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婚約破棄された絶望の中、見つける光。

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「貴様との関係は本日をもって解消する」

 婚約者の彼は、今日、はっきりとそう告げた。

 今は彼のところから家へ戻っている途中。
 けれども足取りは重い。
 心には黒く重い暗雲のようなものが立ち込めている。

 私は彼を愛していた。でも、彼が言うには、彼にとって私はどうでもいい女だったらしい。しかも彼は言った、私より素晴らしい女性を愛しているのだと。私の胸に彼への想いはあっても、彼の胸には情さえなかったのだろう。

 もっと早くに気づくべきだった……。

 自分でも愚かだとは思う。
 勝手に愛して、絶望して。

 もう少し客観的に見られる目を持つべきだったと後悔している。

 そうすればこんなに傷つかずに済んだのに。

 心は雨降り。
 はびこるのは絶望。

 あぁこれからどうしよう……、と考えては、もう終わりにしてしまおうか、とまで思考が至ってしまう。

「君! 危ないよ!」

 道を歩いていた時、突如降ってくる声。

 すぐそこにまで馬車が迫っていた。
 私は咄嗟にそれをよける。

「大丈夫!?」
「あ、はい。すみません、ありがとうございます」

 心配してくれたのは青年だった。

「ぼんやりしていたら危ないよ」
「ごめんなさい」
「謝らなくていいけど……大丈夫?」
「はい、大丈夫なので、放っておいてください」

 ついそんなそっけないことを言ってしまって、後悔。

 でも彼は離れなかった。

「辛そうな顔してるけど……僕でよければ話聞こうか?」

 それが彼との始まり。

 彼との縁は、婚約破棄されたことから発生したのだ。


◆終わり◆
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