異世界恋愛短編集 ~婚約破棄されても幸せになることはできます~

四季

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『裏切り者の彼は結局幸せにはなれなかったようです。~他者を傷つけるような人間が幸せになれるはずがない、やはりそうであるべきですよね~』

「婚約できて嬉しいよ! ありがとう!」
「こちらこそ」
「君のこと、ずっと大好きだからね!」
「嬉しいわ。ありがとう。これから末永くよろしくね」

 婚約者ルブールは婚約した日そんな風に温かさのある言葉を投げかけてくれた。

 だから信じた。
 彼となら幸せある道を行けると。

 思いやりのある彼なら信じても大丈夫だと、これからの関係について前向きに考えて大丈夫だと、そんな風に信じたのだ。

 ――だが長くは続かなかった。

「他の女性と深い仲に発展しているなんて……どういうこと!?」
「ごめん」
「悪いことをしたって分かっているの!?」
「うん、うん、もちろん。うん。分かってるよ。けど、仕方がなかったんだ」
「どういうことよ」
「だってさ、人間誰しも、時に他の味も楽しみたくなるものだよね? 同じものだけで我慢する人生なんて呆気ないにもほどがあるから。ね? そう思わない?」

 彼は浮気していた。
 それもかなり堂々と。

 信じていた私が馬鹿だった――その時になって気づいたけれど、今になって気づいても何の意味もない。

「ごめん、じゃあ、婚約は破棄とするよ。さよなら。元気でね」
「えええ!?」
「何だよ急に」
「おかしいじゃない! 問題あることをしたのはそっちじゃない!」
「うるさいなぁ」
「婚約破棄を告げるとしたらこっちよ」
「はあ? 鬱陶しいって。てか、どっちから言ったって婚約破棄は婚約破棄だし。一緒なんだからいいじゃん」
「そういう問題じゃないわ!」

 ――と、そんな感じで、なんだかんだ言い合いしつつ。

 私たちの関係は終わった。


 ◆


 あれから三年。私は元から趣味で取り組んでいた手作り茶葉の店を開き成功、今では国内でかなり有名な手作り茶葉店の店主となっている。たびたび来てくれる常連客も徐々に増え、売上はかなりあがっている。ゼロから始めたわりにはかなり順調。

 けれども、だからこそここで頂点に達するわけにはいかない、と、そんな風に考えていて――ここからさらに人気店になってゆけるよう、私なりに日々努力を重ねている。

 一方ルブールはというと。
 彼はあの婚約破棄の後浮気相手であった女性と結婚しようとしたそうだがその時には既に女性は別の男性と親しくなっており、結局ルブールはふられることとなってしまったそう。

 その一件によってルブールの心は折れて。

 以降、酷く無気力になってしまい、現在は療養中だそうだが治りそうな動きはまったくもってないそうだ。


◆終わり◆



『妖精を使役する能力を持っているからといって悪女扱いされるのは不快です。』

 幼い頃から妖精を使役する能力を持っていた私は、たびたび妖精の力を借りていた。
 ただ、それで悪事を働いていたわけではないし、私利私欲のために妖精たちの力を利用していたわけでもない。

 才能は人々のために。
 幼い頃から親にはそう言われて育ってきた。

 だから私は妖精を使役する能力を自分のためではなく他人のために使ってきたのだ。

 だが、婚約者となった青年リオールイにはそこを理解してもらうことができず。私利私欲のために妖精を使役していると勘違いされてしまっていて。それゆえ、悪女であると理解され、最初から嫌われてしまっていた。

 もちろんこちらも誤解を解きたくて一生懸命説明したけれど、そんな行為には何の意味もなくて。
 結局、彼の中の私はずっと『妖精使いの悪女』のままだ。
 彼の中の私はいつまでも変わらない。どんなに説明しても、それでも。こういう時は、所詮、事実なんて何の関係もないのだ。彼が思い込んでいることがすべてであり、彼の中の事実だけが事実なのである。

「お前との婚約は破棄とすることにした」

 そんなリオールイがようやく婚約破棄を告げてきたのは、婚約から数ヶ月が経った頃だった。

「悪女と結婚するなんて無理だ。だから関係はここまでにする。……さらば、永遠に」

 こうして私たちの関係は終わった。


 ◆


 時は流れ、あれから数年が過ぎた。

 私は妖精の力を借りて多くの人を助けた。
 困っている人、苦難に見舞われている人、悲しんでいたり泣いていたりする人――多くの人に寄り添い、そういった人たちを支援することを続けてきた。

