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37.年末年始の休暇に突入!
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「今日で年内の授業は終了だヨゥ! みーんなお待ちかねの休暇がやって来るゼィ! ワクワクしてるかイ!?」
十二月末。
連日雪が降り、寒い日々のただなかにフレアはいる。
花組の教室は生徒数のわりに広い。そのため、ありとあらゆる部分が冷えてしまっている。物だけならず、空気も。席に座っていると尻から冷えてくるし、マフラーを巻いていないと首が寒い。
学院長のタルタルは比較的礼儀だ何だにこだわらないタイプだ。それゆえ、花組では、授業中にマフラーを巻くことも許されている。多くの学校では注意されるようなことなのだが、タルタルはそれを教えた上で防寒具の着用を許可している。
「はい! 楽しみです!」
最前列のアダルベルトは周囲に配慮することなく言葉を発した。
彼は別に悪人なわけではない。それはフレアも理解している。彼のことが嫌いというわけではないし、変な人だと思っているわけでもない。が、時折不思議な人だと思うことがあるのは一つの事実だ。
爽やかな容姿を持ち、声も良いのに、教師に話しかけることに躊躇いがなさすぎる。
「アダール、ノリノリだネ! 休暇中は何する予定ダイ!?」
タルタルは生徒に妙なあだ名を付けるのが好きだった。フレアは元々短い名なのであだ名を付けられなかったが、長めの名前の者に対しては迷いなくあだ名を付ける。それがタルタル流。
「親に紅茶を淹れます!」
「おおーゥ! いいネいいネ!」
「先生はどのように過ごされるのですか?」
「考えてなかっトゥアーッ!!」
ただ、アダルベルトとタルタルの関係性は決して悪いものではない。
積極的に話しかけるタイプのアダルベルトと、生徒相手でも気さくに言葉を交わすタルタル。二人の相性は、比較的良い方ではないだろうか。
「とにかク! 皆、楽しんでくれィ!」
こうして、年末年始の特別休暇へと突入していく。
年末年始の特別休暇。それは多くの生徒にとって特別な時間だ。夏の休みも実家へ帰る生徒が幾人か存在したが、この休暇はもっと多くの生徒たちが家へと戻る。家族と年越しを楽しみたいのだろう。
とはいえ、全生徒が実家へ戻るわけでもない。
フレアは城へは戻らないことをとうに決めていた。そのため、リカルドも実家へは戻らないことを選択。そして、フレアと同室のミルフィは、今回も帰省しないと話す。
結果的に、フレアはいつもと大差ない暮らしを続けることとなる。
休みに突入するや否や、フレアはリカルドを部屋へ呼んだ。リカルドは当然、呼ばれたのでやって来る。男性嫌いのミルフィも、こればかりは何とも言えない。
「やっと休みね! リカルド!」
頼まれ仕方なく訪問してきたリカルドを、フレアは温かく迎え入れる。
すぐに自分のベッドに座らせた。
「で、何だ。なぜ俺を呼び出した?」
フレアとリカルドは一つのベッドに並んで腰掛ける形となる。
二者の距離はかなり近い。男女の体がこんなに近づくことは、世の中を見回しても滅多にないだろう。
「特に深い意味はないわ!」
「……んなことだろうと思ったぜ」
「お話できたらいいかなーって」
「だりぃ」
リカルドはたとえ王女が相手でも一切遠慮しない。言いたいことを言いたいように言う。それが彼のやり方だ。彼は他者に必要以上に好かれようと思っていない——だからこそできることだろう。
「だりぃ、って……何よ! その言い方!」
フレアとリカルドの交流を邪魔しないよう、ミルフィは一人鏡に顔を向けていた。口紅を取り出して、化粧の研究を続けている。部屋から出ていくことはしないが、口を挟むこともしない。
「本音を言ったまでだ」
「もう。そんなに私といるのが嫌?」
「べつに嫌とかじゃねぇ。ただだるいと思っただけでな」
「ふぅーん」
