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後編
しおりを挟む鼻の穴二つともを大きく開いたヴィヒヴァスははすはす鼻息を漏らしながら婚約の破棄を宣言してきた。
力み過ぎではないだろうか……。
見た目は完全にお笑い。
しかし彼は真面目な思考で言っている様子。
恐らく冗談やネタではないのだろう。
「婚約は破棄! 婚約は破棄っ! 婚約はぁぁぁぁ――破棄ィッ!!」
思わず笑ってしまいそうだった。
だってそうだろう? 今の彼の行動は普通考えられないものだ。婚約破棄の宣言だけならまだしも、それをやたらと大声で連呼するなんて。そんなこと、よくあることか? いや、滅多にないことだろう。それも、子どもでもないのに。
しかし、これからどうしようか。
ハエトリグモ好きがばれたら男性とはやっていけないのだろうか?
◆
ヴィヒヴァスとの婚約破棄から三年が経った昨日、私は、ハエトリグモ研究に打ち込んでいる若き研究者と結婚式を挙げた。
彼との出会いは、ある日の昼下がり。
彼がたまたま私が住む町へ蜘蛛の調査のためにやって来ていて。
そこで少し言葉を交わしたのが始まりだ。
それから、共通の興味があることをきっかけに関係が深まり、やがて結婚にまで至った。
ちなみにヴィヒヴァスはというと、あの後見合いでとても気に入った女性から顔立ちを酷く否定されたうえ拒否されてしまい、すっかり自信をなくしてそれ以降女性に顔を見られることが怖くなってしまったそうだ。
今はもう、女性と対面するだけでも震えが来るほどらしい。
◆終わり◆
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