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episode.166 いつか手渡す想い
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リゴールの言葉を耳にした瞬間、時が止まった。
——いや、正しくは、時が止まったような気がした、か。
とにかく、私以外のすべてが停止したような、そんな不思議な感覚だったのだ。
「え……何を言っているの?」
そう返した時、私の脳内には『理解不能』の文字ばかりが浮かんでいた。頭の中をみっちりと埋め尽くしている。
「あ、えっと、その……す、すみません。ただ、少し、エアリの意見を聞いてみたくて……」
「そうね……私だったら、嫌じゃないわね」
驚きやら何やらで妙なことばかり返してしまっていたが、ここに来て、ようやくまともに答えることができた。
もっとも、リゴールの発言についてはまだよく分からないけれど。
「え!」
私が発した答えを聞き、リゴールは声をあげる。
「嫌でないのですか!?」
「まさか。嫌なわけがないでしょ」
リゴールとは苦難を共に乗り越えてきた仲だ。少しの冗談で嫌いになったりはしない。
「で、では! もしわたくしがプロポーズしたら、イエスと言って下さいますか!?」
「え。ちょ、待って。それは冗談なんじゃ……」
「冗談ではありません! わたくしは真剣です!」
「えぇっ!?」
思わず声を発してしまった。それも、妙に甲高いひきつったような、情けなくかっこ悪い声を。
「待って、リゴール。どういう話? 何か心境の変化があったの?」
「はい。そういうことです」
リゴールは真剣な面持ちのまま、落ち着いた口調で言ってくる。ただ、緊張してはいるようで、まばたきが多い。また、唇の動きはぎこちない。
「実は……エアリがいない間に、屋敷にある本を読んでみていたのです。そうしたら、わたくしの胸にあるモヤモヤしたものの正体が判明しました」
きちんと事情を説明してくれる辺りは、素直なリゴールらしいというか何というか。
「これは『恋心』というものだそうですね」
「こっ……恋心……!?」
いやいや、いきなり過ぎるだろう。
「他の異性と仲良くしているのを見たらイライラしたり、モヤモヤしたり、悲しくなったり。そういう症状が発現するのは恋心を抱いているからだと、そう書いてありました」
リゴールは流れるようにそんなことを話す。
こんな時に限って、彼は、私の顔色をまったく気にしていない。
「それで、気づいたのです。わたくしはいつの間にか、エアリに、恋心なるものを抱いていたのだと」
恥ずかしがるタイミングは、本来ここではないだろうか。自身の恋心を相手に示すのだから、普通、少しくらい恥じらうものではないだろうか。
けれど、今のリゴールは冷静そのもの。つい先ほどまで顔を真っ赤にして狼狽え気味だったというのに、今は落ち着き払っている。少々ずれているな、と思わずにはいられない。
「善は急げと言います。ですから、早速プロポーズしてみようかと」
「いきなりプロポーズ!? それは違うでしょ!?」
恋心を抱いてくれているというのは、嫌ではない。嫌悪されているより、好意的に接してもらえる方が、私も幸せだ。
ただ、だからといって早速プロポーズはさすがに急過ぎ。
リゴール相手だから引きはしないけれど、これがもしリゴール以外の相手の行動だったら間違いなく逃げ出していただろう。
「え……そうなのですか?」
「そうよ。だって、プロポーズって結婚の申し込みじゃない」
「そうですね。……それが何か問題なのですか?」
リゴールはきょとんとしながらこちらを見つめてくる。
「問題よ! ……ごめんなさい。でも、いきなり結婚なんて、普通じゃないわ」
最初反射的に大きな声を発してしまい、すぐに謝罪して、残りの文章は静かに述べた。
するとリゴールは、ハッとしたような顔をする。そのまま数秒止まり、しばらくしてから口を開く。
「そうですね。結婚する前に、ブラックスターとの因縁を断ち切らねばなりませんね」
……そこ?
ブラックスターとの因縁を断ち切るのは大切なことだけれど、どうも少しずれている気がしてならない。
でも、僅かなずれを指摘するのも手間なので、そのまま話を進めておくことにした。
「えぇ! 私も協力するわ」
恋とかプロポーズとか、そういうことは、まだよく分からない。でも、襲い来るブラックスターの者たちからリゴールを護ることはできる。私一人ですべてを片付けることはできなくても、少しの戦力になることはできるから。
「……ありがとうございます、エアリ」
◆
——その頃。
グラネイトとウェスタを始末しようとするも失敗した、ラルク。リゴールを狙うも撤退させられた、肥満気味の男性。ブラックスター王と、その護衛の布巾を頭に巻いた青年。
ナイトメシア城内の王の間には、四人が集まっていた。
「申し訳ありません。ドリが殺られました」
静寂の中、一番に口を開いたのはラルク。
「ふぬぅ……あの女か」
低い声で返すは、ブラックスター王。
「はい。目標の女を一人にし、そこで仕掛けたのですが、途中で男の方に乱入され、この結果です。申し訳ありません」
ラルクは片膝を床につき、王の前で座り込んで頭を下げる。
「ぬぅ……それで、他はどのような状況か」
次に発言するのは、肥満気味の男性。
「ヒゲの人、戻ってきませんでしたぁー。魔法対策もしていたみたいだったのでぇー、上手くいくかと思ったんですけどぅー」
肥満気味の男性はカマーラのことを報告する。
——刹那。
王は片足を床に当て、ドンと音を鳴らす。
「無能のヒゲめが」
ブラックスター王は悪い報告ばかりを聞かされて機嫌が悪い。苛立ちは最高潮に達している。先ほど強く踏み込んだのも、多分、その影響だろう。
「王様、あのパルとかいう娘さんはどうなったのですかぁー?」
「……まだ戻ってきておらん。返り討ちに遭ったか、逃亡か、そこは知らぬが」
そこまで言い、王は再び足の裏で床を叩く。バン!という刺々しい音が、静かな空気の王の間に響いた。
「まったく、無能にもほどがある!」
王は突然鋭く叫んだ。
「お、王様、落ち着くべ!」
頭に布巾を巻いた青年が、王を落ち着かせようと口を挟む。が、王の苛立ちはそのくらいでは止められない。
「黙れ、ダベベ! 落ち着いてなどいられん!!」
「おいら知ってるべ。怒ったら血圧上がるんだべ。おいらのばーちゃん、それで死んだべ。王様には死んでほしくないんだべ!」
護衛役の青年——ダベベは、怒りに満ち興奮気味な王を何とか落ち着かせようと、懸命に言葉をかけている。
ただ、効果は微塵もない。
「……ふぅ。まぁいい。皆、とにかく、任務を継続しろ!」
ブラックスター王は告げる。
肥満気味の男性とラルクは、一礼して「はい」と返事をした後、王の間から出ていく。
——いや、正しくは、時が止まったような気がした、か。
とにかく、私以外のすべてが停止したような、そんな不思議な感覚だったのだ。
「え……何を言っているの?」
そう返した時、私の脳内には『理解不能』の文字ばかりが浮かんでいた。頭の中をみっちりと埋め尽くしている。
「あ、えっと、その……す、すみません。ただ、少し、エアリの意見を聞いてみたくて……」
「そうね……私だったら、嫌じゃないわね」
驚きやら何やらで妙なことばかり返してしまっていたが、ここに来て、ようやくまともに答えることができた。
もっとも、リゴールの発言についてはまだよく分からないけれど。
「え!」
私が発した答えを聞き、リゴールは声をあげる。
「嫌でないのですか!?」
「まさか。嫌なわけがないでしょ」
リゴールとは苦難を共に乗り越えてきた仲だ。少しの冗談で嫌いになったりはしない。
「で、では! もしわたくしがプロポーズしたら、イエスと言って下さいますか!?」
「え。ちょ、待って。それは冗談なんじゃ……」
「冗談ではありません! わたくしは真剣です!」
「えぇっ!?」
思わず声を発してしまった。それも、妙に甲高いひきつったような、情けなくかっこ悪い声を。
「待って、リゴール。どういう話? 何か心境の変化があったの?」
「はい。そういうことです」
リゴールは真剣な面持ちのまま、落ち着いた口調で言ってくる。ただ、緊張してはいるようで、まばたきが多い。また、唇の動きはぎこちない。
「実は……エアリがいない間に、屋敷にある本を読んでみていたのです。そうしたら、わたくしの胸にあるモヤモヤしたものの正体が判明しました」
きちんと事情を説明してくれる辺りは、素直なリゴールらしいというか何というか。
「これは『恋心』というものだそうですね」
「こっ……恋心……!?」
いやいや、いきなり過ぎるだろう。
「他の異性と仲良くしているのを見たらイライラしたり、モヤモヤしたり、悲しくなったり。そういう症状が発現するのは恋心を抱いているからだと、そう書いてありました」
リゴールは流れるようにそんなことを話す。
こんな時に限って、彼は、私の顔色をまったく気にしていない。
「それで、気づいたのです。わたくしはいつの間にか、エアリに、恋心なるものを抱いていたのだと」
恥ずかしがるタイミングは、本来ここではないだろうか。自身の恋心を相手に示すのだから、普通、少しくらい恥じらうものではないだろうか。
けれど、今のリゴールは冷静そのもの。つい先ほどまで顔を真っ赤にして狼狽え気味だったというのに、今は落ち着き払っている。少々ずれているな、と思わずにはいられない。
「善は急げと言います。ですから、早速プロポーズしてみようかと」
「いきなりプロポーズ!? それは違うでしょ!?」
恋心を抱いてくれているというのは、嫌ではない。嫌悪されているより、好意的に接してもらえる方が、私も幸せだ。
ただ、だからといって早速プロポーズはさすがに急過ぎ。
リゴール相手だから引きはしないけれど、これがもしリゴール以外の相手の行動だったら間違いなく逃げ出していただろう。
「え……そうなのですか?」
「そうよ。だって、プロポーズって結婚の申し込みじゃない」
「そうですね。……それが何か問題なのですか?」
リゴールはきょとんとしながらこちらを見つめてくる。
「問題よ! ……ごめんなさい。でも、いきなり結婚なんて、普通じゃないわ」
最初反射的に大きな声を発してしまい、すぐに謝罪して、残りの文章は静かに述べた。
するとリゴールは、ハッとしたような顔をする。そのまま数秒止まり、しばらくしてから口を開く。
「そうですね。結婚する前に、ブラックスターとの因縁を断ち切らねばなりませんね」
……そこ?
ブラックスターとの因縁を断ち切るのは大切なことだけれど、どうも少しずれている気がしてならない。
でも、僅かなずれを指摘するのも手間なので、そのまま話を進めておくことにした。
「えぇ! 私も協力するわ」
恋とかプロポーズとか、そういうことは、まだよく分からない。でも、襲い来るブラックスターの者たちからリゴールを護ることはできる。私一人ですべてを片付けることはできなくても、少しの戦力になることはできるから。
「……ありがとうございます、エアリ」
◆
——その頃。
グラネイトとウェスタを始末しようとするも失敗した、ラルク。リゴールを狙うも撤退させられた、肥満気味の男性。ブラックスター王と、その護衛の布巾を頭に巻いた青年。
ナイトメシア城内の王の間には、四人が集まっていた。
「申し訳ありません。ドリが殺られました」
静寂の中、一番に口を開いたのはラルク。
「ふぬぅ……あの女か」
低い声で返すは、ブラックスター王。
「はい。目標の女を一人にし、そこで仕掛けたのですが、途中で男の方に乱入され、この結果です。申し訳ありません」
ラルクは片膝を床につき、王の前で座り込んで頭を下げる。
「ぬぅ……それで、他はどのような状況か」
次に発言するのは、肥満気味の男性。
「ヒゲの人、戻ってきませんでしたぁー。魔法対策もしていたみたいだったのでぇー、上手くいくかと思ったんですけどぅー」
肥満気味の男性はカマーラのことを報告する。
——刹那。
王は片足を床に当て、ドンと音を鳴らす。
「無能のヒゲめが」
ブラックスター王は悪い報告ばかりを聞かされて機嫌が悪い。苛立ちは最高潮に達している。先ほど強く踏み込んだのも、多分、その影響だろう。
「王様、あのパルとかいう娘さんはどうなったのですかぁー?」
「……まだ戻ってきておらん。返り討ちに遭ったか、逃亡か、そこは知らぬが」
そこまで言い、王は再び足の裏で床を叩く。バン!という刺々しい音が、静かな空気の王の間に響いた。
「まったく、無能にもほどがある!」
王は突然鋭く叫んだ。
「お、王様、落ち着くべ!」
頭に布巾を巻いた青年が、王を落ち着かせようと口を挟む。が、王の苛立ちはそのくらいでは止められない。
「黙れ、ダベベ! 落ち着いてなどいられん!!」
「おいら知ってるべ。怒ったら血圧上がるんだべ。おいらのばーちゃん、それで死んだべ。王様には死んでほしくないんだべ!」
護衛役の青年——ダベベは、怒りに満ち興奮気味な王を何とか落ち着かせようと、懸命に言葉をかけている。
ただ、効果は微塵もない。
「……ふぅ。まぁいい。皆、とにかく、任務を継続しろ!」
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