あなたの剣になりたい

四季

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episode.200 決着

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 誰かを斬る時、今でもまだ躊躇いがある。
 それはきっと、人間として当たり前に持っているものなのだろう。

 でも今だけはその躊躇いが薄れている。

 剣を振ることにここまで集中できるのは初めての経験だ。これは、向き合っているのがリゴールを追いかけ回し続けてきた本人だからなのだろうか。そこは不明だが、これまであった躊躇いは今は消え去っている。

 戦う上では、迷いは少ない方が良い。
 でも、迷わず剣を振れる自分になることが少し怖くもある。
 私が私でなくなってしまうような感覚。まるで、私ではない別の誰かがここにいるかのような、そんな奇妙さがあって。

 けれども逃げ出すことはできない。
 これが、私が選んだ道だから。

「ぬぅ……なかなかやりおる……」
「負けないわ、過去に囚われ続けているだけの人になんて」

 彼の過去が暗いものであったことは理解できる。多くの苦しみと悲しみに溺れるしかなかったことも、夢を見たから知っている。

 けれど、それはリゴールには関係のないこと。

 リゴールはただホワイトスターの王の子として生まれただけ。そんなリゴールに過去の憎しみをすべてぶつけようなんていうのは、おかしな話だ。

「貴方とリゴールの父親の間にはいさかいがあったかもしれない。けど、それはリゴールには関係のないこと。それに、リゴールを恨んだって殺めたって、貴方の望みが叶うわけではないわ」

 衝撃的なことがあって絶望するのは分かる。けれど、それに囚われて罪を犯すべきではなかった。絶望にはどこかで区切りをつけて、未来へ進むべきだったのだ。
 そうすれば新たな出会いもあっただろう。嬉しいことや楽しいことも色々あったはず。苦痛も乗り越えて行けたなら、絶望の経験という強さを手にし、さらに前へ歩んでいけただろうに。

「他人の気も知らず偽善的な言葉ばかり並べおって……」

 王の拳は、剣を跳ね返す。
 その硬さといったら、普通の人間の拳をとうに超えている。

「そうね。私、貴方のことはそんなに詳しくない」

 何でもいい。王の心を乱すことができれば、それでいいのだ。

 心を乱せば隙は生まれる。
 そこに叩き込む。

「分かったような口を利くな、女ごときが……!」
「そうね、私には何も分からない。愛しい女性を兄に奪われた気持ちだって分からないわ」

 瞬間、王の表情が揺らぐ。

「なぜそれを……!?」

 それまで攻めの姿勢を崩さなかった王の動きが、ここに来て初めて止まった。

 動かない的になら私でも当てられる。
 もはや迷うことなどない。

 踏み込んで——薙ぐ!

「な……」

 飛び散るのは、赤い飛沫。

 ようやく斬撃が深く入った。

 攻撃をまともに食らうとは思っていなかったのだろう、王は愕然とした顔のまま固まっている。
 今ならいける、と、私はその胸を突いた。

「馬鹿な、なぜ……」

 王は声を震わせる。
 今の状況を理解できていないような顔。
 ペンダントの剣で突いた胸元からは、黒いもやのようなものが現れる。いつか見たことがあるような、どす黒いもや。それは、地獄の底から溢れてきたかのような不気味さをまとっている。

「エアリ! 気をつけて下さい!」

 背後からリゴールの声が聞こえてきた。

 分かっている、まだ気は抜かない——そう答えたいが、口を動かす余裕はない。

「この身が朽ちるはず、は……ない……」
「そうかしら」
「手に入れたのだ……永久に生き長らえる、肉体、を……」

 王は、途切れ途切れ、低い声を漏らす。

 怒りや憎しみなど、様々な負の感情が渦巻いていそうな言い方。
 今の彼は、まるで魔王だ。

 一個人の判断で言って良いことではないかもしれないが、少なくとも、偉大な王ではない。

「リゴールに手出しはさせない。まだリゴールに手を出すつもりなのなら……ここで消えて!」

 強く願いながら放ち、王の胸元に突き刺さっている剣を一気に振る。黒いもやが溢れるだけだった傷から赤いものが飛び散り、それが私の頬を濡らした。

 剣から溢れるのは白い光。
 その光は、みるみるうちに、黒いもやを消し去っていく。

「馬鹿な……なぜ……」

 王は掠れた声を漏らしながら一旦座ったような体勢になり、そこから床に倒れ込む。昼寝をする直前のような動き。

 私は剣先を彼に向けたまま様子を窺う。

 胸を突いた。だからもうまともに動けはしないはず。ただ、想定外の動きをする可能性もゼロではないから、警戒はまだ怠らないでおく。

 床に崩れ落ちた王の肉体は、塵となり、数分のうちに形を持たないものへと変貌し、完全に消滅した。

 ようやく訪れる静寂。
 ブラックスター王は消えた。

「……エアリ」

 背後から声がして、振り返る。すると、こちらを見つめているリゴールの安堵したような顔が視界に入った。

「リゴール」

 私は名を呼び返す。

「その……大丈夫なのですか?」
「体調? なら、もう大丈夫よ」

 頬には赤いものがこびりついているから、今の私の顔面は少し怖い感じになってしまっているかもしれない。

「……ありがとうございました」
「え?」
「ブラックスター王は消えました。もう……襲われることはないでしょう」

 リゴールに言われて、ようやく実感が湧いてきた。

 私たちは倒したのだ、ブラックスターの王を。

 結果的に命を奪うことになってしまった、それは申し訳ないと思う。でも、向こうが本気で仕留めにかかってきていたから、私たちに残された選択肢は「倒す」しかなかった。

 他者の命を奪うことを正当化する気はない。

 でも、今だけは。

「……そうね。これでもうリゴールは狙われない」

 今だけは言わせて。

「良かった……!」

 そう言って、私はリゴールを抱き締める。

「途中生き返らせてくれてありがとう」

 一度は死にかけたのだ。あのまま死んでいたら、何も為せないまま終わっていたかもしれなかった。
 リゴールには感謝しかない。

「いえ、当然のことをしたまでです」
「それでも言わせて……ありがとう、って」
「エアリはわたくしのために戦って下さいました。ですから、わたくしもエアリのためにできることをしました。それだけです」

 私とリゴールが喜びを噛み締めていた、その時。

「兄さん! エアリ・フィールド!」

 ウェスタが部屋に駆け込んできた。
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