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前編

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「お前はリリエを虐めた! 許せることではない! よって、婚約は破棄とする!!」

 その日、私は告げられた。
 王子ウィクレーから。

 彼は冷ややかながら強い調子で私を切り捨てるという言葉を発した。

 ちなみに、リリエというのは彼の幼馴染の女性である。とはいえ詳しいことは知らない。顔を見かけたことはあるけれど、喋ったことがない。彼女との関係はそのくらいのものだ。

「待ってください! それは何かの間違いです! 私は虐めてなどいません」
「はぁ? お前の言葉なんぞ今さら信じるわけがないだろう。どこまで馬鹿なんだ」

 馬鹿、なんて、どうして言われなくてはならないのだろう。こちらに非はないのに。それに、失礼ではないか。馬鹿、なんて。彼は私になら何を言ってもいいと思っているのだろうか。

「馬鹿だと言われたとしても……それでも、私は虐めていません。もし虐めていたというのなら証拠を出してください」
「リリエを嘘つきだと言うのか!?」
「私とて、そうは思いたくありません。だからこそ証拠を求めるのです」
「証拠!? そんなもの、あるわけがないだろう!? お前がすべて消しただろう!?」
「いいえ、私は消してなどいません。そもそも何もしていませんし」

 証拠はないだろう。
 だって私は何もしていないから。

 だがウィクレーは証拠がないくらいでは理解を示してはくれず。

「まあいい! いずれにせよ、お前とはもう一緒にいたくない。よって! 婚約は破棄とする! 城から出ていけ」

 彼はそう言って強制的に私を城から追い出した。

 私は追放される形となってしまった。
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