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episode.157 カードゲーム
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食堂へ到着。
人の気配はあまりない。
私たちは席につき、早速、リゴールがバッサから貰ったカードゲームで遊び始める。
一、二、三、と数字が描かれたカードを使う。
両者共に手札から一枚を出し、そこに描かれた数字の大きさを競い合うゲーム。
裏向きにしたカードを並べ、その数字を当てるゲーム。
ほんのり頭を使う内容が多いが、難しすぎるということはなく、ほどよい難易度。だから、さほど賢くない私でも十分楽しむことができる。
「ふぅ。意外と面白いですね」
「そうね」
「難しさがあるところがまた、何とも言えない刺激で、好きです……!」
リゴールはご機嫌だ。
表情は明るく、声は弾んでいて、とにかく楽しげ。
「もう一度やりましょう!」
「えぇ。今度は負けないわ」
カードゲームは楽しく、日頃の憂鬱をすべて忘れさせてくれる。まるで雨雲を払う風のよう。たとえ束の間だとしても、暗い部分を忘れられる時間があるというのはありがたいことだ。
分かっている、逃げていてはいけないと。
理解している、目を逸らしてはならないと。
それでも今は自由でありたい。目の前の対戦のことだけに意識を向けて、遊びのために思考して。
たまにはそんな日があっても、罰は当たらないだろう。
楽しさの中にいたら、あっという間に時間が経った。
「あぁ、疲れたー」
「え!? エアリは疲れてしまったのですか!? すみません!」
「……あ。そうじゃないのよ、リゴール。そういう『疲れた』ではないの」
午前中だと思っていたのに、もう昼前。
もうすぐ昼食の準備が始まる時間だ。
一人で過ごしている時は一分一秒が長いのに、リゴールと遊んでいたら一瞬にして数時間が経過している。時の流れが常に一定だとは、私には思えない。
そんなことを密かに考えていると、背後から声が飛んでくる。
「あーら! エアリとリゴールくんじゃない!」
声に反応し、振り返る。
そこに立っていたのは、デスタンとミセ。
……となると、先ほどの声の主はミセだろう。
「あ、ミセさん。こんにちは」
ミセは面に華やかな花を咲かせている。しかも、大きく掲げた片手を振りながらの挨拶。とても機嫌が良さそうだ。
「エアリ、何だか楽しそうね! リゴールくんといい感じ?」
「少し遊んでいました」
「遊んで! それは良いわねぇ」
ミセは明るい声を発しながら、私の隣の席に遠慮なく座ってくる。彼女に腕を絡められているデスタンは、少し不快そうな顔をしながらも、ミセの横に座っていた。
「ミセさんとデスタンさんはなぜここに? 昼食ですか?」
無言というのも不自然かもしれないから、話を振ってみておく。
「アタシは付き添い! デスタンがご飯よ!」
「あ、そうなんですね」
「デスタンの世話をしなくちゃならないから、アタシも一緒に来たのよぅ」
さりげなくデスタンとの距離の近さをアピールしてくる。
……主張しなくても、私はデスタンを奪ったりしないのに。
リゴールとデスタンとミセ、四人がいる食堂で、私は昼食を食べる。
今日のメニューは、白いパンにバター、カブのサラダ、酸味が利いたトマト風味のスープ。
サラダにたくさん入っているカブのサクサクという食感は楽しく、かかっている垂れの胡椒みたいな香りも刺激的で好みに合う。
「デスタン! あーん!」
ミセは、カブを刺したフォークをデスタンの口の前まで持ち上げ、恥ずかしげもなくそんなことを言った。
「……そろそろ自力で食べさせて下さい」
「そうねぇ、もう回復してきてるものねぇ。はい! デスタン、あーん!」
「……人前で食べさせられるのは恥ずかしいのですが」
「そうねぇ、もう大人だものねぇ。はい! デスタン、あーん!」
デスタンが拒否しても、同じようなやり取りが繰り返されるだけ。今のミセには、食べさせることを止める気など微塵もないようだ。
「……私の話、聞いていますか?」
平和。とにかく平和。
もちろん悪いことではない。
危機の荒波に揉まれ続けているよりずっと楽だし、精神的にも身体的にも安全なのだから。
「え? デスタンったら、どうしたのぉ?」
「もう自力で食べられます。食べさせていただかなくて結構です」
「それは良いことねぇ。はい! デスタン、あーん!」
「……勘弁して下さいよ」
——そんな時だった。
