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7話「想定外の方向へ」
しおりを挟む城に着くまでの間に色々話して、カルセドラと婚約する方向で話を進めることに決めた。
王子の妻となる。それはきっととても大変なことだ。民の模範になるような女性でなくてはならないし、非の打ち所がないような人物像を作らねばならないのだから、恐らく物凄い苦労を伴うこととなるはず。
ただ、それでも、この時の私はアポツティから逃れたくて。
だからカルセドラと行く道を選ぶことにしたのだ。
といってもいきなりことだからすぐには話は通らないだろうと思っていたのだが――カルセドラが父親にそのことを伝えたところ、意外にもすんなり通ったようで。
「話をしてみましたが、大丈夫そうでした」
待機場所でカルセドラの帰りを待っていたら、笑顔の彼がやって来た。
「え、そんなにさらっと……?」
思わずこぼしてしまう本心。
きっともっとあれこれ厳しいことを言われるのだろうと思っていた。
それだけに意外で。
こんなにさらりと通るものなのかぁ、とか、どこか疑ってしまっている私もいて。
「良いと思う相手なのならその人を選べばいい、とのことで」
「自由なお父様なのですね」
「まぁそうですね、いつもこんな感じです。子どもの頃は結構厳しくあれこれ言ってきていましたけどね」
少し間を空け、彼は続ける。
「それで、これからどうします? ここに住みます?」
いやいやいや! それはいきなり過ぎる!
城に住む、は、ハードルが高い。
「そっそれはさすがにっ、恐れ多いですよっ……!」
両手を胸の前で左右に振る。
「でも、ここにいる方が安全ですよ」
「アポツティのこと……ですよね」
確かに、実家にいたらまたアポツティがやって来るかもしれない。婚約者がいる、とは言えたとしても、それで引き下がってくれるとも限らないし。彼のことだからむしろ激昂する可能性だってあるくらいだ。
それに、何もなくても心のどこかで怯え続けることになる。
その点、ここにいれば、そういった恐怖は感じなくて済む。
「ええそうです。ここにいれば少なくとも襲われたりはしないでしょう」
「でも、両親に伝えなくては」
「そういうことならこちらから伝えておきましょう、遣いを出します」
「そうですか……分かりました、では、そうしようと思います。本当に可能なのであれば……ですけど」
「ええもちろん! 可能です、部屋ならたくさんありますし」
こうして私は城へ住ませてもらうこととなった。
そして、そのついでに、王子の結婚相手としての修行を受けることとなった。
だが、その修業は非常に厳しいもので。
「その時は手を揃えるのです!」
「はい、すみません」
「こら! そっち! 足はああいう角度にと申し上げましたよね!?」
「はいっ、そうでした、すみませんっ」
「ええ、そう、そうです。そしてそのまま、手を徐々にこのように持ち上げて――違う!」
「ひっ」
四六時中びくびくしてしまうようなものであった。
何と言っても、講師が怖い。
「そう、そちらです」
「はい……」
「そして、その後に、そちらを」
「はい」
「足! 気を抜かないでください」
「はいっ!?」
「良いですか、常に四肢すべてに意識を向けるのですよ」
「承知しました」
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