ありのままの姿で言葉を交わす二人の間には、一種の絆のようなものが確かに存在していた。
互いを愛しているとか、いちゃつくとか、そういうことではない。心のもっと深いところで信頼し合っているような、恋愛的な意味とは異なる絆が二人にはある。
「みんな帰っちゃって、ちょっと退屈ね」
「あぁ」
「そうだ。卒業が近づいてきてるけど、ちゃんと卒業できるかしら」
「努力次第、だろうな」
フレアは熱心に話題を振る。しかしリカルドは話を広げるような言葉を発さない。一応返事はするのだが、発展性が皆無だ。
「リカルド、実技は完璧なんじゃない?」
「さぁな」
「だってほら、剣術はとっても得意でしょ?」
「知らん」
どんなにフレアが話しかけても、返ってくるのは短い言葉ばかり。文章ですらないような返事ばかりで、話しかけがいがあまりなさそうだ。ただ、その程度で挫けるフレアではない。会話を成り立たせようと、懸命に言葉をかけ続ける。
「えぇー。どういうことよ。剣術得意じゃないの?」
「得意ではあるが」
今日も外は寒そうだ。雪も降っている。気軽に外に出られるような気候ではないから、どうしても部屋に引きこもってしまいがちだ。
「ほらね! じゃあやっぱり、完璧じゃない!」
「馬鹿か」
「何それ、どういうこと? 悪口?」
「……剣術だけでは完璧ではないだろ」
寮の室内は、春や夏ほど暖かくはないものの、外に比べれば過ごしやすい温度を保っている。半袖で過ごすとなると厳しいだろうが、長袖の服にカーディガンを着用する程度の着こみで生活できる温度だ。
「まぁそうね。剣術がすべてってわけではないわよね」
「だろう」
「えぇ! その通りだと思うわ。実技って言っても色々あるものね。ただ、リカルドの能力が高いのは確かなんじゃない? 受けてきた教育の内容が違うもの!」
休暇中の寮内はいつも以上に静かだ。日頃も騒がしくはないけれど、今は日頃とは比べ物にならないくらいの静けさ。空気が澄んでいる。
「ったく、何言ってんだか」
「リカルドったら、そういう言い方ばっかりするのね。可愛くないわね」
「……馬鹿か」
「ほら! またそういう言い方!」
十二月末。
連日雪が降り、寒い日々のただなかにフレアはいる。
花組の教室は生徒数のわりに広い。そのため、ありとあらゆる部分が冷えてしまっている。物だけならず、空気も。席に座っていると尻から冷えてくるし、マフラーを巻いていないと首が寒い。
学院長のタルタルは比較的礼儀だ何だにこだわらないタイプだ。それゆえ、花組では、授業中にマフラーを巻くことも許されている。多くの学校では注意されるようなことなのだが、タルタルはそれを教えた上で防寒具の着用を許可している。
「はい! 楽しみです!」
最前列のアダルベルトは周囲に配慮することなく言葉を発した。
彼は別に悪人なわけではない。それはフレアも理解している。彼のことが嫌いというわけではないし、変な人だと思っているわけでもない。が、時折不思議な人だと思うことがあるのは一つの事実だ。
爽やかな容姿を持ち、声も良いのに、教師に話しかけることに躊躇いがなさすぎる。
「アダール、ノリノリだネ! 休暇中は何する予定ダイ!?」
タルタルは生徒に妙なあだ名を付けるのが好きだった。フレアは元々短い名なのであだ名を付けられなかったが、長めの名前の者に対しては迷いなくあだ名を付ける。それがタルタル流。
「親に紅茶を淹れます!」
「おおーゥ! いいネいいネ!」
「先生はどのように過ごされるのですか?」
「考えてなかっトゥアーッ!!」
ただ、アダルベルトとタルタルの関係性は決して悪いものではない。
積極的に話しかけるタイプのアダルベルトと、生徒相手でも気さくに言葉を交わすタルタル。二人の相性は、比較的良い方ではないだろうか。
「とにかク! 皆、楽しんでくれィ!」
こうして、年末年始の特別休暇へと突入していく。
