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6話 猫と戯れ
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「……遅くない?」
帰宅すると、家の前でリリィが野良猫と戯れていた。
私を見つけるや否や不満げな空気を漂わせてくる。
「そう? いつもと大差ない気がするけど……」
そもそも、リリィは私の帰宅時間なんて知らないではないか。昨日まで知り合いでなかったのだから。彼女の中に私の帰宅時間の記憶はないはず。何をもって遅いと言っているのか謎である。
「で、どうして野良猫と遊んでるの?」
「……待ってたわけじゃないし」
非常に分かりやすい。
私はなぜ野良猫と遊んでいるのかと尋ねただけ。それなのに彼女は、わざわざ、待っていたわけではないなどと返してきた。それはつまり、待ってくれていたということだろう。
「あ、そっか。待ってくれてたんだ。ありがとう」
「違うってば!」
リリィは鋭く放つ。
否定すればするほど私は確信を得るのだが、それで良いのだろうか。
「……あたし、もう戻るから」
「私も戻るー」
「ふん」
「ごめんごめん。もー怒らないでー」
くるりと向きを変えると、セミロングの髪がふわりと揺れていた。
今日もリリィの髪はエメラルドグリーンのまま。幻想的な色だ。でも似合っている。とても美しい。彼女とは別にまた一つの花が咲いているかのよう。
ずっと眺めていたい。
そんなことを思いつつ、私は彼女の背を追うように家に帰った。
「お帰り、日和」
「ただいま」
「リリィちゃん、ずっと外で待ってたわよ」
「え。やっぱり……」
その日の晩、自室でリリィと二人きりになったので、いくつか質問をしてみることにした。
主に、リリィがいたという悪の組織について。
「リリィちゃんがいた悪の組織って、この世界で活動してたの?」
偶々近くにあったクッキーの箱を雑な音を立てつつ開ける。箱を開けると、二つの袋。次はそれの片方を開ける。ギザギザになっている端を指でつまみ、手を微かに捻りをかけるように動かす。
勢いはある程度必要だが、乱雑にしてはいけない。
中身が飛び散らないよう慎重に手を動かす必要がある。
「……こことは少し、違うところ」
リリィはベッドに腰を下ろした体勢のまま小さく言葉を発した。
今のところ会話は成り立っている。
「違うところ。えっと、じゃあ、別の世界、とか?」
「ま、そんな感じかも」
「そっか。それで、どんなことをするの? 戦うの?」
中袋を開けるとようやくクッキーが露出する。
数枚のうちの一枚を掴み、リリィへ差し出す。
「どうぞ」
笑顔付きで差し出す。
しかし受け取ってもらえない。
「……取り敢えずお菓子あげとけ、とか、馬鹿みたい」
リリィはなぜか冷めていた。
なぜだ。
「そうじゃないってー」
「要らない」
「でも甘いの好きでしょ? パフェ美味しそうに食べてたよね」
「……それとこれとは別」
「えー。美味しいのに」
仕方がないので自分で食べておくことにした。
幸いこのクッキーは好物なので、食べることに関する苦労はない。
口に含んだ瞬間のややざらついた舌触り。口腔内を軽やかに満たす、自然派な甘み。噛むと感じられるほくほく感。味も食感も香りも良い、これはクッキーの最高峰。
「話を戻すね。どんなことをするの?」
「人の負の感情を特殊な術で増大させたり、人から希望を奪い取ったり、偽善者と戦ったり」
予想外な長文が返ってきた。
いや、普通の人で考えれば、このくらい喋るのは普通なのだが。ただ、リリィの場合は日頃短文での返答が多いので、そういう意味で予想外だったのである。
「他にも色々ある、けど、正直思い出したくない」
「そう……」
リリィにとっては汚れてしまった過去の記憶なのだろう。ならば、豪快に掘り起こすのは避けておいた方が良いかもしれない。少なくとも、無理に思い出させるような質問をするのは避けておいた方が無難だろう。でないと、うっかり傷つけかねない。
「……幻滅した?」
「そんなことない! リリィちゃんはリリィちゃんだから」
「ホントのこと言って。幻滅したでしょ、最悪って」
「最悪なんて思ってないよ! 本当に!」
