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前編
しおりを挟む「今日とっても楽しかったな!」
「ええ!」
それは、近い将来婚約者となる青年ヴィッヴとまだ出会って間もなかった頃の記憶。
「美味しい店を紹介してくれてありがとう~」
「気に入ってくれたか?」
「ええ! とっても気に入ったわ! 美味しいし、おしゃれだし、素敵だったわ」
「なら良かったよ」
初デートはレストランへ行っての夕食だった。
「良い店色々知ってるからさ、また、近く色々紹介するよ」
「ええっ本当にっ!?」
「ああ。一緒に行こう」
「嬉しいわ! ありがとう!」
あの頃はすべてが輝いて見えた。
とにかく世界のあらゆるところが綺麗で色鮮やかで。
彼の顔すらもキラキラしているように感じていた。
でも――。
「婚約、破棄するわ」
婚約者となって数ヶ月が経った頃、ヴィッヴからいきなりそんなことを言われてしまって。
「え……」
「関係を終わりにしたいんだ」
気づいた時には彼の心は決まってしまっていて。
「もう決めたことだから。じゃ、そういうことで。さよなら」
終わってしまった……。
あんなに輝いていた世界、同じ風景を見ているはずなのに、今は白黒の荒んだ世界にしか見えない。
ヴィッヴのいない世界。
そんなものは想像していなかった。
人一人がいなくなるなんて珍しいことではないし、いつかは訪れる時――当たり前のことなのに。
ああ、どうして、こんなことにっ……。
その日からしばらくは一日に何回も泣いてしまっていた。
ただ、雨降りもいつかは終わるというもので。そんな日は来ないと思っていたのだけれど、その日はやって来た。
というのも、新たな出会いがあったのだ。
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