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6話「迷惑極まりない訪問者」
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ちょうどヴィヴェルと喋っていたタイミングで店の入り口の扉が開いた。
ほぼ無意識のうちにそちらへ目をやる。
するとそこには見覚えのある顔が。
「久しぶりだな、クリスティア」
……どうして?
立っていたのはライトアップ。しかも隣には知らない女性がいる。これまで滅多に店になんて来なかった彼が、どうして今になってここに現れたのだろう。謎でしかない。理解が追いつかない。ただ、その顔を見ることは快か不快かといえば明らかに不快。しかも女連れとなればなおさら不快感がある。
「そいつ、新しい男?」
ライトアップはヴィヴェルを一瞥してから冗談めかして言った。
「冗談だとしてもそういうことを言うのは失礼よ」
「べつに冗談で言ったわけじゃない」
「ならなおさらおかしいわ、いきなり現れてそんな勝手なこと言い出すなんて」
ヴィヴェルは戸惑ったような面持ちで固まっている。
そんな彼の気持ちなど欠片ほども理解していないライトアップは、まるで私に対して嫌みを吐くかのように隣にいる女性の身体を自身の方へ引き寄せつつ、何の躊躇いもない様子でこちらに向かって歩いてきた。
「相変わらずダサい店だね」
「……わざわざそんなことを言いに来たの?」
「君が落ち込んでいるかどうか気になってさ。様子を見に来たんだ。男からまともに相手にされたことのない君が婚約者に捨てられてどんな顔になってるか、想像するだけでも楽しくって」
なんだこの失礼を絵に描いたような男は。
「でも、案外普通だな」
「そうよ。充実しているの。店は忙しいしね」
「おっもんね」
「邪魔しに来るなら迷惑だから帰ってちょうだい」
はっきり言ってやった。
なぜならもうこれ以上関わりたくないから。
しかしそれが彼を怒らせてしまったようで。
「ふっざけんな……くだらねえことしてる女の分際で偉そうに!!」
ライトアップは近くのテーブルの上に陳列していた酒の瓶にも似た瓶を一本掴むと、大きく振りかぶって、それで殴ろうとしてくる――しかし咄嗟に間に入ったヴィヴェルが素手で瓶を止めた。
「暴力はやめてください!」
ヴィヴェルはライトアップを睨む。
「瓶で殴りかかるなど、あまりにも酷い行為! それにその瓶は薬で売り物です! 人を傷つけるためのものではありません!」
ああ、彼は、私やこの店のために怒ってくれるのか。
そう感じて。
なぜか嬉しい。
たとえそれが常識に照らし合わせての注意だとしても、それでも、こうして真っ直ぐな心でこの場所を護ろうとしてくれることにありがたさを感じる。
「邪魔すんなって」
「瓶を手に女性に殴りかかるなど大問題です!」
「何偉そうに上から目線で物言ってんだよ」
「上から目線、などといった、そういう問題ではありません。そもそもそういう話ではないのです。ここは魔法薬のお店ですよ? 暴力は禁止です!」
ライトアップの横にいる女性は少しばかり怯えたような顔をしていた。
「ま、もういーわ」
手にしていた瓶を床に投げ捨てるライトアップ。
暗い色の瓶は割れて砕け散った。
床に広がるワインレッドのしみ。
「くっだらねー」
ライトアップはそう吐き捨てると店から出ていった。
「大丈夫ですかヴィヴェルさん」
「あ、はい。わたしは平気です」
取り敢えずヴィヴェルに怪我はなかったようなので安心した。
だが彼は何だか浮かない顔をしている。
雨降りではないのに晴れきることもできない日の空のような面持ち。
「しかし……」
「どうされました?」
彼の心が読めず少しばかり戸惑っていると。
「クリスティアさん、すみません、瓶を護れませんでした……」
浮かない顔をしたままの彼は深く頭を下げた。
「割れてしまいました……」
確かに瓶は割れた。しかしそれはライトアップが投げ捨てたから。ヴィヴェルのせいで割れたわけではない。なのに彼が謝るなんておかしな話だ。とはいえそういうところもヴィヴェルらしさなのかもしれない。自分に責任がないことであっても無視はしないというところからは彼の人となりが読み取れる。
「ヴィヴェルさんのせいではありません」
「ですが……」
「本当に気にしないで。悪いのはあの男ですから。とはいえこのまま放置しておくわけにはいかないので取り敢えず掃除します」
するとヴィヴェルは。
「お手伝いします」
数秒の間も空けず、そう言ってくれた。
ほぼ無意識のうちにそちらへ目をやる。
するとそこには見覚えのある顔が。
「久しぶりだな、クリスティア」
……どうして?
