51 / 51
51.春の芽生えへ!
しおりを挟む
今日、フレアはガーベラ学院から去る。
花組の皆ともこれでもうお別れだ。
その日の朝、まだ日が昇りきらない時間帯に、カステラが訪ねてきた。
「ミルフィさん! フレアさん! おはようございますーっ!」
その時ミルフィはまだ眠っていた。が、昨夜中に荷物をまとめるのが終わっていなかったフレアは、いつもより早めに起きていた。そのため、訪問してきたフレアと顔を合わせることができたのだった。
「こんな朝早くにどうしたの? カステラ。何か用事?」
「い、いえっ……。ただ、顔が見たくて」
その頃になってフレアは気づく。カステラが外出着を身にまとっていることに。
「もしかして、もう出発するの?」
「あ、はい。そうなんですー」
「そうだったのね。じゃあミルフィを起こしてくるわ! 待ってて!」
出発の直前だったらなおさら友人には会いたいだろう。その気持ちはフレアにだって分かる。だからフレアは、ミルフィを起こすことを決めた。気持ち良く寝ているところに水を差すような真似はしたくないが、カステラが最後の挨拶をしたいのなら話は別だ。
フレアはミルフィのベッドの横まで移動し、仰向けで寝ている彼女に声をかける。
最初は小さめの声で。
けれどもミルフィは反応しない。かなりぐっすりと眠ってしまっているようだ。
「あ、あのー。フレアさん、もう大丈夫ですよぅー?」
「大丈夫! ちょっとだけ待ってて!」
フレアは少し声を大きくしてもう一度声をかける。それに合わせて、肩の辺りをぽんぽんと叩く。痛くない程度に。軽く刺激を与える程度に。
するとようやく動きがあった。
声かけではちっとも起きそうになかったミルフィの体が、ごそごそと動き出したのだ。
チャンスは逃さない。フレアは大きめの声で「ミルフィ! 起きられる?」と声をかける。すると、ミルフィの瞼が僅かに開いた。そのタイミングで「カステラがもう出るって! それで、会いに来てくれてるの!」と付け加える。それを聞くや否や、ミルフィは急に起き上がった。
「そうなの!?」
フレアも驚いたくらい急激に目を覚ましたミルフィは叫ぶ。
「……良かった、起きたのね」
「それで? カステラちゃんはどこ!?」
「あっちよ。扉の方」
ミルフィはすぐに扉の方へと視線を向ける。
そして、無事、カステラの存在を視認することができたみたいだ。
「カステラちゃん!」
ミルフィは驚きの素早さでベッドから下りると、寝巻きのままカステラがいる扉の方へと歩いていく。
「み、ミルフィさん! すみませんーっ」
カステラは何度も頭を下げる。繰り返し謝罪する。
「いいのよ。あ、でも、ごめんね? こんな寝てる格好のままで」
「いえ! いえいえ! 大丈夫ですぅー!」
直前まで頭を下げる動作を繰り返していたカステラが、今度は首を激しく左右に動かし始めた。
「それで? もう出ていくのね?」
「はいっ! 出発しますぅー!」
「前に教えてもらった実家の住所……これからは、あそこに手紙を出すわね」
「は、はい! よろしくお願いしますぅー!」
それから数分、カステラとミルフィは話し込んでいた。
フレアはそこに入っていかない。二人で話したいことがあるのだろう、と思ったから。
そして、二人の会話がようやく終わりに近づいてきた頃、フレアは二人の方へと歩いていく。ゆっくりとした足取りで、二者の顔色を窺いながら。
「カステラ、またね」
「あ、ありがとうございますぅ! フレアさん!」
「私も手紙出していい?」
「もっ……もちろんですよぅーっ! 住所はミルフィさんから聞いて下さい!」
「オッケー。分かったわ」
こうして、フレアとミルフィは、カステラとの別れの挨拶を済ませた。
「カステラちゃんも行っちゃったわねぇ。寂しくなるわ」
室内にいるのが二人だけに戻るや否や、ミルフィがそんなことを呟く。
「そうね。本当に……寂しいわ」
フレアもミルフィと同じ気持ちでいる。約一年共に過ごしてきた友たちとの別れは、辛く苦しい。何も死に別れるわけではない。またいつか会える。それは確かなことで、頭でも理解しているのに、だから寂しくないとはどうしても思えなくて。
「フレアちゃんとも今日でお別れ! 寂し過ぎ!」
「同感だわ」
