あなたの剣になりたい

四季

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episode.12 怒られずに済みはしたものの

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 父親や使用人は、敵から離れている。それゆえ、彼らが一瞬にして危険に晒されるということはないだろう。

 だが、リゴールはそうではない。

 彼の場合は、近くに敵がいるし、既に首を狙われている。なので、私のほんの数秒のもたつきによって彼が危険な目に遭う可能性は、比較的高いと言えるだろう。

 ならば、優先すべきはリゴールだ。

 ……いや、本当は、私が彼を助けたかっただけなのかもしれないけれど。

「貴方が倒すべきは私よ!」

 敵に向けて言い放つ。
 すると、リゴールの首を狙っていた敵が、視線をこちらへ移した。

 先ほど言葉による意志疎通が不可能であることは確認した。だから、敵がこちらを向いたのは偶々なのだろう。私が発した言葉に反応しての行動ではないものと思われる。

 だが、それでもいい。
 今は敵の意識をリゴールから逸らすことができれば、それで十分だ。

「かかってきなさい!」

 腹部の前辺りで剣を構え、言い放つ。

 剣を持っているとはいえ素人だ。それゆえ、本当は、かかってこられると困る。が、この状況だから仕方がない。すべては、犠牲を出さないためだ。

「エアリ……!?」

 敵はこちらへと走り出す。
 その様に、リゴールは動揺しているようで。
 だが、彼に何かを返している余裕はなかった。敵が迫ってきているのだ、呑気に話してはいられない。

「遠慮なく行くわよ!」

 ……素人だが。

 剣の柄を握る両手に、力を加える。そして、接近してきた敵を狙うようにして、剣を大きく振った。
 白色の光が、宙を駆ける。

 ——そして、敵は姿を消した。

「や……やった……」

 安堵の溜め息を吐くと同時に、言葉も漏らす。
 取り敢えず目の前の敵は倒すことができたようで、心の底からほっとした。周囲に他の敵がいる様子もないし、恐らく、これで落ち着けることだろう。

 その時。

「え、え、エアリーッ!!」
「……え?」

 私の名を叫びながら、リゴールが走ってきていた。私のところで停止することなどまったく考慮していないような、凄まじい勢いで。

 まずい。このまま走ってこられたら、激突する。

「ま、待って! 止まって!」

 最優先事項はこれ。そう判断し、叫んだ。

 リゴールはその叫びによって停止しなくてはならないことに気がついたようで、急停止。何とか止まったものの、前に向かって転びそうになり、暫し両腕を肩から回転させていた。

「大丈夫だった? リゴール」
「はい」

 私の問いに、彼はこくりと頷く。

「なら良かったけど、あまり無理しちゃ駄目よ」
「は、はい……」
「敵に突っ込んでいくような真似は、特に駄目!」
「……申し訳ありません」

 リゴールは落ち込み、元々小さい体を縮めていた。そのせいで、すっかり小さくなってしまっている。まるで小動物のよう。

「よし。それじゃあ、皆を自由にしてあげなくちゃ。リゴールも手伝ってくれる?」
「……はい!」

 それから私は、リゴールに協力してもらいながら、拘束されている父親や使用人たちを自由にした。

 危険な目に遭わせてしまったうえ、許可なく勝手に家に帰ってきた。だから、怒られて当然だろう。私はそう考えていたのだが、父親は意外にも怒らなかった。

 ただ、彼は始終、起こっていたことを理解できていないというような顔をしていた。


「本当に、またしてもご迷惑を……申し訳ありません」

 私の自室内にて、向かいの椅子に座っているリゴールは、そう謝罪した。
 こうして彼の謝罪を聞くのは、これで何度目になるだろうか。数えていなかったから厳密には分からないが、二三回ではないように思う。

「気にしないで。父さんにも案外怒られなかったし、セーフだわ」
「お父様は……何と?」
「怪我がなく済んだから良かったが、あの不気味な男は今日中に出ていかせろですって」

 私は父親から言われたことをそのまま伝えた。

「なるほど……それは当然のことですね」

 リゴールは、父親の発言に反発する気はないようで。

 しかし、その表情は暗かった。
 今の彼の顔は、まるで、曇り空の下の街のよう。ぱっとしない。

「……ところで、ですが」

 リゴールはぱっとしない顔のまま話題を変えてくる。

「その剣、なぜ使えたのですか」
「え?」

 椅子に立て掛けていた剣に、改めて視線を向ける。

 元々リゴールのペンダントであった剣。しかし、ペンダントの形に戻りそうな気配はまったくない。永遠に剣のままなのではと思ってしまうくらい、完全に剣である。

 私はその剣を持ち上げる。

「これ?」
「えぇ……それは、わたくしのペンダントですよね?」
「そうなの! 急に変化したの」

 ペンダントだったなんて信じられないくらい、今は剣だ。

「……信じられません」

 リゴールは微かに目を伏せる。

「そうなの?」
「その剣を抜ける者が地上界にいるなど……とても」

 事情はよく分からないが、よくあることではないということだけは分かった。しかし、それならなおさら、「なぜ私が」という気分だ。

「そのペンダントが剣となることがあるという話は聞いたことがあります。伝説によれば……そのペンダントは、かつてホワイトスター誕生に貢献した者が使っていた剣がペンダントの形になったものなのだと。そのような話を……いつか聞きました」

 腑に落ちない、というような顔のまま、リゴールは話す。

「……ホワイトスターが滅ぶ前、幾人もの猛者が挑戦したのです。ペンダントを、何とか剣の形にできないかを。しかし……誰一人として成功しませんでした」
「剣にならなかったのね」
「はい。なのにエアリは剣を……」

 リゴールは視線を上げ、こちらをじっと見つめてきた。

「何か心当たりは?」
「な、ないわよ! 心当たりなんて!」

 すると彼は、再び視線を床に落とす。

「……そうですか」

 彼が残念そうな顔をしているのを見ると、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。

 だが、協力しようがないのが現実だ。

 私が剣を使ったのは、あの時偶々現れたから。そして、敵を退けるために使えそうなものが、剣以外になかったからである。

 それ以上でもそれ以下でもない。

「あまり役に立てなくてごめんなさい」
「い、いえ! 答えて下さってありがとうございます、エアリ」

 リゴールは笑みを浮かべながら言う。
 そして、椅子から立ち上がった。

「あの……」

 気まずそうな顔をしつつ、リゴールは小さく口を動かす。

「リゴール? どうしたの?」
「……今夜、もう一晩だけ泊めてはいただけないでしょうか」
「えっ。何それ」

 私は思わず本心を発してしまった。

「あ、む、無理……ですよね。その……申し訳ありませ……」
「え、違う! 違うの、そういう意味じゃないわ!」

 開いた両の手のひらを胸の前で振りながら述べる。
 断るつもりだったわけではないからである。
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