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9話「崩れ去るもの、永遠となるもの」
しおりを挟むあの後元住んでいたあの家の近くに住む人から聞いた話によれば、両親はミーレナーを可愛がることをやめたそうだ。
それどころか、今は、周りにたびたびミーレナーに関する愚痴を吐いているそうで。
しかもその内容というのが「婚約破棄されるなんて恥ずかしい」「あんな娘持つんじゃなかった」「あの娘がまさかあんなみっともない人間だとは思わなかった」といったような心ないものばかりで。
ああ、可哀想にねぇミーレナー。
急に手を離されてしまって。
ずっと可愛がってくれていた両親に急に手のひら返しをされるなんて、きっととても辛いでしょうね。困っていても、弱っていても、助けてなどもらえずそれどころかより一層心が痛むようなことを言われたりして。しかも、存在を消したい、くらいのニュアンスで。突然そんな風に雑に扱われるのはきっととても辛いことでしょう。
でもそれは、私がずっと感じてきていた辛さよ。
……私の気持ち、今なら少しは分かってもらえるかしら?
ま、もうどうでもいいことだけれど。
――そんなことを一人考えていたら。
「レジーナさん! これ! 言ってたやつ、買ってきましたよ」
何やら楽しげなオイディールが部屋に入ってきた。
彼の手には小さな紙袋。
その紙袋の模様は多少見覚えがあるものだ。
確か、本屋さんの。
「ほら!」
彼は袋から一冊の文庫本を取り出した。
「言ってたやつ、ですか……って、ああ! これ! 噂の新刊じゃないですか!」
思わず漏れる大きな声。
「そうです。へへ」
彼は少し照れたように笑みをこぼした。
視線を彼の面へやれば、彼もまたこちらを見つめ返してくる。
それから数秒間があって。
お互い控えめな笑いをこぼした。
「うわぁ、凄い……購入が早いですね。これ、本屋さんで?」
「ええ、最寄りの」
「そうだったんですね。素早く購入だなんて凄いです」
本という物がこの世にある限り、私たちの絆は永遠だ。
「あれ? レジーナさんは本屋さんへはあまり行っていなかったのですか? あそこまでお詳しいのに」
「え、貸本屋にずっと出入りしていました」
「そうなんですね。そっち派でしたか。あ、でも、新品で大丈夫でした? もし嫌なら……」
「いえ、新品だって好きですよ」
私はここで穏やかに生きていく。
――ちなみに、あの後両親は離婚したそうだ。
何でも、ミーレナーの押し付け合いによって夫婦間で喧嘩が勃発したらしくて。
こじれにこじれて最終的には離婚ということに。
夫婦関係を解消する、というところにまで至ってしまったそうなのである。
……ま、べつにもうどうでもいいけれど。
◆終わり◆
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