あなたの剣になりたい

四季

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episode.73 変に緊張してしまって

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 クレアの武芸大会にて知り合ったリョウカが私たちの味方になってくれてから、早いもので、もう二週間が過ぎた。

 明るく快活な彼女は、私の母親エトーリアやバッサら使用人たちとも、すっかり馴染んでいる。やって来て二週間とはとても思えないような、自然な暮らしぶりだ。


 そして私はというと、日々剣の訓練に勤しんでいる。

「そう! そんな感じ!」

 屋敷の片隅で毎日行われる、剣の訓練。それを受けているのは、私一人だけ。

 リョウカの指導は厳しくも楽しいのだが、リゴールに会うこともあまりできず木製の剣を振り続けるだけというのは、少し寂しさも感じる。

「疲れたわ、リョウカ。まだ素振りを続けるの?」

 木の剣の柄を片手で握りつつ、私は問う。
 それに対しリョウカは、はっきりと「もちろん!」と答えた。

「もう疲れたわ……」
「いい? 何事も基礎が大事なんだよ。正しい姿勢と正しい動作が勝利を呼び込むから!」

 もう何十回素振りしただろう?
 いや、何百回単位だろうか?

 ……回数は何でもいい。

 が、同じ動作を繰り返し過ぎて、さすがに肩が痛くなってきた。

 やる気がないわけではない。少しでも戦えるようになろうという思いは、確かなもの。少々辛いことがあったくらいで揺らぐような、弱い思いでもない。

 だが、体力というものには限界があって。
 訓練を永遠と続けるということは、容易いことではない。

 そんなことを考えていると、まるで私の思考を読んだかのように、リョウカは言葉をかけてくる。

「ま。けど、そろそろ一旦休憩してもいいかもね」
「本当!?」
「……凄く嬉しそうだね」
「あっ……ごめんなさい。つい……」

 休憩の言葉に喜んでしまったことを謝罪すると、リョウカはその健康的な面に明るい笑みを浮かべる。そして「いいよ! 休憩しよ!」と言ってくれた。


 床に腰をつけ、リョウカと二人休憩する。無論、剣の訓練をしている部屋で、である。

「エアリ疲れた顔してるね!」
「えぇ……。もうぐったりだわ」

 訓練慣れしているリョウカは、少々のことでは疲れないのかもしれない。けれど、ほぼ素人であった私にとっては、彼女が提示する訓練内容はかなりきついものがある。

「素振りだけで音を上げてるようじゃ、強くなれないよ!」
「リョウカは凄いわね」
「えぇー!? 何その言い方!?」

 言い方が悪かっただろうか。
 私はただ、純粋に、感心したということを伝えようとしただけなのだが。

「変な意味じゃないわ」
「そうなの?」
「そうよ。凄いって思ったから、そう言ったの」

 すると、リョウカは急に頬を緩めた。
 いつもの引き締まった表情とは真逆の、だらしない顔つきになってしまっている。彼女もこんな顔をするのか、というような、力の抜けた顔つきだ。

「えへへ。そう言われたら嬉しいー」

 本当に嬉しそうな顔をしている。

「そうだ。もし良かったら、リョウカのこと、ちょっと聞かせてくれない?」
「え? 何ー?」
「リョウカがどうやって育ってきたのか、少し気になって」

 さすがにいきなり踏み込み過ぎだろうか——そういった不安がなかったわけではない。詮索していると思われたり、気を悪くさせてしまったら大変だな、という思いもあって。

 だが、それらはすべて杞憂で済んだ。

「もちろん! いいよ!」
「構わないの?」
「うん! だってあたし、他人に言えないような生き方はしてきてないもん!」


 その晩、私はリゴールと話す時間を得た。

「お邪魔して良かったのでしょうか……?」

 私の部屋へやって来たリゴールは、身を縮め、気まずそうな顔をしている。また、少し緊張しているようにも見える。久々の二人きりだからだろうか。

「良くないわけがないじゃない。私が誘ったんだもの」
「ありがとうございます、エアリ。しかし……やはり少し、緊張してしまいます……」

 リゴールは口角をぐいと持ち上げる。無理に笑顔を作ろうとしているようだ。だが、そんな笑みには違和感しかない。

 もっとも、違和感を覚えるのは、彼の本来の笑顔を知っているからであって、悪いことではないのだが。

「緊張なんてしなくていいのよ」
「それは……そうです、その通りです。しかし、どうも……」
「どうも?」
「二人というのがしっくりきません……」

 そう述べるリゴールは、先ほどからずっと落ち着きがない。周囲を見渡したり、数歩移動してみたりを、さりげなく繰り返し続けている。

 私は、「デスタンさんも呼んだ方が良かったかしら」と、ぽつりと漏らす。すると、リゴールは目をぱちぱちさせながら、首を素早く左右に動かした。

「い、いえ! エアリと二人で過ごせることは嬉しいのです!」

 かなり慌てているようで、妙に大きな声になってしまっている。

「ただ、少し、変に緊張してしまいまして! で、でも、どうかお気になさらず! わたくしの問題ですので!」

 リゴールはそう言って笑う。けれど、その笑みは歪。穏やかで真っ直ぐな笑顔ではない。こんなことを続けていては、リゴールの心にも良くない——そう思い、こちらから話を振ってみることにした。

「ところで、今日は何をしていたの?」

 どうでもいいようなことを話せば、気持ちも少しは楽になるだろう。

「え。わたくし、ですか」

 きょとんとした顔をするリゴール。

「私は今日も剣の練習だったけど、貴方は?」

 そう問うと、リゴールは「わたくしは、使用人の方から色々習っておりました」と答えた。

「……使用人と一緒にいたの?」

 思わず怪訝な顔をしてしまう。

「はい。あのバッサさんという方には、特に可愛がっていただきました」
「バッサと?」
「はい。掃除について教えていただいたのです」
「掃除!」

 確かにバッサは、昔から、家をいつも掃除してくれているが……べつに掃除の専門家というわけでもないだろうに。

「次の機会には、お茶の淹れ方でも教わろうと思っております」
「向上心があるのね」
「いえ、そんな立派なものではありません。ただ、お茶の一杯でも淹れられれば、少しは人の役に立てるかと思いまして」

 リゴールは、王子という身分であったにもかかわらず、この世界での暮らしに馴染むよう努力している。望んで訓練してもらっておきながら愚痴ばかり言っている私とは大違いだ、と思い、それと同時に、リゴールのことを尊敬した。

「貴方が淹れたお茶なら、いつか飲んでみたいわ」
「本当ですか!?」

 好物のお菓子を発見した子どものように、目を輝かせるリゴール。
 二人きりという状況による緊張は、もうすっかり消え去ったみたいだ。

「えぇ」
「エアリがそう言って下さるなら、美味しいお茶を淹れられるよう努力します!」

 リゴールはやる気に満ちた表情で拳を握り締めた。
 が、数秒で話を変えてくる。

「……と、わたくしはそんなところですが、エアリの方はどうでしたか?」
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