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episode.175 飲まされてしまった
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腕に軽い傷を負いはしたが、動けなくなるほどではない。剣を握ることだってできている。だから、まだ戦える。私はそう思っていたのだけれど、心配したリゴールは私が戦うことを許してくれなくて。結局、グラネイトやデスタンがいる部屋へと押し込まれてしまった。
「まったく。もう戻ってきたのですか。情けないですね」
室内に入るや否や、デスタンにそんなことを言われた。
正直、かなり悔しかった。
だって、私が戦いを恐れたわけではないのに。私はまだ戦いを続けられる状態だし、続ける気でいたのに。それなのに「情けない」なんて言われてたら、悔しさのあまり胃から火が出そうだ。
だが、だからといって、むやみに突っ込んでいくわけにはいかなかった。
そんなことをしたら、リゴールを余計に不安にさせてしまう。
それに、もし戦闘不能の状態まで追い込まれたら、それこそ、皆に迷惑をかけることとなってしまう。
だから、悔しいけど、この道を選ぶことにしたのだ。
「失礼ね。私はまだ戦う気でいたのよ」
「ではなぜ戻ってきたのです」
「リゴールが心配するからよ」
すると、デスタンは急に黙る。
口は一切開かず、しかしながら、視線はこちらに向いている。
「……なるほど。負傷ですか」
彼の鋭い瞳に凝視されると、血まで凍りつきそうだ。だが、我慢して良かったのかもしれない。おかげで、事情を察してもらえたようだ。
「腕を少し斬られたのですね」
「え、えぇ……よく分かったわね」
「さすがに分かります。そういうことなら、退いて正解です」
良かった。少しは理解してくれたみたい。
心の中で安堵していると、デスタンは真剣な表情で確認してくる。
「ですが……貴女が退いたということは、今外にいるのは二人ですね」
「えぇ、そうよ。ウェスタさんとリゴール」
「二人では不安が残ります。王子も一度こちらへ呼び戻した方が良いかと」
——その時だった。
「待て! ウェスタを一人にするつもりなのか!?」
そう叫んだのは、グラネイト。
この前の毒と負傷でいまだに自由行動を禁じられている彼だが、意識は完全に普通の状態に戻っている。そのため、ウェスタの身を案じる心も、復活しているようだ。
「……文句があるなら言え」
冷ややかな視線を向け、静かに放つのはデスタン。
対するグラネイトは、ごくりと唾を飲む込んだようで、喉を上下させていた。
「ふ、ふはは……なかなか刺激的な……」
「馬鹿げたことを」
「さすがに! ウェスタにそっくりだな!」
デスタンに冷ややかに睨まれたグラネイトだったが、睨み返すようなことはなかった。それどころか、心なしか嬉しいそうだったくらい。デスタンとウェスタはどことなく似たような雰囲気を持っているところがあるから、睨まれても、純粋に嫌ではなかったのかもしれない。
「では少し失礼します」
「外へ?」
「はい。王子を連れてきます」
「敵がいるわ。危険よ」
「いえ。すぐ戻りますので」
そんなことを言って、デスタンは扉に向かって歩き出す。そして、私が制止しようとしたのも聞かず、部屋から出ていってしまう。
何とか引き止めようと追いかけかけたのだが、途中で止めた。
一般人のミセと復活しきっていないグラネイトを二人きりにさせるわけにはいかなかったから。
「ねぇ、エアリ」
「ミセさん?」
「まったくもう、何の騒ぎなの? こんなところに隠れていて良いの?」
「今外に出ると危険ですよ」
「ふぅん……まぁ、デスタンの傍にいられるならそれでいいけど……」
この期に及んで、まだデスタンへの執着。
もはや尊敬すべき域である。
普通、愛する人がいたとしても、危険な目に遭いかけている時には自分を優先してしまうものだろう。平常時は愛する人の傍にいることを望んでいたとしても、危機的状況に陥れば生命を最優先に行動するはず。
でも、彼女はそうでない。
彼女は今でも、デスタンの傍にいることを一番に考えている。
