詳しいカステラは、疑問点を順に解決していく。廊下を走れば転び、剣を握れば間違った相手に攻撃してしまう、そんなおっちょこちょいな彼女だが、得意なことには恐ろしいほどの力を発する。今の指導もそれだ。
「そっか! 分かったわ! こっちがこうなると、ここがこう変わるのね」
「その通りですー!」
「そして、ここがこうなると、これがこうなって右に動くのね」
「そうですー!」
カステラに色々な面から説明してもらい、フレアは徐々に理解できるようになってきた。疑問点が次から次へと解決して、内容が確実に頭に入っていく。
「ふふふ。フレアちゃん、やる気ねぇ」
「え? 何を言っているの? ミルフィ」
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