婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季

文字の大きさ
2 / 4

2話

しおりを挟む
「えっ……何これ。ぼ、ぼっ、ぼ、僕じゃないよ」

 彼の表情は一気に変わった。
 明らかに焦っている。

「この写真の男性の顔、明らかに貴方の顔よ」
「なっ、何これ、知らないよ。ぼ、僕、僕はこんなの、し、しなっ……知ら、ないしっ……」

 分かりやす過ぎる。
 本当に知らないなら、こんなおかしな物言いにはならないはずだ。

「とぼけなくていいわ。時間がもったいないから」
「し、知らな、いっ……よぅっ……!」
「本当のことを言って」

 冷ややかに告げると、彼は黙り込む。

 数十秒の沈黙。

 その後、彼はゆっくりと口を開く。

「……最近知り合ったんだ」

 彼は弱々しい声で言葉を紡ぐ。

「あるパーティーで声をかけてもらって、それで、親しくなったんだ。それで、今度は二人で会わないかと誘われて……会うことにした。それから何度か会ったんだ」

 知らぬふりを貫こうとしていたようだったが、さすがにもう貫けなくなったようだ。だが、こちらとしては、知らないふりなんて貫かないでもらえる方がありがたい。曖昧なまま話が進まなかったら、時間を捨てることになってしまう。

「何度か、というのは、何度?」
「ええと……多分、百回くらい、かな」
「百回!?」

 これにはさすがに驚かずにはいられなかった。

「それはもう婚約破棄ものね」
「うん……だよね、覚悟はしてるんだ。婚約破棄になっても仕方ない、そう思うよ……」
「ならそうする? 婚約破棄する?」
「そうだね……うん、そうしようかな」

 彼の表情がほんの少し明るくなった。

 婚約破棄が辛い、ということはなさそうだ。いや、それどころか、婚約破棄に話を進めたいと考えているような雰囲気すらある。彼にとっては婚約破棄となる展開の方が良いのかもしれない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたに愛されたいと願う私は愚か者だそうです、婚約者には既に心に決めた人が居ました。

coco
恋愛
「俺に愛されたい?お前は愚かな女だな。」 私の愛の言葉は、そう一蹴された。 何故なら、彼には既に心に決めた人が居たのだから─。

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

彼には溺愛する幼馴染が居ますが…どうして彼女までこの家に住む事になっているのです?

coco
恋愛
彼には溺愛する美しい幼馴染が居る。 でもどうして、彼女までこの家に住む事になっているのです? ここは本来、私たちが幸せに暮らすはずの家だったのに…。

あなたの瞳に映るのは妹だけ…闇の中で生きる私など、きっと一生愛されはしない。

coco
恋愛
家に籠り人前に出ない私。 そんな私にも、婚約者は居た。 だけど彼は、随分前から自身の義妹に夢中になってしまい…?

私が愛されないのは仕方ないと思ってた…だって、あなたの愛する人を傷つけた悪女だから。

coco
恋愛
私は婚約者の彼から嫌われていた。 でも仕方ないわ、私は彼の愛する人を傷つけた悪女だもの。 そう思い、全てを諦めていたけど…?

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ

さこの
恋愛
 私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。  そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。  二十話ほどのお話です。  ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/08/08

私を裏切り結ばれた婚約者と姉は…その身に、醜い呪いを受ける事になりました─。

coco
恋愛
私を裏切り、結ばれた姉と婚約者。 姉は、昔から好きだった彼と結ばれた事に、幸せを感じていたが…?

私を見下す可愛い妹と、それを溺愛する婚約者はもう要らない…私は神に祈りを捧げた。

coco
恋愛
私の容姿を見下す可愛い妹と、そんな彼女を溺愛する私の婚約者。 そんな二人…もう私は要らないのです─。

処理中です...