あなたの剣になりたい

四季

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episode.39 かなり早い朝食

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 翌朝、まだ早い時間に、デスタンがやって来た。

「……え、デスタンさん!?」

 ノックに気づき扉を開けたところ、彼が堂々と立っていたため、かなり驚いた。

「少し失礼します」

 しかも、ただやって来ていただけではない。深さのある皿を乗せたお盆を持っている。
 この時間帯に彼が家にいるというだけでも珍しいことなのに、皿を持って訪ねてくるなんて、驚きでしかない。

「こんな朝早くから……何か用なの?」

 そう尋ねると、彼は、すたすたと歩きつつ「王子の朝食です」と答えた。
 まだベッドの中で寝惚けていたリゴールは、デスタンが部屋に入ってきたことに気づくと、あくびをしながら上半身を起こす。

「デスタン」
「おはようございます、王子。食事をお持ちしました」
「朝食ですか? ……こんな早くに?」

 何とか体を起こしはしたリゴールだが、眠気はまだ吹き飛ばせていないらしく、手の甲で目元を擦っている。

「デスタン、貴方、少し早すぎやしませんか……?」
「そうでしょうか」
「こんな早朝から食事なんて……」

 珍しくぶつくさ言うリゴール。
 しかしデスタンは眉一つ動かさない。

「食べられるなら食べて下さい」

 デスタンはお盆をテーブルに起き、真顔のまま淡々と放つ。

「食べられないなら食べなくて構いません。が、その場合は朝食は抜きです」

 さらりと言われたリゴールは、目を大きく見開く。

「え!? そ、それは困ってしまいます!!」
「では食べていただけますか」
「はっ、はいっ! もちろん! い、い、いただきます!」

 リゴールは慌てて掛け布団を放り出すと、勢いよくベッドから立ち上がる。そしてテーブルに向かって駆け出す。だが、つい先ほどまで寝惚けていたというのもあってか、足がふらついている。不安定で、時々、足と足が絡みそうになっていた。

 何とかテーブルにまでたどり着いたリゴールは、皿を見下ろし、静かな声で発する。

「これは……スープですか?」

 それに対し「はい」と答えるデスタン。

「スープァンという、この辺りでは有名な料理だそうです。何でも、スープに浸けることでパンを柔らかくして食べやすくした、病人向けの料理だとか」

 そんなものがあるのか、と思う。

 私はリゴールたちと違って、ずっとこの世界で暮らしてきた。けれど、スープァンなんて料理は知らない。食べたことはないし、聞いたことさえなかった。

「なるほど、そういう料理なのですね。……しかしデスタン。なぜ病人向けの料理をわたくしに食べさせるのです?」

 リゴールは椅子に座り、スプーンを握っている。ぶつくさ言っていたわりには、食べる気満々のようだ。

「事情を話したところ、ミセが勝手に作って渡してきましたので」
「勝手に!?」
「はい。勝手に、です」
「そうでしたか……では早速いただきますね」

 私はリゴールに少し近づき、さりげなく皿の中を覗いてみる。

 赤茶色をした半透明のスープに、刻んだネギと丸い塊が浮かんでいた。丸い塊は、恐らく、千切ったパンなのだろう。

 皿を見ながらそんなことを考えていると、唐突にリゴールが振り返る。

「どうかなさいましたか? エアリ」

 いきなり声をかけられたものだから、すぐに言葉を返すことはできなかった。

「……あ。もしかして、エアリもお腹が空いているのですか?」
「え」
「あるいは、この料理が好物なのですか?」
「えぇ!?」

 何やら誤解されている気が。

「違うわ。ただ、少し気になって……それで、見ていただけよ」

 誤解されたままになっては困るので、私は、取り敢えずそう返しておいた。
 するとリゴールは笑顔になる。

「なるほど! そうでしたか!」

 理解してくれたようだ。
 良かった。

 その直後、リゴールはスプーンでスープァンのスープ部分をすくい、私の方へ差し出してきた。

「一口、食べられますか?」
「えっ」
「ご安心下さい。わたくしはまだ口をつけておりません。ですから、不潔ではありませんよ」

 差し出されたのが意外だっただけで、べつにそこを気にしていたわけではないのだが。

「じゃあ、一口だけいただこうかしら」
「はい! どうぞ」

 唇がリゴールの持つスプーンに触れかけた——刹那。

「お待ち下さい!」

 デスタンが発した。
 その声に驚き、私は口を開くのを止める。

「……何ですか?」

 眉間に戸惑いの色を浮かべつつ尋ねるリゴール。

「彼女は良いかもしれませんが、王子が後で彼女と同じスプーンでお食べになるというところは問題です!」

 デスタンは鋭く放つ。
 それに対し、リゴールは素早く返す。

「そのような言い方は止めなさい、デスタン。エアリは不潔な生き物ではありませんよ!」

 リゴールはスプーンを私へ差し出したまま、不満げに頬を膨らませている。

「彼女が不潔だと言っているわけではありません。ただ、他人とのスプーンの共用は良くないと、そう言っているだけのことです」

 デスタンは淡々とそう言い返すが、リゴールは黙らない。

「それは不潔と言っているも同然です!」
「いえ。そのような意味では言っておりません」
「そう聞こえますよ!」
「そう聞こえたとしても、そのような意味で言ってはいません」

 こんな時に限って、リゴールもデスタンも譲らない。二人とも、本当はお互いのことを大切に思っているのだろうに。

「しかしデスタン! 本人の前でそのようなことを言うのは、不快感を与えますよ!」
「そうでしょうか。事実を言ったまでですが」
「例え事実であったとしても、言って良いことと悪いことがあるのですよ!」

 私のことがきっかけであったはずなのに、私が口を挟む隙は少しもない。

「理解できません」
「なら、理解しなくて良いので、今覚えて下さい!」
「……承知しました」

 ついにデスタンが引いた。
 すると、リゴールは余裕の笑みを浮かべる。

「そうです。分かれば良いのです」

 勝ち誇ったような顔をしながらスプーンを差し出してくるリゴール。だが私は、今さら食べさせてもらう気にもなれず、「ありがとう。でも、やっぱりいいわ」と言っておいた。すると彼は、眉をひそめつつ、残念そうに「そうですか」と言っていた。

「ところでエアリ」
「何?」
「その……エアリのお母様の屋敷へ移動するという件についてなのですが」

 そういえば。
 そんな話もあった。

「わたくしは、その……賛成です」

 眉を寄せ、若干上目遣いで、言いづらそうにしながらもリゴールは放つ。

「本当!?」

 彼なら賛成してくれるだろうと予想してはいたけれど、この世に絶対なんてものはないからと、あまり期待しないように心がけていた。しかし、今のリゴールの言葉を聞けば、彼は確かに賛成してくれているのだと、理解することができる。本人が言ったのだから、間違いということはないはず。つまり、もう喜んで良いということだ。

「……はい」

 リゴールは頷く。
 それを見たデスタンは、困惑しているような顔をしていた。

「ただ、一つだけ聞かせていただいても問題ありませんか?」
「えぇ。良いわよ」
「……そこには、お父様もいらっしゃるのですよね? その……怒られたりはしないでしょうか」
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