33 / 79
33話 初日から漢字練習
しおりを挟む
夏休み初日、私は勉強机の前の椅子に腰を下ろす。机の横に掛けてある鞄から取り出すのは、ノートやテキスト、プリントなど。つまり、夏休みの宿題、というやつである。
夏休みの宿題は今年もそこそこ多く、科目も色々。
どれから手をつけるか悩むのがもはや恒例だ。
漢字練習ややたらと枚数が多い計算プリントはそれほど頭を使わないが、その代わり、量が多くてどうしても日数がかかってしまいがち。思い立った時に一気に仕上げるというのは難しい。それゆえ、少しずつでも、毎日着実に進めていく必要がある。
「それは何?」
リリィは早速興味を持っていた。
どうやら彼女は夏休みの宿題というものを知らないようだ。
「宿題で使うノートだよ!」
「ふーん……そう。で、そこに何を書くワケ」
「漢字を書くよ! このテキストに書かれてる漢字を一つずつここに写して……」
「何が楽しくてそんなことするの」
リリィは私が座っている椅子の真横に立って勉強机の上を眺めつつ話しかけてくる。彼女が放つ視線は机の上と私の顔面を何度も行き来していた。
「何が楽しくてーって、私だって同じ気持ち! 楽しいからやってるわけじゃないよ」
正直なところを明かすと、リリィは少し首を傾げる。
「……強制されてるってこと?」
この世のことにあまり親しみがないリリィにとっては、やりたくもない宿題をやらなくてはならないということ自体が理解できないのかもしれない。
「まぁそんな感じかなぁ。必要だからしなくちゃならないことではあるんだけど」
「ふーん」
「だから頑張る!」
「そ。じゃ、あっちで教科書読んどくから」
そう言って、リリィはベッドの方へ移動していった。
ちなみに教科書というのは私の昔の教科書である。彼女が最近気に入って読んでいるものだ。前に一度教科書を貸してから、彼女はことあるごとに教科書を読むようになった。
今やリリィの暇潰しのお供は私の過去の教科書だ。
私は改めて机に向かう。シャーペンを手に取れば、漢字練習開始。決められている漢字や漢字数文字の単語を、ノートへ、着実に書き写していく。もちろん一回ずつではない。一つにつき最低でも三回くらいは書かなくてはならない。かなり地道な作業である。
手首が痛くなりそう……。
始めた直後から嫌な予感がするが、だからといってさぼるわけにもいかないので、取り敢えず手を動かすことに集中するしかない。
ただ、この漢字練習に楽しさがまったくないかというと、案外そんなこともない。
少しずつではあるけれど確実にノートが埋まっていく感覚がたまらない。一枚めくるたび、特別な何かを得られたような気がして。独特の達成感がある。手が疲れていくことは確かでも、何かが満ちてゆくような心地よい感覚も味わえる。
それから一時間ほど、私は漢字練習の作業継続した。
その間リリィはベッドに伏せるようにして過去の教科書を熟読していた。
「一旦終わりっ!」
肩が痛だるく疲れたので、ひとまずここで終わることにした。
大きな背伸びをする。
「終わったの」
「うん! 一旦ね!」
「……そう」
「静かにしてくれてありがとっ」
「べつに。そのくらい礼は要らないから。……べつにたいしたことはしてないし」
夏休みの宿題は今年もそこそこ多く、科目も色々。
どれから手をつけるか悩むのがもはや恒例だ。
漢字練習ややたらと枚数が多い計算プリントはそれほど頭を使わないが、その代わり、量が多くてどうしても日数がかかってしまいがち。思い立った時に一気に仕上げるというのは難しい。それゆえ、少しずつでも、毎日着実に進めていく必要がある。
「それは何?」
リリィは早速興味を持っていた。
どうやら彼女は夏休みの宿題というものを知らないようだ。
「宿題で使うノートだよ!」
「ふーん……そう。で、そこに何を書くワケ」
「漢字を書くよ! このテキストに書かれてる漢字を一つずつここに写して……」
「何が楽しくてそんなことするの」
リリィは私が座っている椅子の真横に立って勉強机の上を眺めつつ話しかけてくる。彼女が放つ視線は机の上と私の顔面を何度も行き来していた。
「何が楽しくてーって、私だって同じ気持ち! 楽しいからやってるわけじゃないよ」
正直なところを明かすと、リリィは少し首を傾げる。
「……強制されてるってこと?」
この世のことにあまり親しみがないリリィにとっては、やりたくもない宿題をやらなくてはならないということ自体が理解できないのかもしれない。
「まぁそんな感じかなぁ。必要だからしなくちゃならないことではあるんだけど」
「ふーん」
「だから頑張る!」
「そ。じゃ、あっちで教科書読んどくから」
そう言って、リリィはベッドの方へ移動していった。
ちなみに教科書というのは私の昔の教科書である。彼女が最近気に入って読んでいるものだ。前に一度教科書を貸してから、彼女はことあるごとに教科書を読むようになった。
今やリリィの暇潰しのお供は私の過去の教科書だ。
私は改めて机に向かう。シャーペンを手に取れば、漢字練習開始。決められている漢字や漢字数文字の単語を、ノートへ、着実に書き写していく。もちろん一回ずつではない。一つにつき最低でも三回くらいは書かなくてはならない。かなり地道な作業である。
手首が痛くなりそう……。
始めた直後から嫌な予感がするが、だからといってさぼるわけにもいかないので、取り敢えず手を動かすことに集中するしかない。
ただ、この漢字練習に楽しさがまったくないかというと、案外そんなこともない。
少しずつではあるけれど確実にノートが埋まっていく感覚がたまらない。一枚めくるたび、特別な何かを得られたような気がして。独特の達成感がある。手が疲れていくことは確かでも、何かが満ちてゆくような心地よい感覚も味わえる。
それから一時間ほど、私は漢字練習の作業継続した。
その間リリィはベッドに伏せるようにして過去の教科書を熟読していた。
「一旦終わりっ!」
肩が痛だるく疲れたので、ひとまずここで終わることにした。
大きな背伸びをする。
「終わったの」
「うん! 一旦ね!」
「……そう」
「静かにしてくれてありがとっ」
「べつに。そのくらい礼は要らないから。……べつにたいしたことはしてないし」
0
あなたにおすすめの小説
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」
masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。
世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。
しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。
入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。
彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。
香織は、八重の親友。
そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。
その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。
ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。
偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。
「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。
やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。
その中で、恋もまた静かに進んでいく。
「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。
それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。
一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。
現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。
本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
女子小学五年生に告白された高校一年生の俺
think
恋愛
主人公とヒロイン、二人の視点から書いています。
幼稚園から大学まである私立一貫校に通う高校一年の犬飼優人。
司優里という小学五年生の女の子に出会う。
彼女は体調不良だった。
同じ学園の学生と分かったので背負い学園の保健室まで連れていく。
そうしたことで彼女に好かれてしまい
告白をうけてしまう。
友達からということで二人の両親にも認めてもらう。
最初は妹の様に想っていた。
しかし彼女のまっすぐな好意をうけ段々と気持ちが変わっていく自分に気づいていく。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる