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1話
しおりを挟む冬の夜、公園のベンチに座って、ただ泣いていた。
――今日婚約破棄を告げられた。
学園時代に知り合い、卒業後婚約した彼アドル。学年は一つ違っていて、彼の方が一つ学年が上。けれども彼はいつだって優しかったし思いやりを持って接してくれていた。そんなアドルを私は慕っていた。尊敬だってしていたのだ。
彼とならきっと幸せになれる、そう信じていた――なのに。
『俺はルミーと生きるから』
今日のお昼過ぎ、彼は一人の女を連れて私の前に現れて。
『だから、君との婚約は破棄とするな』
曇りのない笑顔ではっきりとそう言った。
婚約者がいても誰かを好きになってしまう、そういうことは時にあるのかもしれない。人として時にあることなのかも。やむを得ない部分もあるのかもしれない。
でも、だとしても、急に婚約破棄宣言をされるというのは……やはりどうしても辛い。
驚くし。
ショックだし。
もう何が何だか分からなくなってしまった。
――で、今に至っている。
家に帰らなくては。そしてこのことを親に伝えなくてはならない。こんなところで泣いている場合ではないのだ、早く親に言っておかなくては迷惑がかかってしまう。
……でも、もし本当のことを言ったら、親はどんな顔をするだろう?
アドルとの婚約を両親は大層喜んでくれていた。
なのにそれが破棄となったと知ったら。
二人はきっと残念がるだろうし悲しむのではないだろうか。
……親を悲しませるようなことはしたくなかった。
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