「きゃああああ!」
突然響いた、鼓膜を破るような悲鳴。
リゴールが真っ先に反応する。
「……何事でしょう」
悲鳴は食堂内からではなかった。方向的に、恐らく、玄関の方からだと思う。あくまで私が個人的に考えたことに過ぎないけれど、でも、大きく間違ってはいないはず。
「少し見て参ります」
「待って! 私も行く!」
椅子から立ち上がり歩き出すリゴールの背を追う。
「大丈夫ですよ、エアリ。わたくし、今は戦える状態ですから」
「でも一人は危険よ!」
「エアリを危険な目に晒すよりかはましです。ですから——」
リゴールが言い終わるより早く、食堂に人が駆け込んできた。ちなみに、女性で、バッサと似たような服装をした人だ。
全力疾走してきた彼女は、食堂に入るや否や転倒する。
「あの、どうなさったのです……?」
「た、た、助けて下さい!」
リゴールが遠慮がちに声をかけると、女性は涙目で助けを求める。
「何かあったのですか?」
「そ、それが、訪問者の方が急に襲いかかってき……ひぃっ」
女性が顔を引きつらせた瞬間、一人の男性が食堂へ入ってくるのが見えた。
その人は——少し風変わりな人で。
ミントカラーの髪に赤茶の瞳、シャツにハーフパンツというお坊ちゃんのような服装ながら、二股に別れた長い顎髭がおじさんらしさを醸し出す。
「ハロゥーン!」
食堂へ入ってくるや否や、男性は、友人とふざける女子高生のようなテンションで挨拶してきた。しかも、ハイテンションなのは挨拶だけではない。両手を頭の上まで大きく掲げ、二本の腕を同時に左右に動かすという派手な動作も、常人とは思えない。
「あ、あの方が……その……ひ、ヒゲで……」
リゴールに事情を説明する女性の声は震えていた。
「アラァ、チョーット反応ゥガ薄イワネェ」
不気味な男性は不満げに漏らす。
それから視線をリゴールらの方へ向け、叫ぶ。
「オシオキ!」
——瞬間、ミントカラーの長いヒゲが女性に迫る。
「あ、あれが……ひぃっ」
リゴールは咄嗟に前に出る。怯える女性を庇うような位置につき、ミントカラーの長いヒゲによる打撃を肩に受けた。
「くっ……!」
一瞬リゴールが負傷したらと心配になったが、彼は意外と平気そうにしていた。ヒゲの打撃力はさほど高くないのかもしれない。
「モウモウ! 庇ウナンテ、王子様カッコイイワネェ!」
「……玄関から来るのは、そろそろ止めてほしいのですが」
「睨ミカタモ素敵! カマーラ、惚ルェチャイソゥーヨ!」
人の気配はあまりない。
私たちは席につき、早速、リゴールがバッサから貰ったカードゲームで遊び始める。
一、二、三、と数字が描かれたカードを使う。
両者共に手札から一枚を出し、そこに描かれた数字の大きさを競い合うゲーム。
裏向きにしたカードを並べ、その数字を当てるゲーム。
ほんのり頭を使う内容が多いが、難しすぎるということはなく、ほどよい難易度。だから、さほど賢くない私でも十分楽しむことができる。
「ふぅ。意外と面白いですね」
「そうね」
「難しさがあるところがまた、何とも言えない刺激で、好きです……!」
リゴールはご機嫌だ。
表情は明るく、声は弾んでいて、とにかく楽しげ。
「もう一度やりましょう!」
「えぇ。今度は負けないわ」
カードゲームは楽しく、日頃の憂鬱をすべて忘れさせてくれる。まるで雨雲を払う風のよう。たとえ束の間だとしても、暗い部分を忘れられる時間があるというのはありがたいことだ。
分かっている、逃げていてはいけないと。
理解している、目を逸らしてはならないと。
それでも今は自由でありたい。目の前の対戦のことだけに意識を向けて、遊びのために思考して。
たまにはそんな日があっても、罰は当たらないだろう。
楽しさの中にいたら、あっという間に時間が経った。
「あぁ、疲れたー」
「え!? エアリは疲れてしまったのですか!? すみません!」
「……あ。そうじゃないのよ、リゴール。そういう『疲れた』ではないの」
午前中だと思っていたのに、もう昼前。
もうすぐ昼食の準備が始まる時間だ。
一人で過ごしている時は一分一秒が長いのに、リゴールと遊んでいたら一瞬にして数時間が経過している。時の流れが常に一定だとは、私には思えない。
そんなことを密かに考えていると、背後から声が飛んでくる。
「あーら! エアリとリゴールくんじゃない!」
声に反応し、振り返る。
そこに立っていたのは、デスタンとミセ。
……となると、先ほどの声の主はミセだろう。
「あ、ミセさん。こんにちは」