「ところでエアリ・フィールド!」
「え、いきなり何……?」
「敵はどのような敵だ!? グラネイト様に教えてくれ!!」
これまた唐突な。
何の前振りもなく本題に入っていくところが、ある意味潔い。
「敵は、謎の生物と、それを操っている男性よ」
「なにィ!?」
急な大声。
耳が痛い、物理的に。
「え。どうかしたの」
「その男は、肥え気味か!?」
グラネイトは目にも留まらぬ速さで私のすぐ前まで移動してきて、首を伸ばし、顔面を近づけながら言ってきた。
彼の顔面を至近距離で見るのは、少し辛い……。
「そうね。そして、可愛い帽子を被っているの」
「腕の傷はそいつにやられたのか!?」
「えぇ。うっかり」
その瞬間、彼は両手で私の両肩を掴んでくる。
「それはまずいぞ!!」
「え……?」
いきなり鼓膜を破るような大声で「まずいぞ!!」と叫ばれても、説明がないため、意味がいまいちよく分からない。何かがまずいことは分かるが、何がどうまずいのかが不明なまま。これでは何の意味もない。
「やつの刃物には毒が塗ってある!」
「ええっ」
毒が塗ってある、ということ自体にも驚きを隠せないが、一番戸惑ってしまうところはそこではない。一番戸惑うのは、グラネイトが異様な圧をかけながら話してくるところだ。
「そ、そんなことが……?」
「傷口を洗った方が良いぞ!」
「でも……」
「いいから早く!」
「は、はいっ……で、でも、水がな——」
「いいから流せ!」
「えぇぇー……」
ぐいぐいくる彼の雰囲気にはなかなか馴染めない。
そのせいもあって、私は、つい妙な受け答えをしてしまう。
そもそも彼とはそこまで親しくないし、長い間一緒に暮らしてきたわけでもない。それゆえ、積極的に話しかけられると困ってしまう。
「それと、これだ!」
さらに、グラネイトは小瓶を取り出す。
「それって……毒消し薬?」
「イエス! これはグラネイト様にも効いたぞ!」
その小瓶は新品でまだ開封されていないようだった。
ということはつまり、誰も飲んでいない分ということだ。それなら、飲むことに抵抗はない。
だが、医者の許可なく飲んで大丈夫なのだろうか。
心配はそれだけ。
「えーっと……」
「いいから飲め! 効くぞ!」
「えぇぇ……」
結局、流れのままに飲まされてしまった。
「まったく。もう戻ってきたのですか。情けないですね」
室内に入るや否や、デスタンにそんなことを言われた。
正直、かなり悔しかった。
だって、私が戦いを恐れたわけではないのに。私はまだ戦いを続けられる状態だし、続ける気でいたのに。それなのに「情けない」なんて言われてたら、悔しさのあまり胃から火が出そうだ。
だが、だからといって、むやみに突っ込んでいくわけにはいかなかった。
そんなことをしたら、リゴールを余計に不安にさせてしまう。
それに、もし戦闘不能の状態まで追い込まれたら、それこそ、皆に迷惑をかけることとなってしまう。
だから、悔しいけど、この道を選ぶことにしたのだ。
「失礼ね。私はまだ戦う気でいたのよ」
「ではなぜ戻ってきたのです」
「リゴールが心配するからよ」
すると、デスタンは急に黙る。
口は一切開かず、しかしながら、視線はこちらに向いている。
「……なるほど。負傷ですか」
彼の鋭い瞳に凝視されると、血まで凍りつきそうだ。だが、我慢して良かったのかもしれない。おかげで、事情を察してもらえたようだ。
「腕を少し斬られたのですね」
「え、えぇ……よく分かったわね」
「さすがに分かります。そういうことなら、退いて正解です」
良かった。少しは理解してくれたみたい。
心の中で安堵していると、デスタンは真剣な表情で確認してくる。
「ですが……貴女が退いたということは、今外にいるのは二人ですね」
「えぇ、そうよ。ウェスタさんとリゴール」
「二人では不安が残ります。王子も一度こちらへ呼び戻した方が良いかと」
——その時だった。
「待て! ウェスタを一人にするつもりなのか!?」
そう叫んだのは、グラネイト。
この前の毒と負傷でいまだに自由行動を禁じられている彼だが、意識は完全に普通の状態に戻っている。そのため、ウェスタの身を案じる心も、復活しているようだ。
「……文句があるなら言え」
