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前編

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「聞いたぞ。君は僕の幼馴染みを陰で虐めていたそうだな」

 婚約者ボルムンがある日突然そんなことを言ってきた。
 それも怒ったような顔で。

「一体何のお話ですか?」

 彼に仲の良い幼馴染みがいることは知っていたけれど、私はその人とは交流がない。ずっと前に一度彼の家の廊下ですれ違い、ちらりと睨まれただけの関係性だ。

「彼女から聞いたんだ、ずっと虐められていたと。驚いたよ。……君はそこまで心が腐っているんだな」

 はい?
 意味が分かりませんが。

「待ってください! 私たちはそこまで知り合いではありません。虐めていたこともありません」
「嘘をつくとは、何と愚かな」

 ……話になりそうにない。

 きっとその幼馴染みが作り話でも吹き込んだのだろう。

 まったく、厄介なことをしてくれる。
 対処するのが面倒臭いではないか。

「しかも口止めしていたそうだな。まったく、どう育てばそんな酷いことができるんだ」
「その話は幼馴染みの方から聞かれたのですか」
「あぁ、そうだ」
「ならそれは嘘です! 作り話ですよ。それとも、虐めを証明する根拠が何かありますか?」

 するとボルムンは黙ってしまった――が、少しして。

「根拠? そんなもの必要ない! なぜなら彼女が嘘をつくことなど絶対にないからだ! 彼女は嘘など言わない、彼女は素直で優しいんだ!」

 重度に洗脳されているようだ。

「ま、そういうことで……君との婚約は破棄とする!」

 彼はそんなことを言って、私との関係を投げ捨てた。
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