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episode.124 彼を追って
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そそくさと外へ向かってしまったリゴールを追おうと思っていたら、偶々通りかかったエトーリアに話しかけられてしまった。しかも、こんな日に限ってエトーリアの機嫌が良く、前に二人で出掛けた時のビーズアクセサリーの話なんかを振られてしまって。私は早くリゴールを追いたかったのだが、なかなか追うことができなかった。
その後、何とかエトーリアから逃れて私が外へ出た時には、リゴールの姿はどこにもなかった。
屋敷の外は、白い石畳が荘厳な雰囲気を漂わせる空間。
私はそこを駆け、辺りを見て回るけれど、リゴールらしき者の姿は見当たらない。目に映るのは、自然だけ。
もう行ってしまった?
……いや、でも、リゴールの運任せ過ぎる作戦がこんなすんなり成功するとは思えない。
まさか、木々の方へ?
……いや、徒歩でそんなに速く移動できるとは考え難い。
どうしよう、と迷い、一人あたふたしていた、そんな時だった。
「見つけた」
建物の陰から静かな声が聞こえてきて、私はそちらへ視線を向ける。すると、白銀の髪の女性——ウェスタの姿が視界に入った。
「ウェスタさん!」
「……王子がわざと敵に連れていかれたけど……何事?」
「リゴールを見かけたの!?」
私は思わず、彼女の手を強く握ってしまった。
「そう……襲われるのを待ってるみたいだった。一切抵抗しないのはおかしい……」
「リゴールはブラックスターへ行ったのね!?」
問いに、ウェスタはそっと頷く。
「お願い、ウェスタさん! 私をブラックスターへ連れていってちょうだい!」
「……まずは落ち着いて」
「落ち着いてなんていられない! リゴールに何かあったら大変よ!」
——刹那、手首に鋭い痛みが走る。
「っ!?」
目の前のウェスタに手首を捻られていたのだった。
「ちょ、何するの!」
「……落ち着け、と言っている」
瞳は激しく燃え上がる炎のように赤いのに、そこから放たれる視線は氷でできた剣のように冷ややか。
「ご、ごめんなさい。落ち着くから、離して」
すると、数秒経ってから、ウェスタはようやく手を離してくれた。
「……心配要らない。グラネイトがつけているから。連れ戻すよう、指示しておいた」
「グラネイトさんが……そうなの。ありがとう」
一人ぼっちでないなら、危険度も少しは下がるかもしれない。グラネイトならブラックスターとこちらの世界を行き来できるし、リゴール一人より安心だ。
「けど心配だわ。私も傍にいたいわ」
「危険」
「連れていってと頼んだら……怒る?」
また手首を捻り上げられたらどうしよう、と、恐れつつも言ってみる。するとウェスタは、赤い瞳で私の顔を凝視してくる。
「……な、何?」
「怒りはしない。怒る意味がないから」
「そ、そう……」
「ただ、行くのなら覚悟は必要」
表情も声色も、真剣そのもの。そんなウェスタを目にしたら、心の隅に恐怖心という名の芽が現れてきて。行かない方が良いのではないかと、そんな考えが脳内に溢れてくる。
「……どうする」
ウェスタの口から放たれた問いに、私はすぐには答えられなかった。
リゴールの傍にいる。
そして、彼を護る。
とうにそう心を決めていたはずなのに、ウェスタの問いに即答はできなくて。
「私、は……」
「即答できる覚悟がないなら、行かない方が良い」
ウェスタはきっぱり述べた。
私も、彼女の発言が間違っているとは思わない。けれど、その発言に従って大人しくしている気には、どうもなれない。
「い、行くわよ! リゴールが心配だもの。当然じゃない!」
彼を救えるほどの強さが私にないとしても、だからといって下がってはいられない。
「……本気?」
「もちろん! 本気よ!」
「……そう」
ウェスタは独り言のように呟き、それから私の右腕を掴む。
「なら……様子を見に行く」
——直後、私たちの体はその場から消えた。
次の瞬間、立っていたのは古びた狭い通路。