冷ややかな視線を向け、静かに放つのはデスタン。
対するグラネイトは、ごくりと唾を飲む込んだようで、喉を上下させていた。
「ふ、ふはは……なかなか刺激的な……」
「馬鹿げたことを」
「さすがに! ウェスタにそっくりだな!」
デスタンに冷ややかに睨まれたグラネイトだったが、睨み返すようなことはなかった。それどころか、心なしか嬉しいそうだったくらい。デスタンとウェスタはどことなく似たような雰囲気を持っているところがあるから、睨まれても、純粋に嫌ではなかったのかもしれない。
「では少し失礼します」
「外へ?」
「はい。王子を連れてきます」
「敵がいるわ。危険よ」
「いえ。すぐ戻りますので」
そんなことを言って、デスタンは扉に向かって歩き出す。そして、私が制止しようとしたのも聞かず、部屋から出ていってしまう。
何とか引き止めようと追いかけかけたのだが、途中で止めた。
一般人のミセと復活しきっていないグラネイトを二人きりにさせるわけにはいかなかったから。
「ねぇ、エアリ」
「ミセさん?」
「まったくもう、何の騒ぎなの? こんなところに隠れていて良いの?」
「今外に出ると危険ですよ」
「ふぅん……まぁ、デスタンの傍にいられるならそれでいいけど……」
この期に及んで、まだデスタンへの執着。
もはや尊敬すべき域である。
普通、愛する人がいたとしても、危険な目に遭いかけている時には自分を優先してしまうものだろう。平常時は愛する人の傍にいることを望んでいたとしても、危機的状況に陥れば生命を最優先に行動するはず。
でも、彼女はそうでない。
彼女は今でも、デスタンの傍にいることを一番に考えている。
「ところでエアリ・フィールド!」
「え、いきなり何……?」
「敵はどのような敵だ!? グラネイト様に教えてくれ!!」
これまた唐突な。
何の前振りもなく本題に入っていくところが、ある意味潔い。
「敵は、謎の生物と、それを操っている男性よ」
「なにィ!?」
急な大声。
耳が痛い、物理的に。
「え。どうかしたの」
「その男は、肥え気味か!?」
グラネイトは目にも留まらぬ速さで私のすぐ前まで移動してきて、首を伸ばし、顔面を近づけながら言ってきた。
彼の顔面を至近距離で見るのは、少し辛い……。
「そうね。そして、可愛い帽子を被っているの」
「腕の傷はそいつにやられたのか!?」
「えぇ。うっかり」
その瞬間、彼は両手で私の両肩を掴んでくる。
「それはまずいぞ!!」
「え……?」
いきなり鼓膜を破るような大声で「まずいぞ!!」と叫ばれても、説明がないため、意味がいまいちよく分からない。何かがまずいことは分かるが、何がどうまずいのかが不明なまま。これでは何の意味もない。
「やつの刃物には毒が塗ってある!」
「ええっ」
毒が塗ってある、ということ自体にも驚きを隠せないが、一番戸惑ってしまうところはそこではない。一番戸惑うのは、グラネイトが異様な圧をかけながら話してくるところだ。
「そ、そんなことが……?」
「傷口を洗った方が良いぞ!」
「でも……」
「いいから早く!」
「は、はいっ……で、でも、水がな——」
「いいから流せ!」
「えぇぇー……」
ぐいぐいくる彼の雰囲気にはなかなか馴染めない。
そのせいもあって、私は、つい妙な受け答えをしてしまう。
そもそも彼とはそこまで親しくないし、長い間一緒に暮らしてきたわけでもない。それゆえ、積極的に話しかけられると困ってしまう。
「それと、これだ!」
さらに、グラネイトは小瓶を取り出す。
「それって……毒消し薬?」
「イエス! これはグラネイト様にも効いたぞ!」
その小瓶は新品でまだ開封されていないようだった。
ということはつまり、誰も飲んでいない分ということだ。それなら、飲むことに抵抗はない。
だが、医者の許可なく飲んで大丈夫なのだろうか。
心配はそれだけ。
「えーっと……」
「いいから飲め! 効くぞ!」
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結局、流れのままに飲まされてしまった。
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