「きっといつか会える! そう分かってても、寂しいものは寂しいのよねぇ」
「同感だわ」
刹那、ミルフィはフレアへ視線を向ける。
「……さっきから『同感だわ』しか言ってなくない?」
突っ込まれたフレアは苦笑する。
「そうね。それしか言えないわ、今は」
可能なら、もっと楽しいことを言いたい。
できるならば、純粋に笑えるようなことを口にしたい。
けれども今はそれができないのだ。気の利いたことは言えず、結果的に、こういうことになってしまっている。
「ふふ。フレアちゃんたら、面白い」
「……面白かった?」
「えぇ、面白かったわ。ありがと、フレアちゃん」
何とも言えない空気のまま、時が過ぎてゆく。
その日の昼頃、フレアはリカルドと共にガーベラ学院を去る。
荷物を持つのはすべてリカルドの担当。それゆえ、フレアはただ歩くだけだ。
「坂道転ばないようにしろよ」
「もー。リカルド、私を何だと思ってるの?」
リカルドは今日も力持ち。荷物の鞄を複数持つくらい、何ということはない。彼は文句など何一つ言わず、草が生え始めた下り坂を歩く。時折吹き抜ける風に、服の裾を揺らしながら。
「転んだりしないわよ! 私そんなに弱くないっ」
「……はいはい」
「まったくもう! リカルドったら、いつもそんなね!」
フレアとリカルドは用意されていた馬車に乗り込む。
やがて、馬車は出発する。
「ねぇリカルド」
馬車の内部にて、細かい揺れを感じつつ、フレアは口を開く。
「何だ」
「いつか二人で、旅に出ない?」
フレアの突飛な提案に、リカルドは呆れ果てた顔になる。はぁー、と長めの溜め息をつき、片手の手のひらを額にそっと当てる。
「馬鹿か、王女は」
いきなり馬鹿扱いされたフレアは「ちょっと、何よその言い方!?」と強めに発した。
「国はどうするつもりなんだ」
「私、まだすぐに女王になるわけじゃないのよ? それまでまだまだ時間があるわ。だから、リカルドと一緒にいろんなことを学びたいの!」
今、フレアの心には、未来への希望が芽生え始めている。
穏やかな陽を受け目覚める春のように、少しずつ、少しずつ……。
◆おわり◆
花組の皆ともこれでもうお別れだ。
その日の朝、まだ日が昇りきらない時間帯に、カステラが訪ねてきた。
「ミルフィさん! フレアさん! おはようございますーっ!」
その時ミルフィはまだ眠っていた。が、昨夜中に荷物をまとめるのが終わっていなかったフレアは、いつもより早めに起きていた。そのため、訪問してきたフレアと顔を合わせることができたのだった。
「こんな朝早くにどうしたの? カステラ。何か用事?」
「い、いえっ……。ただ、顔が見たくて」
その頃になってフレアは気づく。カステラが外出着を身にまとっていることに。
「もしかして、もう出発するの?」
「あ、はい。そうなんですー」
「そうだったのね。じゃあミルフィを起こしてくるわ! 待ってて!」
出発の直前だったらなおさら友人には会いたいだろう。その気持ちはフレアにだって分かる。だからフレアは、ミルフィを起こすことを決めた。気持ち良く寝ているところに水を差すような真似はしたくないが、カステラが最後の挨拶をしたいのなら話は別だ。
フレアはミルフィのベッドの横まで移動し、仰向けで寝ている彼女に声をかける。
最初は小さめの声で。
けれどもミルフィは反応しない。かなりぐっすりと眠ってしまっているようだ。
「あ、あのー。フレアさん、もう大丈夫ですよぅー?」
「大丈夫! ちょっとだけ待ってて!」
フレアは少し声を大きくしてもう一度声をかける。それに合わせて、肩の辺りをぽんぽんと叩く。痛くない程度に。軽く刺激を与える程度に。
するとようやく動きがあった。
声かけではちっとも起きそうになかったミルフィの体が、ごそごそと動き出したのだ。
チャンスは逃さない。フレアは大きめの声で「ミルフィ! 起きられる?」と声をかける。すると、ミルフィの瞼が僅かに開いた。そのタイミングで「カステラがもう出るって! それで、会いに来てくれてるの!」と付け加える。それを聞くや否や、ミルフィは急に起き上がった。
「そうなの!?」
フレアも驚いたくらい急激に目を覚ましたミルフィは叫ぶ。
「……良かった、起きたのね」
「それで? カステラちゃんはどこ!?」
