愛するな、と言われても、人は誰かを愛してしまうものなのだろう。~婚約破棄のその先に~

四季

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前編

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 愛するな、と言われても、人は誰かを愛してしまうものなのだろう。

 ――私はかつて婚約者だった男から「お前みたいなやつに愛された男は不幸だ、だからお前は一生誰も愛するな」と言われ婚約破棄された。

 以降、その言葉を守って生きてきた。

 思えば守る必要なんてなかった。
 あんな私の心を傷つけるためだけの言葉なんて。

 くだらない、と一蹴してやればそれで良かったのだ。

 でもできなかった。

 その頃の私はまだ真面目で、それゆえ、彼に言われたことを素直に受け入れてしまって――そうか私は人を愛するべきではないのだ、と思ってしまっていたのだった。

 けれどもその時は突然やって来る。

「あの、これ、貴女のネックレスですよね?」
「あ……」
「さっき落としたみたいですよ」

 ある喫茶店にて、私の落とし物を拾ってくれた彼に、私は一目惚れ。

「あ……はい、そう、です。ありがとうございます……」

 愛する、なんて、大層な言い方かもしれない。でも私は確かに彼を愛した。無意味なことだと、実らない想いだと、分かってはいても。それでも一度生まれた感情が消えることはなく。

 私はただひたすらに彼を想うようになった。

 もう既に魔法にかかっていたのだ。
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