上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む
 そこそこ地位のある家の長女として生まれた私は、親が決めてきた男性と婚約することとなった。

 この家に生まれたから仕方のないこと。
 だから私は抵抗はしなかった。

 定めに従い、その中で生きよう。

 そう思っていた。

「あんたとの婚約、破棄するわ!」

 ある日、婚約者セヤネンはそんなことを告げてきた。

 彼と婚約者同士となりやがて結婚し夫婦として生きてゆく。そんな人生を当たり前のものと思っていた私にとって、その婚約破棄は衝撃的なものだった。だって、婚約を破棄するということは、人生という定めをぶち壊すということだ。彼はそんなことを平然とやってのけた。それが理解できず、衝撃が大きすぎて脳が破裂してしまいそうだった。

「あの……なぜ、ですか……?」
「嫌いやから!」
「え……」
「ほんとそれだけ! シンプルな理由やろ? それ以外に理由はないねん」

 こんな時であっても、セヤネンは爽やかだった。

「そう、でしたか……」

 嫌い。
 それが理由か。

 でもそこまではっきり言われてしまってはどうしようもない。

「分かり、ました……。では、私はこれで……失礼、します……」

 なるべく動揺を隠すようにして、セヤネンの前から去った。
しおりを挟む

処理中です...