年末年始の特別休暇。それは多くの生徒にとって特別な時間だ。夏の休みも実家へ帰る生徒が幾人か存在したが、この休暇はもっと多くの生徒たちが家へと戻る。家族と年越しを楽しみたいのだろう。
とはいえ、全生徒が実家へ戻るわけでもない。
フレアは城へは戻らないことをとうに決めていた。そのため、リカルドも実家へは戻らないことを選択。そして、フレアと同室のミルフィは、今回も帰省しないと話す。
結果的に、フレアはいつもと大差ない暮らしを続けることとなる。
休みに突入するや否や、フレアはリカルドを部屋へ呼んだ。リカルドは当然、呼ばれたのでやって来る。男性嫌いのミルフィも、こればかりは何とも言えない。
「やっと休みね! リカルド!」
頼まれ仕方なく訪問してきたリカルドを、フレアは温かく迎え入れる。
すぐに自分のベッドに座らせた。
「で、何だ。なぜ俺を呼び出した?」
フレアとリカルドは一つのベッドに並んで腰掛ける形となる。
二者の距離はかなり近い。男女の体がこんなに近づくことは、世の中を見回しても滅多にないだろう。
「特に深い意味はないわ!」
「……んなことだろうと思ったぜ」
「お話できたらいいかなーって」
「だりぃ」
リカルドはたとえ王女が相手でも一切遠慮しない。言いたいことを言いたいように言う。それが彼のやり方だ。彼は他者に必要以上に好かれようと思っていない——だからこそできることだろう。
「だりぃ、って……何よ! その言い方!」
フレアとリカルドの交流を邪魔しないよう、ミルフィは一人鏡に顔を向けていた。口紅を取り出して、化粧の研究を続けている。部屋から出ていくことはしないが、口を挟むこともしない。
「本音を言ったまでだ」
「もう。そんなに私といるのが嫌?」
「べつに嫌とかじゃねぇ。ただだるいと思っただけでな」
「ふぅーん」
ありのままの姿で言葉を交わす二人の間には、一種の絆のようなものが確かに存在していた。
互いを愛しているとか、いちゃつくとか、そういうことではない。心のもっと深いところで信頼し合っているような、恋愛的な意味とは異なる絆が二人にはある。
「みんな帰っちゃって、ちょっと退屈ね」
「あぁ」
「そうだ。卒業が近づいてきてるけど、ちゃんと卒業できるかしら」
「努力次第、だろうな」
フレアは熱心に話題を振る。しかしリカルドは話を広げるような言葉を発さない。一応返事はするのだが、発展性が皆無だ。
「リカルド、実技は完璧なんじゃない?」
「さぁな」
「だってほら、剣術はとっても得意でしょ?」
「知らん」
どんなにフレアが話しかけても、返ってくるのは短い言葉ばかり。文章ですらないような返事ばかりで、話しかけがいがあまりなさそうだ。ただ、その程度で挫けるフレアではない。会話を成り立たせようと、懸命に言葉をかけ続ける。
「えぇー。どういうことよ。剣術得意じゃないの?」
「得意ではあるが」
今日も外は寒そうだ。雪も降っている。気軽に外に出られるような気候ではないから、どうしても部屋に引きこもってしまいがちだ。
「ほらね! じゃあやっぱり、完璧じゃない!」
「馬鹿か」
「何それ、どういうこと? 悪口?」
「……剣術だけでは完璧ではないだろ」
寮の室内は、春や夏ほど暖かくはないものの、外に比べれば過ごしやすい温度を保っている。半袖で過ごすとなると厳しいだろうが、長袖の服にカーディガンを着用する程度の着こみで生活できる温度だ。
「まぁそうね。剣術がすべてってわけではないわよね」
「だろう」
「えぇ! その通りだと思うわ。実技って言っても色々あるものね。ただ、リカルドの能力が高いのは確かなんじゃない? 受けてきた教育の内容が違うもの!」
休暇中の寮内はいつも以上に静かだ。日頃も騒がしくはないけれど、今は日頃とは比べ物にならないくらいの静けさ。空気が澄んでいる。
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「……馬鹿か」
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