 そして国王から表彰を受けて。

 後に、貴族の男性と結婚した。

 その人は私を悪女扱いしない。
 私の能力のことも正しく理解してその上で寄り添い関わってくれている。

 だから彼のことは好きだ。

 ちなみにリオールイはというと、三回も事故に遭い、それらの時に負った怪我が原因となって先月ついに亡くなってしまったそうだ。


◆終わり◆



『他者を傷つけるような生き方をしていればいつかこういうことになるのだ、と、改めて学んだ気がしました。』

「お前との婚約だが、破棄とすることにした」

 十歳年上の婚約者エンデルリバーグがそんなことを告げてきたのはある日突然のことであった。

「え……それは、また、急ですね」
「だが本気だ」
「そうですか……しかし、何かあったわけでもないですよね、なのにどうして」

 するとエンデルリバーグは勝ち誇ったように鼻の穴を広げる。

「お前が俺に相応しい女性でないからだ!」

 ……なんという主観的な答え。

 驚くと共に呆れてしまった。
 あまりにも根拠なしかつ身勝手で。

「相応しい、ですか」
「ああそうだ! 俺に相応しい女性はもっと美しく可憐で心が広くかつ少しばかり恥ずかしがり屋さんといったような女性だ」
「そうですか」
「お前の場合、一つも当たっていないだろう?」

 言いながらエンデルリバーグは鼻の穴を開いたり閉じたりしていた。

「まず美しさが足りない。お前の顔面偏差値は良く言っても中の上程度、俺に相応しいと言えるような美しさではない。また、可憐さも足りない。俺に相応しいくらい可憐な女性というのは、小さくても人々を魅了する花のような存在だ。お前にはそういう要素が欠片ほどもない」

 なぜ今さらそんなことを言われなくてはならないのか。
 見た目や雰囲気なんて短期間で変わるものではないのだから、婚約する前に理想に当てはまっているかくらい判別できただろうに。
 それが彼にとって重要な点であるならなおさら。
 彼が何よりも結婚相手に求めるものがそれなのなら、譲れない点について深く考えてから婚約するというのが真っ当な思考と行動だろう。

「しかもお前は心が狭い」
「と言いますと?」
「お前は俺がちょっと冗談を言っただけで真剣に受け止めて怒るだろう」
「……貴方の冗談は冗談とは思えないものなので、いつも」
「俺が冗談だと言えば冗談だ!!」
「そういう問題ではないと思います」
「ほら! そういうところだぞ! お前の心の狭いところは!」

 まず年下女に寛容さを求めるなよと思うのだが……、まぁ取り敢えずそれは脇に置いておくとしても、彼が冗談だと主張する冗談はいつも人を否定し傷つけるようなものだ。

 そんなことを言われて我慢できる人間なんてほとんどいないだろう。

「だからお前はくだらない人間なんだ。もう完全に嫌いになっ――」

 エンデルリバーグがそこまで言った、刹那。

「ぇ」

 突如窓が割れた。
 粉々になった硝子が視界を舞う。

「ぅ、そ、ぎゃああああああ!!」

 窓を割って室内に入ってきたのは蝙蝠に似た姿をした魔物の群れ。

「や、や、やめて! やめっ、や、やややっ、やめ……やめてええええええ! 襲わないでええええええ! 虐めないでえええええええ! や、やっ、やや、やっ……やだよおおおおおおお! うわあああん! やだああああああああ!」

 魔物に取り囲まれるエンデルリバーグ。

「うわああああん! 嫌だあああ! 怖い、こ、ここっ、怖いよおおおおおお! 虐めるのやめてえええええ! 嫌だあああああ! きっ、き、ききっ、汚い! 汚いし! 汁ついたしっ……うわあああああ! うわああああああん!」

 こうしてエンデルリバーグは私の目の前で魔物によって命を奪われたのだった。

 他者を傷つけるような生き方をしていればいつかこういうことになるのだ、と、改めて学んだ気がした。


 ◆


 幾つもの季節が過ぎ去って。

 穏やかな春がやって来た今日。
 私は大切な人と結婚式を挙げる。

 ここは新しい始まり。

 この先にもきっと様々な出来事があるだろう。私を。彼を。いろんな出来事が待っているだろう。嬉しいことや楽しいことは多くあるだろう。けれど、一方で、時には逆のようなこともあるかもしれない。

 でもきっと大丈夫。
 今はそう思える。

 彼と一緒にいられるならどんなことでも乗り越えられる。


◆終わり◆
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