あなたの剣になりたい

四季

文字の大きさ
65 / 207

episode.64 今後への思考

しおりを挟む
 数分後、私たちが案内されたのは食事のための部屋。以前エトーリアと二人で使ったことのある、地味な一室だ。一旦この部屋で待機するよう言われたため、椅子に腰を掛け、ぼんやりしながら、次に声がかかるのを待つ。

「美しい屋敷ですね!」
「そう?」
「はい! 素晴らしい屋敷だと思います。さすがはエアリが紹介して下さった屋敷、という感じです!」

 ここへ来てからというもの、リゴールは妙に上機嫌。後から疲れたりしないだろうか、と、少し心配になるくらいの勢いである。

「この場所、お気に召したのですね」

 さりげなく会話に参加してくるのはデスタン。

「はい!」
「それは良かったです」
「ありがとうございます!」
「……もっと早くここへ移動すべきだったのかもしれませんね」

 デスタンの表情が微かに陰る。また、声も同じように変化する。
 他者の声色の変化など気づきそうにないリゴールだが、目の色を変えた。デスタンが放つ雰囲気の微かな変化に、リゴールは気づいたようだ。

「まさか! そんなことはありませんよ、デスタン」

 リゴールは笑顔を作り、デスタンに話しかける。

「貴方の頑張りがあったからこそ、わたくしもエアリもミセさんの家に泊めてもらえたのです。そして、それがあったからこそ、野宿せずに済みました。ですから、わたくしはデスタンの頑張りにも凄く感謝していますよ」

 華奢な彼の口から出るのは、優しさ。善良な彼を映し出す鏡のような言葉。それらは、ややひねくれ気味なデスタンにさえ、すんなりと染み込んでゆくようで。

「……気遣いは不要です」
「あ。もしかしてデスタン、照れていますか?」

 リゴールが冗談混じりに問う。
 するとデスタンは強く「照れてなどいません!」と返した。

「……直球で礼を述べられると、どのように返すべきか分からず、少し困ってしまう……ただそれだけのことです」
「やはり照れていますね!」
「もう一度申し上げますが、照れてなどいません!」
「デスタン! どう見ても照れていますよ!」

 いや、あの、そんなことで言い合いしなくていいから……。

 そう言いたくなるのを飲み込みつつ、私はそっと口を挟む。

「照れていても照れていなくても、どっちでもいいんじゃない?」

 するとリゴールとデスタンは、唇を閉ざして視線を合わせ、それから数秒して、呆れたように笑みを浮かべ合っていた。

 なんだかんだで仲良しなのだ、彼らは。
 まるで女子同士の親友のようなのだ、二人は。

 そして私は、たまに浮いてしまう!

 ……いや、そこはおいておくとしようか。

「確かに、言われてみればそうですね。まさにエアリの言う通りです」

 苦笑しながら先に発したのはリゴール。

「……無益な言い争い、失礼しました」
「デスタンは悪くありませんよ。わたくしがあまりよろしくないことを言ったのが問題です」

 いつだって傍にいて、時にすれ違い、ぶつかり合うことはあっても、本当に憎しみ合うことはなく。どんなことがあっても、最後はまた笑って顔を見合わせられる。

 私もいつかそんな相手がほしい——少し、そう思った。

「ところで、王子」
「何でしょう?」
「今後はいかがいたしましょう」

 デスタンからいきなり話を振られ、リゴールは首を傾げる。

「ここで暮らしてゆくのではないのですか?」
「そうではありません。私が質問しているのは、ブラックスターの輩への対応です」

 瞬間、リゴールの無垢な瞳が曇った。

「……また現れるでしょうか」

 両の瞳に不安の色を滲ませながら漏らすリゴールに、デスタンは「恐らくは」と告げた。
 デスタン本人に悪意はないということは、重々承知している。が、平淡な言い方ゆえ、私には少し心ない口調に感じられてしまった。

「エアリの話によれば、グラネイトは身を引くということでしたが……ブラックスターに狙われる定めは変わらないのでしょうか……」

 片手を口元へ添えつつ、独り言のように発するリゴール。デスタンは、それに、きっぱりと返す。

「私に未来予知能力はありません。ですから、未来は分かりません」

 リゴールはすぐに言葉を返すことはできずにいた。そのため、室内に沈黙が訪れてしまう。それを気にしてか否かは不明だが、デスタンが続けて言葉を放つ。

「ただ、私は、王子をお護りするためにできることはすべて行っていこうと、そう考えています」

 デスタンは真剣な顔つきだ。

「第一は、必要な時に戦えるよう私自身が強くなること。そして次に」

 そこまで言って一旦言葉を切ると、デスタンは私へ視線を向けてきた。

「剣を持つ彼女が、ある程度まともに戦えるようになること」
「わ、私!?」
「はい。貴女は剣に選ばれた特別な存在、だからこそ、努力することが必要です」

 妙に辛口だ。
 もっとも、間違っていると言う気はないが。

「……そうね。戦えるようになるには、努力が必要だわ」
「自覚があるだけましですね」

 失礼! と内心放ちつつも、敢えて過剰に反応することは避け、滑らかに話が進むよう心がける。

「けど、何から始めればいいのか、さっぱりだわ」
「個人での基礎的な体力作りは必要ですが、剣の技を教えてもらえる場所があれば最良かと」
「剣の技……」

 今デスタンと話していることが私のことであるという実感は、まったくと言っていいくらい湧かない。体力作りだとか、剣の技だとか、よく分からない。

「デスタンさんに習うというのじゃ駄目?」
「できません」
「即答!?」
「私は剣の扱いには長けていませんから、貴女に教えるには相応しくない人間です」

 嫌だから、という理由ではなかったようだ。
 それがせめてもの救い。

「話は戻りますが……第三は、新たな戦力を味方につけるということです」
「新たな戦力とは?」

 笑いたくなるくらい王道の問いを放ったのは、リゴール。

「戦える者、という意味で言いました」
「つまり……戦える味方を増やすということですね?」
「はい」

 デスタンが言うことも、分からないことはない。

 彼一人や素人の私が必死に頑張ったところで、できることは限られている。それに、場合によって敵が大勢ということも考えられるわけだから、二人でリゴールを護ることができるのかと聞かれれば、気軽には頷けまい。

 そういう意味では、戦える味方が増えるというのはありがたいことだ。

 ただ、問題は残る。

 まずは、戦える者をどこで見つけるのか。
 世の中に手練れはそう多くはないはず。ブラックスターの者と渡り合えるような人間を探すのは、楽ではないだろう。

 そして、もし戦える者を見つけたとして、その者をいかにして味方とするのか。

 知り合いの知り合いなどなら比較的スムーズに味方になってくれるかもしれない。だが、赤の他人であったなら、味方になってもらうだけでも一苦労だろう。

「ではデスタン。戦闘能力が高い者を見つけなくてはならない、ということですね?」
「はい」
「それは……貴方が見つけられますか?」

 リゴールの問いに対し、デスタンは、「善処します」と柔らかく答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@アンジェリカ書籍化決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...