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後編

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「えっ――」

 視界に入ったのは、一人の男性だった。
 彼は柔らかく微笑んでいる。
 カイを、人を、殺したところだというのに。

「失礼、その男性は悪魔ですよ」
「え、あの……」
「厳密には、悪魔に憑かれ人格を奪われた、に近いですかね。ま、どのみち本来の人格を取り戻すことはできなかったでしょう」

 確かに、おかしな点はあった。それこそ何かが憑いているかのような。でもそこに焦点を合わせることは難しくて。だから目を逸らしてきた、無意識に。

「お知り合いなら残念ですが、悪く思わないでくださいね」


 ◆


 カイはあの日死んでしまった。
 婚約破棄を告げた直後に。

 けれどもそれで良かったのかもしれない。

 彼と離れたから夫に出会えた。
 あのままカイといたなら今の夫には出会えなかっただろう。

「クッキー焼いてみたヨォ!」
「わ! 美味しそう!」
「これは可愛い妻に贈るヨォ! ……どうカナ? 嫌カナ?」
「貰うわよ、もちろん」
「やっヒュほぉぉぉぉォォーッイ!!」

 私は彼と生きてゆく。
 どこまでも陽気でユニークな夫と。


◆終わり◆
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