上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む
 私の婚約者ジャミールは嫌がらせが物凄く好きな人だった。

 彼は嫌がらせやいたずらを平然と行う。そして私の反応を見て楽しむ。彼はまるで犯罪者。私が逃れられないことを知りながら、それを敢えて利用するように嫌なことをしてくる。もはや悪魔と言っても不自然ではない。

 朝起きたら顔面にイチゴジャムがびっちり塗られている。

 私のサラダだけに毒のある芋虫が数匹入っている。

 入浴中に使用人を含む大勢の男性を風呂場に入ってきて、それぞれ持っている石鹸で全身を擦られる。

 ジャミールの嫌がらせはとにかく悪質だ。
 もちろん他にもたくさんある。

 そんなジャミールが、ある日、私に言ってきた。

「急で悪いが、婚約破棄させてもらうな」

 婚約破棄された女、と、ひそひそ話をされることもあったけれど、私にとっては非常にありがたい婚約破棄だった。だってジャミールのあの嫌がらせから逃れられるのだ。何より嬉しい。たとえ誰かにくすくす笑われたとしても、それでも、彼から逃れられる方が幸せ。

 こうして私はジャミールから逃れられた。
しおりを挟む

処理中です...