「あっちよ。扉の方」
ミルフィはすぐに扉の方へと視線を向ける。
そして、無事、カステラの存在を視認することができたみたいだ。
「カステラちゃん!」
ミルフィは驚きの素早さでベッドから下りると、寝巻きのままカステラがいる扉の方へと歩いていく。
「み、ミルフィさん! すみませんーっ」
カステラは何度も頭を下げる。繰り返し謝罪する。
「いいのよ。あ、でも、ごめんね? こんな寝てる格好のままで」
「いえ! いえいえ! 大丈夫ですぅー!」
直前まで頭を下げる動作を繰り返していたカステラが、今度は首を激しく左右に動かし始めた。
「それで? もう出ていくのね?」
「はいっ! 出発しますぅー!」
「前に教えてもらった実家の住所……これからは、あそこに手紙を出すわね」
「は、はい! よろしくお願いしますぅー!」
それから数分、カステラとミルフィは話し込んでいた。
フレアはそこに入っていかない。二人で話したいことがあるのだろう、と思ったから。
そして、二人の会話がようやく終わりに近づいてきた頃、フレアは二人の方へと歩いていく。ゆっくりとした足取りで、二者の顔色を窺いながら。
「カステラ、またね」
「あ、ありがとうございますぅ! フレアさん!」
「私も手紙出していい?」
「もっ……もちろんですよぅーっ! 住所はミルフィさんから聞いて下さい!」
「オッケー。分かったわ」
こうして、フレアとミルフィは、カステラとの別れの挨拶を済ませた。
「カステラちゃんも行っちゃったわねぇ。寂しくなるわ」
室内にいるのが二人だけに戻るや否や、ミルフィがそんなことを呟く。
「そうね。本当に……寂しいわ」
フレアもミルフィと同じ気持ちでいる。約一年共に過ごしてきた友たちとの別れは、辛く苦しい。何も死に別れるわけではない。またいつか会える。それは確かなことで、頭でも理解しているのに、だから寂しくないとはどうしても思えなくて。
「フレアちゃんとも今日でお別れ! 寂し過ぎ!」
「同感だわ」
「きっといつか会える! そう分かってても、寂しいものは寂しいのよねぇ」
「同感だわ」
刹那、ミルフィはフレアへ視線を向ける。
「……さっきから『同感だわ』しか言ってなくない?」
突っ込まれたフレアは苦笑する。
「そうね。それしか言えないわ、今は」
可能なら、もっと楽しいことを言いたい。
できるならば、純粋に笑えるようなことを口にしたい。
けれども今はそれができないのだ。気の利いたことは言えず、結果的に、こういうことになってしまっている。
「ふふ。フレアちゃんたら、面白い」
「……面白かった?」
「えぇ、面白かったわ。ありがと、フレアちゃん」
何とも言えない空気のまま、時が過ぎてゆく。
その日の昼頃、フレアはリカルドと共にガーベラ学院を去る。
荷物を持つのはすべてリカルドの担当。それゆえ、フレアはただ歩くだけだ。
「坂道転ばないようにしろよ」
「もー。リカルド、私を何だと思ってるの?」
リカルドは今日も力持ち。荷物の鞄を複数持つくらい、何ということはない。彼は文句など何一つ言わず、草が生え始めた下り坂を歩く。時折吹き抜ける風に、服の裾を揺らしながら。
「転んだりしないわよ! 私そんなに弱くないっ」
「……はいはい」
「まったくもう! リカルドったら、いつもそんなね!」
フレアとリカルドは用意されていた馬車に乗り込む。
やがて、馬車は出発する。
「ねぇリカルド」
馬車の内部にて、細かい揺れを感じつつ、フレアは口を開く。
「何だ」
「いつか二人で、旅に出ない?」
フレアの突飛な提案に、リカルドは呆れ果てた顔になる。はぁー、と長めの溜め息をつき、片手の手のひらを額にそっと当てる。
「馬鹿か、王女は」
いきなり馬鹿扱いされたフレアは「ちょっと、何よその言い方!?」と強めに発した。
「国はどうするつもりなんだ」
「私、まだすぐに女王になるわけじゃないのよ? それまでまだまだ時間があるわ。だから、リカルドと一緒にいろんなことを学びたいの!」
今、フレアの心には、未来への希望が芽生え始めている。
穏やかな陽を受け目覚める春のように、少しずつ、少しずつ……。
◆おわり◆
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる