上 下
1 / 4

しおりを挟む
 街中がツリーや電飾で溢れ、人々の心はどこか弾んでいる。凍えるような寒さの中でも、行き交う者たちの足取りは軽い。

 今日は十二月二十五日。クリスマス当日だ。


「いやー、寒いっすねー」

 リビングのソファに寝転がっているナギがいきなり言った。当たり前の分かりきったことを言うあたり、余程暇だったのだろう。

 エリミナーレにもクリスマスはある。今日は平日だが、クリスマスなので仕事はない。それはリーダーであるエリナが勝手に決めたことだ。

「ちょ、無視はないっしょ! そういや沙羅ちゃんは、今までのクリスマス、どうやって過ごしてたんすか?」

 偶然近くにいたら絡まれた。嫌ではないが少し面倒臭い。
 ナギはみんなに聞こえないふりをされるものだから、誰かに構ってほしくて仕方ないようである。そこで唯一反応しそうな私が選ばれたようだ。

「私ですか?」

 友達とクリスマスパーティー、彼氏とデート。そんなありがちなことをしたことはない。私にとってクリスマスとは、「夕食が豪華になる日」程度のものである。普通ではないが特別でもない日だった。

「今までのクリスマスはだいたい家にいてました。夕食にチキンが出たり、親がケーキを買ってきてくれたり、それぐらいのものです」
「あ……なんかすいません」

 するとナギは非常に申し訳なさそうな表情をして謝ってくる。

 これではまるで、私が寂しい人のようではないか。いや、もちろんそうとも受け取れる状態ではあるとは分かっている。しかしそれでも複雑な心境だ。
 私は大勢で騒ぐのが苦手な体質なので家族と食事をするくらいがちょうど良かった。だが、ワイワイするのが好きな人からすれば、私は寂しい人に見えるのかもしれない。

「じゃあパーティーとかしないんすか……?」

 妙に気を遣われている気がする。
 私は気にしていないのだから、そんなに気を遣うことはないのに。

「なるほど、沙羅は初めてだったのか。それはいいな」

 突然話に参加してきたのは武田。手には今夜行うクリスマスパーティーに使う物が大量だ。

 ナギとの会話をしっかり聞かれていたようで少しばかり恥ずかしい。ナギに聞かれるのはどうもないが、武田に聞かれるとやはり照れてしまう。自分のことを知ってもらえるのは嬉しいのだが、それでも「どう思われただろう」と気になって仕方がない。
しおりを挟む

処理中です...