それ以上悪の組織について聞くのはやめた。
自分のためにリリィを傷つけるのは嫌だったから。
帰宅すると、家の前でリリィが野良猫と戯れていた。
私を見つけるや否や不満げな空気を漂わせてくる。
「そう? いつもと大差ない気がするけど……」
そもそも、リリィは私の帰宅時間なんて知らないではないか。昨日まで知り合いでなかったのだから。彼女の中に私の帰宅時間の記憶はないはず。何をもって遅いと言っているのか謎である。
「で、どうして野良猫と遊んでるの?」
「……待ってたわけじゃないし」
非常に分かりやすい。
私はなぜ野良猫と遊んでいるのかと尋ねただけ。それなのに彼女は、わざわざ、待っていたわけではないなどと返してきた。それはつまり、待ってくれていたということだろう。
「あ、そっか。待ってくれてたんだ。ありがとう」
「違うってば!」
リリィは鋭く放つ。
否定すればするほど私は確信を得るのだが、それで良いのだろうか。
「……あたし、もう戻るから」
「私も戻るー」
「ふん」
「ごめんごめん。もー怒らないでー」
くるりと向きを変えると、セミロングの髪がふわりと揺れていた。
今日もリリィの髪はエメラルドグリーンのまま。幻想的な色だ。でも似合っている。とても美しい。彼女とは別にまた一つの花が咲いているかのよう。
ずっと眺めていたい。
そんなことを思いつつ、私は彼女の背を追うように家に帰った。
「お帰り、日和」
「ただいま」
「リリィちゃん、ずっと外で待ってたわよ」
「え。やっぱり……」
その日の晩、自室でリリィと二人きりになったので、いくつか質問をしてみることにした。
主に、リリィがいたという悪の組織について。
「リリィちゃんがいた悪の組織って、この世界で活動してたの?」
偶々近くにあったクッキーの箱を雑な音を立てつつ開ける。箱を開けると、二つの袋。次はそれの片方を開ける。ギザギザになっている端を指でつまみ、手を微かに捻りをかけるように動かす。
勢いはある程度必要だが、乱雑にしてはいけない。
中身が飛び散らないよう慎重に手を動かす必要がある。
「……こことは少し、違うところ」
リリィはベッドに腰を下ろした体勢のまま小さく言葉を発した。
今のところ会話は成り立っている。
「違うところ。えっと、じゃあ、別の世界、とか?」
「ま、そんな感じかも」
「そっか。それで、どんなことをするの? 戦うの?」
中袋を開けるとようやくクッキーが露出する。
数枚のうちの一枚を掴み、リリィへ差し出す。
「どうぞ」
笑顔付きで差し出す。
しかし受け取ってもらえない。
「……取り敢えずお菓子あげとけ、とか、馬鹿みたい」
リリィはなぜか冷めていた。
なぜだ。
「そうじゃないってー」
「要らない」
「でも甘いの好きでしょ? パフェ美味しそうに食べてたよね」
「……それとこれとは別」
「えー。美味しいのに」
仕方がないので自分で食べておくことにした。
幸いこのクッキーは好物なので、食べることに関する苦労はない。
口に含んだ瞬間のややざらついた舌触り。口腔内を軽やかに満たす、自然派な甘み。噛むと感じられるほくほく感。味も食感も香りも良い、これはクッキーの最高峰。
「話を戻すね。どんなことをするの?」
「人の負の感情を特殊な術で増大させたり、人から希望を奪い取ったり、偽善者と戦ったり」
予想外な長文が返ってきた。
いや、普通の人で考えれば、このくらい喋るのは普通なのだが。ただ、リリィの場合は日頃短文での返答が多いので、そういう意味で予想外だったのである。
「他にも色々ある、けど、正直思い出したくない」
「そう……」
リリィにとっては汚れてしまった過去の記憶なのだろう。ならば、豪快に掘り起こすのは避けておいた方が良いかもしれない。少なくとも、無理に思い出させるような質問をするのは避けておいた方が無難だろう。でないと、うっかり傷つけかねない。
「……幻滅した?」
「そんなことない! リリィちゃんはリリィちゃんだから」
「ホントのこと言って。幻滅したでしょ、最悪って」
「最悪なんて思ってないよ! 本当に!」
それ以上悪の組織について聞くのはやめた。
自分のためにリリィを傷つけるのは嫌だったから。
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