青春を謳歌したい! 〜剣と魔法の学校生活〜

四季

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51.春の芽生えへ!

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 今日、フレアはガーベラ学院から去る。

 花組の皆ともこれでもうお別れだ。
 その日の朝、まだ日が昇りきらない時間帯に、カステラが訪ねてきた。

「ミルフィさん! フレアさん! おはようございますーっ!」

 その時ミルフィはまだ眠っていた。が、昨夜中に荷物をまとめるのが終わっていなかったフレアは、いつもより早めに起きていた。そのため、訪問してきたフレアと顔を合わせることができたのだった。

「こんな朝早くにどうしたの? カステラ。何か用事?」
「い、いえっ……。ただ、顔が見たくて」

 その頃になってフレアは気づく。カステラが外出着を身にまとっていることに。

「もしかして、もう出発するの?」
「あ、はい。そうなんですー」
「そうだったのね。じゃあミルフィを起こしてくるわ! 待ってて!」

 出発の直前だったらなおさら友人には会いたいだろう。その気持ちはフレアにだって分かる。だからフレアは、ミルフィを起こすことを決めた。気持ち良く寝ているところに水を差すような真似はしたくないが、カステラが最後の挨拶をしたいのなら話は別だ。

 フレアはミルフィのベッドの横まで移動し、仰向けで寝ている彼女に声をかける。

 最初は小さめの声で。

 けれどもミルフィは反応しない。かなりぐっすりと眠ってしまっているようだ。

「あ、あのー。フレアさん、もう大丈夫ですよぅー?」
「大丈夫! ちょっとだけ待ってて!」

 フレアは少し声を大きくしてもう一度声をかける。それに合わせて、肩の辺りをぽんぽんと叩く。痛くない程度に。軽く刺激を与える程度に。

 するとようやく動きがあった。

 声かけではちっとも起きそうになかったミルフィの体が、ごそごそと動き出したのだ。

 チャンスは逃さない。フレアは大きめの声で「ミルフィ! 起きられる?」と声をかける。すると、ミルフィの瞼が僅かに開いた。そのタイミングで「カステラがもう出るって! それで、会いに来てくれてるの!」と付け加える。それを聞くや否や、ミルフィは急に起き上がった。

「そうなの!?」

 フレアも驚いたくらい急激に目を覚ましたミルフィは叫ぶ。

「……良かった、起きたのね」
「それで? カステラちゃんはどこ!?」
「あっちよ。扉の方」

 ミルフィはすぐに扉の方へと視線を向ける。
 そして、無事、カステラの存在を視認することができたみたいだ。

「カステラちゃん!」

 ミルフィは驚きの素早さでベッドから下りると、寝巻きのままカステラがいる扉の方へと歩いていく。

「み、ミルフィさん! すみませんーっ」

 カステラは何度も頭を下げる。繰り返し謝罪する。

「いいのよ。あ、でも、ごめんね? こんな寝てる格好のままで」
「いえ! いえいえ! 大丈夫ですぅー!」

 直前まで頭を下げる動作を繰り返していたカステラが、今度は首を激しく左右に動かし始めた。

「それで? もう出ていくのね?」
「はいっ! 出発しますぅー!」
「前に教えてもらった実家の住所……これからは、あそこに手紙を出すわね」
「は、はい! よろしくお願いしますぅー!」

 それから数分、カステラとミルフィは話し込んでいた。
 フレアはそこに入っていかない。二人で話したいことがあるのだろう、と思ったから。
 そして、二人の会話がようやく終わりに近づいてきた頃、フレアは二人の方へと歩いていく。ゆっくりとした足取りで、二者の顔色を窺いながら。

「カステラ、またね」
「あ、ありがとうございますぅ! フレアさん!」
「私も手紙出していい?」
「もっ……もちろんですよぅーっ! 住所はミルフィさんから聞いて下さい!」
「オッケー。分かったわ」

 こうして、フレアとミルフィは、カステラとの別れの挨拶を済ませた。


「カステラちゃんも行っちゃったわねぇ。寂しくなるわ」

 室内にいるのが二人だけに戻るや否や、ミルフィがそんなことを呟く。

「そうね。本当に……寂しいわ」

 フレアもミルフィと同じ気持ちでいる。約一年共に過ごしてきた友たちとの別れは、辛く苦しい。何も死に別れるわけではない。またいつか会える。それは確かなことで、頭でも理解しているのに、だから寂しくないとはどうしても思えなくて。

「フレアちゃんとも今日でお別れ! 寂し過ぎ!」
「同感だわ」
「きっといつか会える! そう分かってても、寂しいものは寂しいのよねぇ」
「同感だわ」

 刹那、ミルフィはフレアへ視線を向ける。

「……さっきから『同感だわ』しか言ってなくない?」

 突っ込まれたフレアは苦笑する。

「そうね。それしか言えないわ、今は」

 可能なら、もっと楽しいことを言いたい。
 できるならば、純粋に笑えるようなことを口にしたい。
 けれども今はそれができないのだ。気の利いたことは言えず、結果的に、こういうことになってしまっている。

「ふふ。フレアちゃんたら、面白い」
「……面白かった?」
「えぇ、面白かったわ。ありがと、フレアちゃん」

 何とも言えない空気のまま、時が過ぎてゆく。


 その日の昼頃、フレアはリカルドと共にガーベラ学院を去る。
 荷物を持つのはすべてリカルドの担当。それゆえ、フレアはただ歩くだけだ。

「坂道転ばないようにしろよ」
「もー。リカルド、私を何だと思ってるの?」

 リカルドは今日も力持ち。荷物の鞄を複数持つくらい、何ということはない。彼は文句など何一つ言わず、草が生え始めた下り坂を歩く。時折吹き抜ける風に、服の裾を揺らしながら。

「転んだりしないわよ! 私そんなに弱くないっ」
「……はいはい」
「まったくもう! リカルドったら、いつもそんなね!」

 フレアとリカルドは用意されていた馬車に乗り込む。
 やがて、馬車は出発する。

「ねぇリカルド」

 馬車の内部にて、細かい揺れを感じつつ、フレアは口を開く。

「何だ」
「いつか二人で、旅に出ない?」

 フレアの突飛な提案に、リカルドは呆れ果てた顔になる。はぁー、と長めの溜め息をつき、片手の手のひらを額にそっと当てる。

「馬鹿か、王女は」

 いきなり馬鹿扱いされたフレアは「ちょっと、何よその言い方!?」と強めに発した。

「国はどうするつもりなんだ」
「私、まだすぐに女王になるわけじゃないのよ? それまでまだまだ時間があるわ。だから、リカルドと一緒にいろんなことを学びたいの!」

 今、フレアの心には、未来への希望が芽生え始めている。

 穏やかな陽を受け目覚める春のように、少しずつ、少しずつ……。


◆おわり◆
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