立っていたのはライトアップ。しかも隣には知らない女性がいる。これまで滅多に店になんて来なかった彼が、どうして今になってここに現れたのだろう。謎でしかない。理解が追いつかない。ただ、その顔を見ることは快か不快かといえば明らかに不快。しかも女連れとなればなおさら不快感がある。
「そいつ、新しい男?」
ライトアップはヴィヴェルを一瞥してから冗談めかして言った。
「冗談だとしてもそういうことを言うのは失礼よ」
「べつに冗談で言ったわけじゃない」
「ならなおさらおかしいわ、いきなり現れてそんな勝手なこと言い出すなんて」
ヴィヴェルは戸惑ったような面持ちで固まっている。
そんな彼の気持ちなど欠片ほども理解していないライトアップは、まるで私に対して嫌みを吐くかのように隣にいる女性の身体を自身の方へ引き寄せつつ、何の躊躇いもない様子でこちらに向かって歩いてきた。
「相変わらずダサい店だね」
「……わざわざそんなことを言いに来たの?」
「君が落ち込んでいるかどうか気になってさ。様子を見に来たんだ。男からまともに相手にされたことのない君が婚約者に捨てられてどんな顔になってるか、想像するだけでも楽しくって」
なんだこの失礼を絵に描いたような男は。
「でも、案外普通だな」
「そうよ。充実しているの。店は忙しいしね」
「おっもんね」
「邪魔しに来るなら迷惑だから帰ってちょうだい」
はっきり言ってやった。
なぜならもうこれ以上関わりたくないから。
しかしそれが彼を怒らせてしまったようで。
「ふっざけんな……くだらねえことしてる女の分際で偉そうに!!」
ライトアップは近くのテーブルの上に陳列していた酒の瓶にも似た瓶を一本掴むと、大きく振りかぶって、それで殴ろうとしてくる――しかし咄嗟に間に入ったヴィヴェルが素手で瓶を止めた。
「暴力はやめてください!」
ヴィヴェルはライトアップを睨む。
「瓶で殴りかかるなど、あまりにも酷い行為! それにその瓶は薬で売り物です! 人を傷つけるためのものではありません!」
ああ、彼は、私やこの店のために怒ってくれるのか。
そう感じて。
なぜか嬉しい。
たとえそれが常識に照らし合わせての注意だとしても、それでも、こうして真っ直ぐな心でこの場所を護ろうとしてくれることにありがたさを感じる。
「邪魔すんなって」
「瓶を手に女性に殴りかかるなど大問題です!」
「何偉そうに上から目線で物言ってんだよ」
「上から目線、などといった、そういう問題ではありません。そもそもそういう話ではないのです。ここは魔法薬のお店ですよ? 暴力は禁止です!」
ライトアップの横にいる女性は少しばかり怯えたような顔をしていた。
「ま、もういーわ」
手にしていた瓶を床に投げ捨てるライトアップ。
暗い色の瓶は割れて砕け散った。
床に広がるワインレッドのしみ。
「くっだらねー」
ライトアップはそう吐き捨てると店から出ていった。
「大丈夫ですかヴィヴェルさん」
「あ、はい。わたしは平気です」
取り敢えずヴィヴェルに怪我はなかったようなので安心した。
だが彼は何だか浮かない顔をしている。
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「しかし……」
「どうされました?」
彼の心が読めず少しばかり戸惑っていると。
「クリスティアさん、すみません、瓶を護れませんでした……」
浮かない顔をしたままの彼は深く頭を下げた。
「割れてしまいました……」
確かに瓶は割れた。しかしそれはライトアップが投げ捨てたから。ヴィヴェルのせいで割れたわけではない。なのに彼が謝るなんておかしな話だ。とはいえそういうところもヴィヴェルらしさなのかもしれない。自分に責任がないことであっても無視はしないというところからは彼の人となりが読み取れる。
「ヴィヴェルさんのせいではありません」
「ですが……」
「本当に気にしないで。悪いのはあの男ですから。とはいえこのまま放置しておくわけにはいかないので取り敢えず掃除します」
するとヴィヴェルは。
「お手伝いします」
数秒の間も空けず、そう言ってくれた。
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