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前編

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 自分でも思う。
 私はおっちょこちょいなところがある人間だと。

 でも。

「君との婚約は破棄するよ」

 婚約者である彼フォムリンにそう告げられた時は、さすがに驚いた。

「君みたいなドジ女とはやっていけないよ」

 確かに私は優秀ではない。が、婚約はそれでも成立した。そのため、彼はこんな私でもいいと思ってくれているのだと理解していたのだ。彼が私を嫌っているとは夢にも思わなかった。

「そうですか、残念です」
「は? 喧嘩売ってる?」
「いえ、純粋に。貴方といられなくなって悲しく思います」

 これは本心だ。
 できるなら彼といたかった。

 とはいえ仕方ないことだ。

 彼がそう決めてしまったのだ、私にできることはない。

「そうか。……まぁいい、これで終わりだよ」
「はい」
「いつまでそこに立っている気だい? 早く出ていってよ」
「あ、はい、そうですね」

 そうして私は部屋から出ていく。
 だが、早速、階段でつまづき落ちそうになった。

「……う」
「大丈夫ですか!?」

 危うく階段の一番下まで転落するところだったが、一人の男性に助けられた。

「あ……す、すみません。ありがとうございます」
「お怪我は?」
「ありません」
「それは良かった」

 男性はそう言って微笑む。

 あぁどうしてだろう。
 私は彼に惚れてしまいそうだ。

「ではこれで……」
「あの!」
「え? 何でしょうか」
「実は……」

 私を助けてくれた彼ブロームスは、前にとある茶会で私を見てから気になっていたのだと言う。
 でもなかなか声をかける機会がなかったらしくて。
 私が婚約破棄されたのを聞いて、それで、声をかけようと廊下に待機していたそうだ。
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