一応ところどころにランプはあるようだが、数は少なく、しかも光は弱々しい。そのため、薄暗く、視界はあまり良くない。
「……問題はない?」
「え、えぇ。ここは……ブラックスターの近く?」
「そう」
ウェスタはすっと頷き、周囲を見回す。私も真似して見回してみたが、灰色の空間と煉瓦が視界に入るだけで、他には特に何も見えなかった。
「ここに気配があったように思った。だが……見当たらない」
「どこへ行ったか、分からないの?」
敵地を闇雲に歩き回るわけにはいかない。もしまったく見当がつかないのなら、一旦引き返すことも視野に入れなければならないかもしれないというものだ。無論、そんなことはなるべく避けたいが。
「……王子は何か言っていたか」
「え?」
「ブラックスターへ行く目的」
「目的? そ、そうね……確か、ブラックスター王に話をつけるとか何とか……。けど、そんなこと、できるわけがないわ……」
その時、ウェスタは急に、納得したように「そうか」と発した。
「分かった。行こう」
「え。わ、分かったの?」
ウェスタは足を動かし始める。
それに従い、私も歩き出した。
「王の間は最上階。ルートは……二つ。片方は皆が使う最短ルート、もう一方は基本誰も使わない裏ルート。王子らが使っているのは、恐らく、裏ルート」
歩きながら、ウェスタは淡々と話す。
「ま、待って。リゴールはブラックスターのことをそんなに知らないはずよ。裏ルートなんて、知っているわけがないわ」
リゴールがここへ来たのは、この前誘拐された時くらいしかないはず。一度だけでそんな詳しいところまで把握するなんて、超能力でもない限り不可能だ。一回しか来たことがないのだから、裏ルートどころか最短ルートさえ知らない可能性が高い。
「……グラネイトがいる」
「グラネイトさん? 確かに、それなら、分かるかも……でも、連れ戻すよう言ってくれたのではないの?」
連れ戻すよう言われているのに、リゴールの意思に従って王のところを目指しているというの?
「そう。けど、これだけ戻ってこないということは……グラネイトが心変わりした可能性が高い」
「裏切ったってこと?」
「いや、それはないはずだが……」
ウェスタは、言いかけて止めた。また、それと同時に足も止めていた。
「え、あの、ウェスタさん?」
——刹那。
狭い通路に乾いた破裂音が響いた。
その後、何とかエトーリアから逃れて私が外へ出た時には、リゴールの姿はどこにもなかった。
屋敷の外は、白い石畳が荘厳な雰囲気を漂わせる空間。
私はそこを駆け、辺りを見て回るけれど、リゴールらしき者の姿は見当たらない。目に映るのは、自然だけ。
もう行ってしまった?
……いや、でも、リゴールの運任せ過ぎる作戦がこんなすんなり成功するとは思えない。
まさか、木々の方へ?
……いや、徒歩でそんなに速く移動できるとは考え難い。
どうしよう、と迷い、一人あたふたしていた、そんな時だった。
「見つけた」
建物の陰から静かな声が聞こえてきて、私はそちらへ視線を向ける。すると、白銀の髪の女性——ウェスタの姿が視界に入った。
「ウェスタさん!」
「……王子がわざと敵に連れていかれたけど……何事?」
「リゴールを見かけたの!?」
私は思わず、彼女の手を強く握ってしまった。
「そう……襲われるのを待ってるみたいだった。一切抵抗しないのはおかしい……」
「リゴールはブラックスターへ行ったのね!?」
問いに、ウェスタはそっと頷く。
「お願い、ウェスタさん! 私をブラックスターへ連れていってちょうだい!」
「……まずは落ち着いて」
「落ち着いてなんていられない! リゴールに何かあったら大変よ!」
——刹那、手首に鋭い痛みが走る。
「っ!?」
目の前のウェスタに手首を捻られていたのだった。
「ちょ、何するの!」
「……落ち着け、と言っている」
瞳は激しく燃え上がる炎のように赤いのに、そこから放たれる視線は氷でできた剣のように冷ややか。
「ご、ごめんなさい。落ち着くから、離して」
すると、数秒経ってから、ウェスタはようやく手を離してくれた。
「……心配要らない。グラネイトがつけているから。連れ戻すよう、指示しておいた」
