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前編

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「君との婚約は本日をもって破棄とする! いいな、伝えたぞ。君とはもう関わりたくない。泣こうが喚こうが無駄だ、もう二度と俺の前に現れるな!」

 赤毛の婚約者ポインタスはある日突然そんなことを告げてきた。

 しかも、人のいるところで。

 わざわざ無関係の人がいるところで伝えなくても……と思う部分はあったのだが、まぁ、彼としては誰かがいるところで宣言したかったのだろう。

 私に恥をかかせるためか?

 現に今私は笑われている。
 くすくす、という慎ましくもいやらしい小さな笑い声が聞こえてくる。

 だがここで怒っては相手の思う壺。

「そうですか。承知しました。では、失礼しますね」

 そう返し、私は彼の前から去ることを選んだ。

 笑われたって気にしない。ポインタスの家の近く、どのみちここへ来ることはもうないのだから。私を馬鹿にして笑っている人たちとだって、きっともう会わないだろう。ここは私の活動地域から離れている。

 ポインタスとも、彼の暮らす地とも、もうお別れ。

 さようなら、だ。
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