あなたの剣になりたい

四季

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episode.37 もう止めて下さい

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 いきなりの発言に、リゴールは困惑しているような顔をした。

 彼は、ベッドに横たわったまま、私に視線を向けている。その視線を放つ青い瞳には、戸惑いの色が濃く浮かんでいる。

 そして、それは彼だけではなかった。
 私の隣でナイフを拭きつつ話を聞いていたデスタンも、リゴールと同じように、困惑の色を浮かべている。

「え……あの、エアリ……?」

 一分にも満たない沈黙の後、リゴールが口を開く。

「エアリのお母様の家とは……どういう意味なのでしょうか」
「ごめんなさい。事情を説明するわ」
「は、はい」

 リゴールとデスタン、両者から凝視され、背筋に緊張が走る。だが、何事もきちんと説明をしなければ何も始まらない。そう思うから、私は、話すことにした。

「あの後、話をしていて分かったのだけれど、私の母はホワイトスター出身だったみたいで」
「そ、そうなのですか!?」

 リゴールは食いついてくる。

「えぇ。リゴールのことを知っていたのも、母がホワイトスター出身だったからだわ」
「確かに……あの方はわたくしを見てすぐに気がついたようでしたね」

 嘘だ、と言われたらどうしようと、不安もあった。けれど、リゴールは私の発言を否定したりせず聞いてくれたから、私は少し安堵することができた。

「そんな話をしながら、母が暮らしている家へ行ったの。思っていたより立派な屋敷だったわ」
「ということは……ご両親がそれぞれ屋敷を? もしかして、エアリは、結構高い身分のお嬢様で……?」
「まさか。それはないわ」

 貧しい暮らしをしていたということはないが、特別豊かな暮らしをしていたわけでもない。
 家は森の奥の狭い村。食事はあっさり。友人はあまりいない。そんな、ぱっとしない暮らしをしてきた。

「でね、その屋敷がホワイトスター風だって、母が言うのよ」
「それは……ホワイトスター風の建築ということですか?」
「どちらかというと、外観みたい。それと、白い石畳があるところも気に入っているみたいだったわ」

 すると、リゴールが目をぱっと開いた。

「白い石畳!」

 リゴールの青い双眸に光が宿る。
 また、彼の表情が急に明るくなった。

「白い石畳のことをご存知とは! エアリのお母様がホワイトスターの関係者だというのは、真実なのですね!」

 そんなに意味のあるものなのか、白い石畳。

「疑っていたの?」
「あ……い、いえっ! そういうことでは! ありませっ……んぅ!?」

 首を左右に振りながら、慌てて上半身を持ち上げようとしたリゴールは、突如苦痛に顔を歪める。

「リゴール!?」
「す、すみません……急に動きすぎました……」

 そう言って、リゴールは再び横になる。

「しっかりして下さい、王子」

 デスタンは冷めた声で挟んでくる。

「は、はい……」
「情けないですよ」
「すみません、デスタン……」

 デスタンは妙に厳しい言い方をする。
 なぜだろう。
 あんなに、リゴールを大切に思っているようだったのに。

「だからね、もし良かったら、リゴールも屋敷に来てくれない?」
「あ、いえ……そんな。もうお世話になるわけには……」
「皆で一緒に過ごすというのも、楽しいと思うわよ?」
「は、はい。それはその通りですが……」

 リゴールは嫌なのだろうか?
 そんな風に考えていると。

「何のつもりです」

 デスタンがそう発した。

「王子を手に入れようという算段なら、許しはしません」
「なっ……そんなわけないじゃない!」
「暮らせる家はここにあります。わざわざ移動する意味など、ありはしないでしょう」

 こちらを睨みながら、冷ややかな声を発するデスタン。

「環境が変われば、王子に負担をかけることになります。追い出されてしまったならともかく、意味もないのに移動する必要が、どこにあると言うのですか」

 ……既に反対されている。

 デスタンがこの状態では、もし仮にリゴールが移動に賛成してくれたとしても、すんなりと移動することはできないだろう。

 本当に説得すべきは、リゴールよりデスタンなのかもしれない。

「ホワイトスターのことに理解がある人がいる家の方が良いかなって思ったのよ」
「理解など必要ありません。協力してくれるなら、それだけで十分です」
「それに、この家がブラックスターにバレた可能性が高いなら、移動した方が……」
「そんなことを言って、貴女は王子を連れていきたいだけではないのですか?」

 ……う。

 ま、まぁ、それもあるけど。

 だが、リゴールを連れていきたいからという理由だけで、こんな提案をしているわけではない。

 ——けれど、そこは、デスタンには伝わっていないようで。

「王子はおもちゃではないのですよ!」

 鋭く言われてしまった。

「な、何よ、いきなり……」
「王子がいつも貴女の言いなりになると思っているなら、それは大間違いです!」

 声を荒らげるデスタンを余所に、ベッドで横になっているリゴールを一瞥する。リゴールは、焦りと不安が混ざったような表情で、私たちを見つめていた。

「都合よく利用しようとしないで下さい!」
「利用? 何よそれ。そんな言い方はないでしょ!?」
「貴女の自己中心的な発言によって、王子はいつも迷惑を被っているのです!」

 ——その時。

「もう止めて下さい、デスタン」

 リゴールがデスタンの片手を掴んで言った。

「そんなに言わなくて良いですから」

 制止されたことが意外だったのか、デスタンは戸惑ったような顔をしている。

「しかし王子、この女は……」
「この女ではありません! エアリです!」
「すみません。……ですが、彼女は、王子の善良な心に付け込むようなことばかり」

 デスタンは謝罪しつつも意見を述べる。しかしリゴールは、首をゆっくりと左右に動かすだけで、デスタンの意見に賛同はしない。

「エアリのことを悪く言うのは止めて下さい」
「……なぜですか、王子」
「彼女は信頼するに値する人物です」

 納得できない、というような顔つきをしている、デスタン。しかし、今回はリゴールも譲らない。

「意見を述べるのは自由です。が、意味もなく攻撃的な言葉を発するのは、わたくしが許しません」
「……はい」
「エアリは優しい人。それは、きっといつか、貴方にも分かるはずです」

 リゴールがそう言ったのを最後に、デスタンは唇を結んだ。
 それを確認してから、リゴールは私の方へと視線を移す。

「デスタンが色々すみません」
「え? あ。気にしないで」
「お誘いありがとうございます。その……エアリに誘っていただけて、嬉しいです」

 リゴールは、はにかむ。

「ただ、すぐには決められないので……少し待っていただけませんか?」

 デスタンにはこれでもかというほど反対されてしまったが、リゴールは嫌がってはいないようだ。

「分かった。待つわ」
「ありがとうございます……!」
「お礼なんていいのよ。こっちこそ、急に言って悪かったわね」

 この感じなら、もしかしたら、上手くいくかもしれない。まだはっきりとした返答は貰えていないから、確定ではないけれど。でも、エトーリアの屋敷へ移動するという道も消え去ってはいないと、そう考えて問題ないはずだ。
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