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前編

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「あんたとはもうやっていけねぇ」

 ある日、婚約者レージンから、そんなことを言われてしまった。

 彼に良く思われていないのだということは何となく理解はできた。が、その短い言葉からすべてを察することはできなくて。どう返せば良いものか分からず、流れるように言葉を返すことはできなかった。短文からすべてを読み取り言葉を返す、そこまでの能力は私にはなかったのだ。

「だから婚約は破棄する」

 戸惑いの中にあった私への気遣いなどはなく、彼ははっきりとそう続けた。

「婚約、破棄……ですか」
「ああ」
「そんな、どうして……」
「だから言っただろ? あんたとはもうやっていけねぇ、って」

 そんなそぶり、少しもなかったのに。

 私が気づかなかっただけ?

 いや、違うはず。

 私だって馬鹿ではないから、彼の様子に変化があれば気づいただろう。
 彼の様子に変化があるのに異変に気づかないほどぼんやりしてはいない。

「ま、そういうことなんで、俺の前からは消えてくれよな」

 レージンはそう言ってウインクする。

 なぜここでウインク?
 不自然ではないか?

 もはや過ぎたことへの突っ込みなど無駄だけれど。
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