おじいさん、出張のふりをして痛い目に遭う

四季

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前編

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 むかしむかし、あるところに、八十四歳のおばあさんと八十歳のおじいさんが住んでいました。

 二人は新婚の頃に都会を離れ田舎と呼ばれる地域に移り住みました。そこそこ立派な一軒家を建て、今もその家で二人で暮らしています。

 おばあさんは子どもを欲しいと考えていました。けれどもおじいさんはそうではなくて。最初の頃はおばあさんもおじいさんを説得しましたが、実りはなく。結局、子どもを設けることはできずに、八十代になりました。

 それでもおばあさんは毎日家事に精を出します。
 子どもを産むという一つの夢は叶わなかったけれど、おじいさんと共に田舎暮らしを堪能できたことは良かった。いつもそう考えるようにして、心を強く持とうとしているのです。

 しかし、そんなおばあさんにも、最近夫に関する悩みがあります。

 七十歳になった頃から、おじいさんの出張が妙に多いのです。

 おじいさんが勤めている会社は定年というものがないので、おじいさんは今も勤めていて、出勤日数は少ないものの働いています。

 ただ、数十年勤めてきていても、出張などということは数えるほどしかありませんでした。おばあさんの記憶にあるおじいさんの出張など、かなり少ない回数です。

 しかし、十年ほど前から、おじいさんの出張が急激に増えました。

 若い頃もそんなになかったのに、高齢になってからそんなに出張が増えるものだろうか。そんな違和感を覚えたおばあさんは、以前、こっそり会社に電話をかけて話を聞こうとしました。

 なぜ高齢社員をそんなに荒く使うのか、と、会社に尋ねてみたのです。

 すると、出張ではないことが判明しました。

 会社は「高齢社員の方に急激に出張を増やす、ということは、考えられません」と言っていて、その時おばあさんは悟りました。

 出張のことにしているけれど何か別の外出なのだな、と。

 しかしおばあさんはすぐには話を出しません。策もなくいきなり疑いをかけても逃げられてしまうだけと分かっているからです。そこで、まず調査を重ねることにしました。調査といっても本格的なものではないのですが。おばあさんにできる範囲で、おじいさんの出張と言われている外泊について調べ始めました。

 証拠となりそうな品はすぐに見つかりました。

 おじいさんが外泊の時に持っていく鞄の中から出てきた映画チケットの領収書。二枚のチケットを購入したことが記載されているもの。しかも、その二枚は隣り合う番号のため、恐らく隣同士の席であろうと想像できます。

 おじいさんが泊まりの時によく持っていく寝巻きの上衣にひっついていた、明るい色の長い髪。おじいさんの髪は灰色がかってはいますが、脱色した金髪ではありません。もちろんおばあさんも。

 元々お菓子の箱であった箱に入っていた大量の手紙も、おばあさんは回収しました。そこに入っている手紙はすべてラブレターのような手紙だったからです。おじいさんが自室に隠していれば回収できなかったかもしれませんが、油断しているのか居間に置いてあったため回収することができました。ちなみに、中身だけの回収で、箱自体はそのままです。
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