ミセは面に華やかな花を咲かせている。しかも、大きく掲げた片手を振りながらの挨拶。とても機嫌が良さそうだ。
「エアリ、何だか楽しそうね! リゴールくんといい感じ?」
「少し遊んでいました」
「遊んで! それは良いわねぇ」
ミセは明るい声を発しながら、私の隣の席に遠慮なく座ってくる。彼女に腕を絡められているデスタンは、少し不快そうな顔をしながらも、ミセの横に座っていた。
「ミセさんとデスタンさんはなぜここに? 昼食ですか?」
無言というのも不自然かもしれないから、話を振ってみておく。
「アタシは付き添い! デスタンがご飯よ!」
「あ、そうなんですね」
「デスタンの世話をしなくちゃならないから、アタシも一緒に来たのよぅ」
さりげなくデスタンとの距離の近さをアピールしてくる。
……主張しなくても、私はデスタンを奪ったりしないのに。
リゴールとデスタンとミセ、四人がいる食堂で、私は昼食を食べる。
今日のメニューは、白いパンにバター、カブのサラダ、酸味が利いたトマト風味のスープ。
サラダにたくさん入っているカブのサクサクという食感は楽しく、かかっている垂れの胡椒みたいな香りも刺激的で好みに合う。
「デスタン! あーん!」
ミセは、カブを刺したフォークをデスタンの口の前まで持ち上げ、恥ずかしげもなくそんなことを言った。
「……そろそろ自力で食べさせて下さい」
「そうねぇ、もう回復してきてるものねぇ。はい! デスタン、あーん!」
「……人前で食べさせられるのは恥ずかしいのですが」
「そうねぇ、もう大人だものねぇ。はい! デスタン、あーん!」
デスタンが拒否しても、同じようなやり取りが繰り返されるだけ。今のミセには、食べさせることを止める気など微塵もないようだ。
「……私の話、聞いていますか?」
平和。とにかく平和。
もちろん悪いことではない。
危機の荒波に揉まれ続けているよりずっと楽だし、精神的にも身体的にも安全なのだから。
「え? デスタンったら、どうしたのぉ?」
「もう自力で食べられます。食べさせていただかなくて結構です」
「それは良いことねぇ。はい! デスタン、あーん!」
「……勘弁して下さいよ」
——そんな時だった。
「きゃああああ!」
突然響いた、鼓膜を破るような悲鳴。
リゴールが真っ先に反応する。
「……何事でしょう」
悲鳴は食堂内からではなかった。方向的に、恐らく、玄関の方からだと思う。あくまで私が個人的に考えたことに過ぎないけれど、でも、大きく間違ってはいないはず。
「少し見て参ります」
「待って! 私も行く!」
椅子から立ち上がり歩き出すリゴールの背を追う。
「大丈夫ですよ、エアリ。わたくし、今は戦える状態ですから」
「でも一人は危険よ!」
「エアリを危険な目に晒すよりかはましです。ですから——」
リゴールが言い終わるより早く、食堂に人が駆け込んできた。ちなみに、女性で、バッサと似たような服装をした人だ。
全力疾走してきた彼女は、食堂に入るや否や転倒する。
「あの、どうなさったのです……?」
「た、た、助けて下さい!」
リゴールが遠慮がちに声をかけると、女性は涙目で助けを求める。
「何かあったのですか?」
「そ、それが、訪問者の方が急に襲いかかってき……ひぃっ」
女性が顔を引きつらせた瞬間、一人の男性が食堂へ入ってくるのが見えた。
その人は——少し風変わりな人で。
ミントカラーの髪に赤茶の瞳、シャツにハーフパンツというお坊ちゃんのような服装ながら、二股に別れた長い顎髭がおじさんらしさを醸し出す。
「ハロゥーン!」
食堂へ入ってくるや否や、男性は、友人とふざける女子高生のようなテンションで挨拶してきた。しかも、ハイテンションなのは挨拶だけではない。両手を頭の上まで大きく掲げ、二本の腕を同時に左右に動かすという派手な動作も、常人とは思えない。
「あ、あの方が……その……ひ、ヒゲで……」
リゴールに事情を説明する女性の声は震えていた。
「アラァ、チョーット反応ゥガ薄イワネェ」
不気味な男性は不満げに漏らす。
それから視線をリゴールらの方へ向け、叫ぶ。
「オシオキ!」
——瞬間、ミントカラーの長いヒゲが女性に迫る。
「あ、あれが……ひぃっ」
リゴールは咄嗟に前に出る。怯える女性を庇うような位置につき、ミントカラーの長いヒゲによる打撃を肩に受けた。
「くっ……!」
一瞬リゴールが負傷したらと心配になったが、彼は意外と平気そうにしていた。ヒゲの打撃力はさほど高くないのかもしれない。
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