「グラネイトさんが……そうなの。ありがとう」
一人ぼっちでないなら、危険度も少しは下がるかもしれない。グラネイトならブラックスターとこちらの世界を行き来できるし、リゴール一人より安心だ。
「けど心配だわ。私も傍にいたいわ」
「危険」
「連れていってと頼んだら……怒る?」
また手首を捻り上げられたらどうしよう、と、恐れつつも言ってみる。するとウェスタは、赤い瞳で私の顔を凝視してくる。
「……な、何?」
「怒りはしない。怒る意味がないから」
「そ、そう……」
「ただ、行くのなら覚悟は必要」
表情も声色も、真剣そのもの。そんなウェスタを目にしたら、心の隅に恐怖心という名の芽が現れてきて。行かない方が良いのではないかと、そんな考えが脳内に溢れてくる。
「……どうする」
ウェスタの口から放たれた問いに、私はすぐには答えられなかった。
リゴールの傍にいる。
そして、彼を護る。
とうにそう心を決めていたはずなのに、ウェスタの問いに即答はできなくて。
「私、は……」
「即答できる覚悟がないなら、行かない方が良い」
ウェスタはきっぱり述べた。
私も、彼女の発言が間違っているとは思わない。けれど、その発言に従って大人しくしている気には、どうもなれない。
「い、行くわよ! リゴールが心配だもの。当然じゃない!」
彼を救えるほどの強さが私にないとしても、だからといって下がってはいられない。
「……本気?」
「もちろん! 本気よ!」
「……そう」
ウェスタは独り言のように呟き、それから私の右腕を掴む。
「なら……様子を見に行く」
——直後、私たちの体はその場から消えた。
次の瞬間、立っていたのは古びた狭い通路。
一応ところどころにランプはあるようだが、数は少なく、しかも光は弱々しい。そのため、薄暗く、視界はあまり良くない。
「……問題はない?」
「え、えぇ。ここは……ブラックスターの近く?」
「そう」
ウェスタはすっと頷き、周囲を見回す。私も真似して見回してみたが、灰色の空間と煉瓦が視界に入るだけで、他には特に何も見えなかった。
「ここに気配があったように思った。だが……見当たらない」
「どこへ行ったか、分からないの?」
敵地を闇雲に歩き回るわけにはいかない。もしまったく見当がつかないのなら、一旦引き返すことも視野に入れなければならないかもしれないというものだ。無論、そんなことはなるべく避けたいが。
「……王子は何か言っていたか」
「え?」
「ブラックスターへ行く目的」
「目的? そ、そうね……確か、ブラックスター王に話をつけるとか何とか……。けど、そんなこと、できるわけがないわ……」
その時、ウェスタは急に、納得したように「そうか」と発した。
「分かった。行こう」
「え。わ、分かったの?」
ウェスタは足を動かし始める。
それに従い、私も歩き出した。
「王の間は最上階。ルートは……二つ。片方は皆が使う最短ルート、もう一方は基本誰も使わない裏ルート。王子らが使っているのは、恐らく、裏ルート」
歩きながら、ウェスタは淡々と話す。
「ま、待って。リゴールはブラックスターのことをそんなに知らないはずよ。裏ルートなんて、知っているわけがないわ」
リゴールがここへ来たのは、この前誘拐された時くらいしかないはず。一度だけでそんな詳しいところまで把握するなんて、超能力でもない限り不可能だ。一回しか来たことがないのだから、裏ルートどころか最短ルートさえ知らない可能性が高い。
「……グラネイトがいる」
「グラネイトさん? 確かに、それなら、分かるかも……でも、連れ戻すよう言ってくれたのではないの?」
連れ戻すよう言われているのに、リゴールの意思に従って王のところを目指しているというの?
「そう。けど、これだけ戻ってこないということは……グラネイトが心変わりした可能性が高い」
「裏切ったってこと?」
「いや、それはないはずだが……」
ウェスタは、言いかけて止めた。また、それと同時に足も止めていた。
「え、あの、ウェスタさん?」
——刹那。
狭い通路に乾いた破裂音が響いた。
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